日本電産の関CEO降格の内幕 「最強経営者」永守氏に何が起きたのか
業績は過去最高を更新
モーター大手の日本電産は21日、昨年6月にCEOに就いた関潤社長がCOOに降格する人事を発表した。後任のCEOには創業者である永守重信会長が復帰する。人事は4月21日付。
同時に発表した2022年3月期決算は、売上高が前年同期比18・5%増の1兆9181億円、営業利益が7・2%増の1714億円、当期純利益が12・2%増の1368億円となり、いずれも過去最高を更新した。
23年3月期も増収増益を見込み、業績が堅調に推移する中で、関氏が降格する表向きの理由は、業績をけん引すべきEV向けトラクションモーターなどの車載事業で先行投資コストが増えたために減益になったことに加え、高く設定されている社内計画通りに業績が伸びていないことだが、蜜月だった永守氏と関氏の間に「すきま風」が吹いていると見て、間違いない。
永守氏の任命責任
永守氏と関氏の関係がぎくしゃくし始めたのは昨年秋ごろから。経営方針を巡って、短期的な収益と株価を第一に考える永守氏と、2030年に目指している10兆円の売上高達成のために全ての判断を永守氏に依存する組織風土の改革なども同時並行で進めたい関氏との間に食い違いが出始めた。
こうした状態を受けて、永守氏は幹部社員に対して以下のようなメールを送り付けたという。
「今のやり方は甘い。今後、車載事業は私が直接指揮する。低収益、低成長、低株価の3T企業で、そこそこやれる人材をトップに据えたのが私の間違いだった。任命責任は私にある。日本電産は、高収益、高成長、高株価の3K企業であり続けるので、3T企業とはやり方がちがう」
このメールが外部に流出、そのままに近い形で今年1月に米ブルームバーグが配信し、両トップの関係悪化が世間の知るところとなった。さらに、「関氏が日産から連れてきた幹部も日曜日に事実上のコアタイムがある独特の労働慣行や、永守氏の手法についていけないことなどから退社し始めていた」(関係者)
永守氏の2つの誤算
その1月以降は、関氏はほとんど日本にいることはなく、海外に滞在していた。一方、永守氏は今年2月には三菱商事元役員を後継候補に迎え入れ、関氏退任の流れを作ったが、永守氏にとって想定外だったのが海外の機関投資家の動きだった。「後継者問題のある企業の株は保有できない」と言う投資家が出始めたのだ。
これまで日本電産は、カルソニックカンセイ社長だった呉文精氏、シャープ社長だった片山幹雄氏、日産タイ法人社長だった吉本浩之氏を後継候補として採用したが、いずれも長続きせずに退任に追い込まれた。
過去のケースでは、後継候補が退任に追い込まれると、永守氏が再び経営の最前線で指揮を執ることで業績が上向くとの観測から機関投資家も創業者の復帰を前向きに評価してきたが、今回は違った。77歳になる永守氏が肉体的にも精神的にも負荷がかかるCEOを続けることにリスクがあると投資家は判断したのだ。
「脱永守商店」が課題
こうした状況を受け、日本電産の株価は一時の勢いがなく、低迷。日本企業の時価総額ランキングでも常にトップ10に入っていたのが、直近では30位前後に沈んだままだ。
もう一つ永守氏には誤算が起こった。過去のケースでは、外部からの招へいした後継候補が退任する時には、誰も慰留しなかったのに、今回は創業以来の永守氏の腹心である小部博志副会長ら一部の役員が、関氏の退任に反対し関氏を慰留した模様だ。
日本電産の現状は、同社が「永守商店」から脱していないことを意味する。永守氏がいかに優れたスーパー経営者でも、年齢的に見てこれまで通りやることは不可能だろう。裸一貫で日本電産を世界的なモーター企業に育て上げた永守氏の洞察力と経営手腕には感服するばかりだが、その「永守重信」という経営力が、むしろ弱みになりつつあるように見えて仕方ない。
永守氏もその点を自覚しているのか、5月1日付でチーフオフィサー制を導入し、腹心の小部氏が最高業績管理責任者(チーフパフォーマンスオフィサー=CPO)に就くなど機能分担を進め、「永守依存度」を軽減する体制を構築しようとしている。
また永守氏が社内向けに発したメールでは「車載事業は私が直接私が指揮する」としていたが、一転し、関氏に車載事業本部長を兼任させ、日本電産の将来を担う事業の早期の高収益化を任せ、結果次第でCEOへ復帰させる可能性があることも示唆した。