【新茶直前!号外①】今年の新茶は早い?鹿児島「知覧」からレポート
三度の飯よりお茶が好き!
インスタグラムで四季折々の茶産地の茶畑(写真)を定点観測するのが日課!
日本茶ナビゲーターのTomokoです。
つい先日、目に飛び込んできたのは「えっ?もうお茶の新芽がこんなに出ている!!!」という驚きの写真でした。
写真に添えられた生産者さんのコメントも、心なしかソワソワ、アタフタしています。
他の地域でもそんな風に投稿されていたので、もしかして今年の新茶の時期はとても早いのでは?と、急遽、取材することにしました。
今回から【号外】として3回にわたり、鹿児島・京都・静岡の新茶直前情報をお届けします。
第1号は、南の鹿児島「知覧(ちらん)」の状況をレポートします。
そもそも「新茶」って何?
「新茶」とは、「その年の一番最初に採れたお茶のこと」です。
昔から「初物(はつもの)」を食べると長生きするとも言われ、そのシーズンの初めに採れたものを貴重なものとしてありがたくいただく日本の食文化。
では、「新茶」と「一番茶」の違いは?
冬の間養分を蓄えじっと待っていたお茶の木が春になると、元気に芽を出し、それを摘んだものが「一番茶」と呼ばれ、その年初めてのお茶という意味で「新茶」と呼ばれます。呼び方の違いです。
「一番茶」というのは、その次に続く「二番茶」「三番茶」などと区別するための呼び方です。
お茶の木は一番茶が摘み取られた後も、どんどん新しい芽を出します。それを摘んだものが「二番茶」。そしてその後「三番茶」と続きます。
一番茶しか摘まない地域・生産者さんもあれば、三番茶の後、四番茶や「秋冬(しゅうとう)番茶」まで摘む地域・生産者さんも。
一般的に、煎茶の上級品は一番茶のみが使用されています。
そして、一番茶を「荒茶」という半製品にした状態で温度管理して保管し、その都度仕上げ加工して煎茶にしているので、一年中おいしい煎茶が購入できるのです。
二番茶以降の茶葉はだんだん硬く、含まれる成分もよりさっぱりした味のものになるため、番茶・玄米茶・ほうじ茶の原料などになることが多いようです。
鹿児島のお茶について
新茶も桜前線と同様、南の暖かい地域から北上してきます(山間部はこの通りではなく少し遅くなります)。
昔から茶摘みは八十八夜、つまり立春から数えて88日目(平年は5月2日、閏年は5月1日)ごろが良いとされていますが、鹿児島は暖かい地域のためもっと早い時期に茶摘みシーズンを迎えます。
鹿児島は「生産量」は静岡に次いで全国2位。
静岡と鹿児島を合わせると、お茶の生産量は国内の7割を超えています。
また、先日発表された2019年度の「茶の産出額」では静岡を抜いて全国1位となり、茶業界では大きなニュースになりました。
詳しくはこちらの静岡新聞の記事をごらんください。
鹿児島の産地の一つ「知覧」の茶畑
では、早速、届きたての茶畑の写真を見てみましょう。
鹿児島南九州市の「知覧茶」の産地から。
知覧は鹿児島の中でも一番大きい産地です。
品種は「さえみどり」という、比較的早く芽が出る早生(わせ)品種です。
「誰もがみとめる早生のスター品種」(引用:『新版茶の品種』公益財団法人静岡県茶業会議所)で、うま味もあり緑色が鮮やかに出るため近年人気も高く、「さえみどり」のみで作られた煎茶や蒸し製玉緑茶もよく見かけます。
今年の鹿児島の新茶の状況
写真を送ってくださった知覧の宮原光製茶の宮原さんにお尋ねしたところ、今年の鹿児島茶市場での「新茶取引」は4月5日だそうで、例年より芽が出る時期が早いため、おそらく沢山の点数が初取引に上るのではないかとのことです。
茶市場では、「拝見盆」という黒いお盆に鹿児島全域の生産者から集められた茶葉が載せられ、机の上に並べられます。
少ない時は10~20点ほど並びますが、多い年は50~100点ほど並ぶそうです。
茶商(お茶を仕上げて売る業者)さんはこの茶市場に行き、お盆に載せられた茶葉を見比べ、匂いを嗅ぎ手で触り、審査茶碗と呼ばれる白い茶碗に入った茶液と茶殻を見て味を確認し、今年買い付ける茶葉を決めて入札します。
お茶も農作物ですから、毎年同じ状態には仕上がりません。その時々の気候にも左右されながらも、より良いものになるように、肥料をどのタイミングでどのくらい撒くか、茶木をどう手入れするか、生産者の方々からは一年中、そして毎年が勝負だと聞きます。
新茶の時期は、お茶の木は待ってくれませんし、気候も急に寒くなったり暖かくなったり、どのタイミングで摘むか、場合によりどのタイミングで寒冷紗(かんれいしゃ)という覆いをかけるか、毎年悩むとも。
聞いているとこちらまでドキドキしてきます!
※寒冷紗(かんれいしゃ)という布状のものでお茶の木を覆うことで、霜を防いだり、日光を遮り茶葉にうま味や鮮やかな緑色をのせる工夫をすることがあります。
新茶の葉っぱは「霜(しも)」が大敵
春になってやっと芽吹いた葉はとても柔らかくデリケートです。
寒暖差で急に冷えて新芽に霜が降りると、その部分が枯れてしまい、商品として価値が下がってしまいます。
そのため新茶の茶摘み前から、生産茶さんは毎日気が気でない状況が続きます。
こちらの茶畑の中にある、電柱に扇風機のプロペラのようなものが付いたもの、これが「防霜(ぼうそう)ファン」と呼ばれるものです。
茶摘みが始まる45~50日ほど前から、防霜ファンを回して上空の暖かい空気を下に送り霜を防ぐそうです。寒冷紗という覆いをかけたり、スプリンクラーで水を撒いたりして霜を防いだりも。
夜、冷え込むと霜がおりやすいので、夜中12時ごろに防霜ファンがきちんと回っているか確認し、早朝にも茶畑をパトロールしているのだとか。
防霜ファンやスプリンクラーも気温などの条件で自動でスイッチが入るよう設定されているものが多く(手動でも可能)、それでも不具合で止まっていたりすることがあるため、生産者の皆さんはまだ暗いうちから茶畑を見回りに行くそうです。
お茶の生産者さんの新茶の時期のスケジュール
茶摘みが始まるとそれはもう寝る間もなく忙しいのだと聞いてはいましたが、実際どういうスケジュールなのか、宮原光製茶の宮原さまに伺いました。
「(笑)」となっていますが、聞いているだけで過酷です…。
このようなご苦労や努力を伺うにつけ、今何気なく飲んでいるこのお茶のありがたみをひしひしと感じます。
お茶に限らず農作物、水産物などは、自然が相手ですから、なかなかスケジュール通りにはいきません。
生産者の方々は大変な思いをしながらも、「おいしく味わってもらいたい」「消費者に喜んでもらいたい」という想いで作っているのです。
何気なく飲んでいる一杯のお茶、でもその後ろには沢山の方々の想いがあるのですね。
鹿児島産の新茶が店頭に並ぶのはいつ?
では、新茶が店頭に並ぶのはいつごろでしょうか?
今年は鹿児島では4月5日に茶市場の初取引があるそうです。
その後、仕上げ加工をしパッケージに入れて販売となるため、店頭に並ぶのはおそらく4月10日前後になるのではとのことでした。
もう新茶のカウントダウンが始まっています。
いよいよ新茶のシーズンです!
今年もおいしいお茶を楽しみに、わくわくしながら待ちましょう!
では、次回は歴史ある茶産地「京都」の和束町の今年の新茶の状況を伺います。
お楽しみに!
取材協力:宮原光製茶 宮原健さま
参考文献:『日本茶インストラクター講座 第2巻』NPO法人日本茶インストラクター協会発行