高校生が発明した記憶強化付箋の特許について
「”記憶力がアップ"新発想ふせん 生徒のアイデアが特許取得、学校から大口注文も」という記事を読みました。高校生が発明した「記憶定着のためのベストな復習のタイミングが一目で分かる付箋」が特許化されているというお話です。
どのような特許なのか内容を見てみましょう。特許番号は7057055号、発明の名称は「学習用付箋、学習用付箋セット、及びコンピュータプログラム」、出願日は、2021年9月7日(国内優先の優先日は2021年7月1日)、登録日は2022年4月19日です(早期審査請求をしています)。
アイデアは非常にシンプルで、下図に示すように、付箋に次に復習すべき複数の日付が予め印刷されており、復習が完了した時にその日付部を切り離すことで、次の復習日付が容易にわかるというものです。このように適切な間を置いて復習をすることで記憶を定着できるという仕組みです。
こんなシンプルなアイデアで特許化できるのかと考える方もいるかもしれません。
記憶強化法そのものについてのアイデアであれば特許法上の発明(自然法則を利用した技術的アイデア)に該当しないので特許の対象にはなりません(そもそも今回の付箋の元になったアイデアはドイツの心理学者エビングハウスが提唱した公知のものですが、仮にまったく新しいアイデアであったとしても記憶強化法というだけでは発明に該当しないという理由により特許化はできません)。
また、単に紙上に学習計画表のようなものを印刷してあるだけでは、単なる情報の提示として特許の対象にはならない可能性があります。今回のケースは切り離し可能な部分を含む付箋という物理的特性を有しているからこそ特許の対象である発明になり、かつ、過去に同種の付箋があったことが発見されなかったので新規性・進歩性もクリアーして特許化できたわけです。
請求の範囲(クレーム)の請求項1は以下のようになっています。
【請求項1】
付箋紙本体と、前記付箋紙本体に接続され、前記付箋紙本体から順次切り離し可能な複数の切離部とを含む付箋紙を備え、
前記切離部のそれぞれには、前記付箋紙が被貼付体に貼付されている状態において視認可能であって、学習の開始時点からの経過時点を示すタイミング情報が示されている表示領域が設けられ、
前記表示領域のそれぞれには、先に切り離される前記切離部の前記表示領域に示されているタイミング情報が示す経過時点よりも後の経過時点を示すタイミング情報が示されている、
学習用付箋。
基本的アイデアをすべてカバーする広範囲のクレームとなっています。上記記事によると、製品化における改良として「日付部分をちぎるためのミシン目をなくした」そうですが、上記の請求項1では「ミシン目で切り離す」という限定はないので、この改良バージョンもカバーされます(ミシン目で切り離し可能という限定は従属クレームで行われています)。
仮に試作品がミシン目で切り離す構造になっていたとしても、それに引っ張られて主クレームに「ミシン目で切り離し可能になっている」とクレームに書いてしまうと、必要以上に権利範囲を限定してしまいます。このように、実装に引っ張られずに、発明の本質を見抜いてできるだけ広い範囲の特許化を目指すのが弁理士の腕の見せ所の一つです。