「もう国には頼らない」イギリスの成功事例に学ぶ 減塩や食品ロス削減
イギリスには、医学者や栄養学者が設立した「CASH」(塩と健康に関する国民会議)という第三者機関があり、食品に塩を使いすぎないよう業界に働きかけ、減塩に成功したことが2018年9月13日付朝日新聞で紹介されている。
この成功の背景には、独立した第三者機関が取り組んだことがあるだろう。
米国では民間企業が減塩に取り組み
筆者が14年5ヶ月勤めていたグローバル食品メーカー(本社:米国)では、2008年、米国本社から、全世界180カ国に通達があった。一食あたりの栄養成分の基準を決め、これを上回るものはマーケティング活動を禁止する、というものである。この時のナトリウムの基準は、一食あたり230mgで、食塩に換算すると、0.58g。醤油や味噌など、塩分が食文化の根底にある日本や、韓国・インドなどのアジア諸国では、この基準を達成することに非常に苦心した。
米国では、食塩摂取量を減らすことにより死亡率減少に貢献する、ということで、当時、非常に熱心だった。
イギリスでは政府から独立した機関「WRAP(ラップ)」が食品ロス削減を先導
イギリスでは、2000年、政府機関の財政支援で設立したWRAP(ラップ)という団体がある。食品廃棄に関する調査を実施し、データに基づき、消費者への啓発活動や、事業者への提言などを行っている。
筆者は、2017年2月、イギリスとフランスへ食品ロスの視察に渡航した。食品ロス分野の専門家で、愛知工業大学の小林富雄教授にお声がけいただき、自費参加し、その際、WRAPを訪問した。
日本では、各省庁が「白書」を発行する。WRAPの方に、「イギリスのWRAPは、なぜ政府から独立させたのか」とたずねたところ、「より具体的な調査を行い、消費者啓発に役立てるため」といった趣旨の答えが返ってきた。
2000年の設立した直後、食品ロスに関する国民の無関心層は、実に90%に及んだとのこと。2017年2月時点では「無関心層が60%まで減少した」とお話されていた。
日本でも京都市や神戸市が食品ロス調査や実証実験
イギリスの成功事例を見ると、「国がやらないから・・・」などと言うのでなく、国とは別の組織が調査や啓発などに取り組む必要があると考える。
実際、日本でも、京都市が、「宴会で幹事が食べ残しをしないようにと声がけした場合とそうでない場合では食べ残しがどう変わるか」の実証実験を実施し、声がけした方が減るというデータが得られている。京都市は、スーパーでも、賞味期限の手前に存在する販売期限が食品ロスを全国数百億円生み出していることに着目し、「販売期限で商品棚から撤去するのではなく、賞味期限ギリギリまで販売したらどうなるか」の実証実験を行い、その結果、食品ロスが減り、売上が上がるという結果を出している。
兵庫県神戸市では、食品ロスに関する詳細な実態調査を行い、各家庭で、食品ロスの調査を進める週ごとに、ロスが減っていくという傾向を見出している。意識にのぼると残しにくくなるということだ。
「もう国には頼らない」
冒頭の記事で、青森県職員の方は、減塩を達成するために、下記のことを述べている。
「産官学が一体となって」は賛成だ。ただ、イギリスが、国から独立した第三者機関の働きかけによって成功している事例があるのに、なぜ「国がリードすべき」という提言になるのか、理解に苦しむところがあった。
もちろん、こうした動きに関し、各国の政府が全く関与していないわけではない。前述の、米国の民間企業の減塩運動の背景には、当時、オバマ大統領のミシェル夫人が民間企業に対し、製品自体の栄養価を改善するよう、積極的に働きかけたことがある。政府の力は大きい。
でも、もう国には依存し過ぎない。日本で頻発する自然災害への対応を見るに、「頼れない」というのが本音かもしれない。
関連資料:
食品ロス削減に関するフランス とイギリスにおける取り組み ―日本への示唆の観点から― 専修大学商学部 渡辺達朗氏
映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』(第69回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作)とフードバンク
18ヶ月以上日持ちする食品は「年」表示のイギリス 3年以上日持ちする食品にも「年月日」表示する日本
記事中の仏英渡航の内容と写真、トップ画像に関して:筆者撮影