修学旅行の重大事故 安全確保の難しさ ーー新学習指導要領でリスクが高くなる?
■死亡事故が続けて発生
修学旅行でアメリカを訪れていた奈良県の私立中学校の3年男子生徒が、ハイキング中に崖から転落し、死亡した。現地時間の先月29日に、ホストファミリーの男性とともに遺体で発見された。ハイキングに教員の同行はなかったという(NHK NEWS WEB)。
今年は、9月にも修学旅行中の死亡事故があった。島根県出雲市立小学校の6年女児が、9月29日の夜に、滞在先のホテルで入浴中に溺れて命を落とした。保護者から事前に体調面のことで相談があったものの、付き添いの教員は、女児の溺水には気づかなかったようである(産経WEST)。
悲しい出来事が2件続いた。本記事では、修学旅行をはじめ、学校外での自然体験活動や宿泊を伴う活動について、そのリスク・マネジメントの難しさと、今日そのリスクが高まる可能性があることを指摘したい。
■校外活動中の重大事故
修学旅行をはじめ、学校外での自然体験活動や宿泊を伴う活動は、普段の学校生活とはまったく異なる環境で実施される。平穏な学校生活とは対照的に、一つひとつの場面が非日常的で、予測が困難で、不確実性が高い。総じて、事故のリスクは大きくなる。
今回のアメリカで起きた事案は、ハイキング中の事故であった。自然体験活動は、つねに自然の脅威と隣り合わせである。
2013年の5月に、滋賀県の赤坂山において学校行事で登山中の小学校6年生男女2名が行方不明となり、翌日無事に発見された事案は、記憶している読者も多いだろう。その他、重大事故を拾い上げると、たとえば2011年10月に千葉市でウォークラリーをしていた中学2年女子が崖下に転落して頭部外傷により死亡、2010年6月に静岡県の浜名湖でカッターボートに乗っていた中学1年女子が天候悪化による転覆で溺死するという事故などが起きている。
あるいは冬山のスキー体験・練習においても、今年2月に広島県で体育の授業時に小学6年女児がスノーボーダーと衝突して死亡、2013年3月に長野県で部活動時に小学5年男児が圧雪車に巻き込まれ死亡、また同じく2013年に小学6年女児が突然死で死亡している[注1]。
■安全確保の難しさ
学校外での自然体験活動や宿泊を伴う活動では、子どもたちは非日常的な環境のもと、高いリスクにさらされる。それゆえ、安全に活動を進めるためには、日常の何倍もの注意・配慮が必要になる。だが、学校の現状を考えれば、そのようなリスク・マネジメントを可能にするほどに、学校側の人員に余裕があるわけではない。
学校管理下での校外活動では、「一人の教員+30~40人の児童生徒」という学級の日常を、そのまま校外にもっていかざるをえない。普段の平穏な学校生活であれば、「一人の教員+30~40人の児童生徒」でやっていける。だが校外活動の場合、リスクの高い環境のもとで、さらに担任一人で30~40人の子どもを管理しなければならないのだ。もちろん副担任や管理職、養護教諭らが同行すれば、いくらか大人の数は増えるものの、それでも圧倒的に子どもの数のほうが多い。
子どもが小学生くらいの年齢だと、個々の家庭で保護者が子どもを連れて出かけるとき、たとえば子ども2人に保護者が1人や2人付く。それでも重大事故が起きる。ましてや、30~40人学級の日常をそのまま校外にもっていくことの、リスクの高さは言うまでもない。これでは教員がどんなに頑張ったとしても、すべての子どもへの丁寧な目配りは難しい。
このように、圧倒的に人的資源(大人の目)を欠いていると、事故は起きやすくなる。さらにその責任は、学校が負わなければならない。教員には、あまりに過酷な現実である。そしてその最大の被害者は、子どもたちである。
■校外活動の日数を増やそうという動き
校外活動において、学校は現時点ですでに、リスク・マネジメントが困難な事態に陥っている。にもかかわらず、校外活動の日数を大幅に増加させようとする動きがある。
現行の小学校学習指導要領(2008年度改訂)解説の特別活動編には、「集団宿泊活動については、望ましい人間関係を築く態度の形成などの教育的な意義が一層深まるとともに、高い教育効果が期待されることなどから、学校の実態や児童の発達の段階を考慮しつつ、一定期間(例えば1週間(5日間)程度)にわたって行うことが望まれる」と、「1週間(5日間)程度」という言葉が明記されている。
従来は実態として年間1泊や2泊であった宿泊の行事を、一気に5日間へと拡大しようというのだ。だが、だからといって、そこに事故防止に特化した積極的な資源(ヒト、モノ、カネ)の投入が約束されているわけではない。
■今後の新しい学習指導要領においても日数増大?
上述した現行の学習指導要領は、近く改訂される。中央教育審議会が8月に発表した「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」には、集団宿泊活動について次のような記載がある。
「より長期間の活動とすることも考えられる」とあるように、校外活動の日数をいっそう増大させることが提案されている。ただでさえ、リスク・マネジメントが困難な状況において、さらにその活動日数を増やそうというのだ。子どもの安全を確保するためには、現時点ですでに、資源を使い果たしている。資源の追加投入なくして、校外活動の拡大はない。
たしかに校外に出れば、普段とは異なる学びが得られるだろう。それを大事にするのであれば、校外活動を実施するにあたって、どのような追加的な支援が必要なのか、しっかりと検討していかなければならない[注3]。
図らずも昨日、財務省による「公立小中学校の教職員 4万9000人削減案」(NHK NEWS WEB)が大きく報じられた。子どもの活動をしっかりと見届けるためには、もっと多くの大人の目が必要である(それは教職員に限らなくてもよいかもしれない)。子どもの活動に、しっかりと注意と配慮を向けてくれる大人の確保こそが、子どもの安全確保につながっていく。
[注1]
幼稚園における校外活動中の重大事故事例については、こちらの拙稿を参照。
[注2]
「イングリッシュ・キャンプ」とは、英語でのコミュニケーション活動を中心にして展開される自然体験活動を指す。「通学合宿」とは、地域の公民館などで一定期間寝泊まりして共同生活をおこないながら学校に通う活動を指す。
[注3]
もちろん、校外活動を縮小するという案もありうる。