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木村拓哉主演『レジェンド&バタフライ』入門 織田信長は本当に髑髏(ドクロ)の盃で酒を飲んだのか?

濱田浩一郎歴史家・作家

木村拓哉さん主演の映画『レジェンド&バタフライ』(以下、『レジェンド』と略記)が公開され、話題を集めています。木村さんが演じるのは、戦国武将・織田信長。信長にまつわる逸話として有名なものには「髑髏盃」があります。

信長は煮え湯を飲まされてきた近江の浅井久政・長政(妻は信長の妹・お市の方)、越前の朝倉義景を天正元年(1573)に滅亡に追い込みます。その翌年(1574)の正月、信長がいる岐阜に諸将が挨拶にやって来て、酒宴となるのですが、諸将が退出した後に「事件」は起こります。

信長は、人々が未だ見聞したことのないような、世にも珍しい「酒のさかな」を持ってこさせたのです。ちなみに『レジェンド』では、信長ではなく、ある人物がその役割を担うことになるのですが「ネタバレ」になるので、ここでは言いません。是非、映画館で確認してほしいと思います。

さて、信長が持って来させた「酒のさかな」とは何か?それは、討ち取った朝倉義景、浅井久政・長政の首(髑髏)を漆(うるし)で固め、彩色したものだったのです。

時代劇や映画によっては、髑髏は盃にされていて、信長は酒をそれで呑んだと描くものもありますが『信長公記』(信長の家臣・太田牛一が記した信長の一代記)には、盃にしたとの記述はありません。ただ、3人の首を折敷(盆)の上に置き、それを眺めつつ、酒を呑み、謡いをして遊興したとあるのみです。

つまり「髑髏杯」は後世の創作だったと言えましょう。それにしてもなぜ、信長は髑髏に彩色したものを酒宴の場に出したのか?

彼らに敬意を示したのではとの説もありますが、『信長公記』を見ていると、私にはそのようには思われません。信長は彼らに強烈な恨みを持っていて、例えば、浅井長政の10歳になる嫡男を探し出して、関ヶ原で磔(はりつけ)にしています。

『信長公記』は、そのことを信長は「長年のご無念を晴らされた」と記すのです。よって、信長が3人の髑髏に彩色し酒席に出してきたことも、その一環だったように私には感じられます。

歴史家・作家

1983年生まれ、兵庫県相生市出身。皇學館大学文学部卒業、皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『北条義時』『仇討ちはいかに禁止されたか?』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)ほか著書多数

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