大卒だって無業になる 大卒就職率97.6%より約4万人の大卒者を考えたい
文部科学省と厚生労働省により「平成31年3月大学等卒業者の就職状況」が出され、2019年3月大学等卒業者の4月1日現在の就職率が97.6%であることがわかった。また、文部科学省「平成30年3月高等学校卒業者の就職状況」で、高校生の就職率が98.1%と非常に高い水準であることが発表された。
実際に複数の大学で講義をしていても、学生の就職にかかる不安は「就職できないかもしれない」というよりは、どこを選んだらいいのか。よい職場はどうしたらわかるのか。そういった「就職はできるだろうけれど・・・」というものだ。ただ、就職活動をする学生にとって就職可否そのものに大きな不安がないということは望ましいことだと考える。
既に広く知られていることではあるが、ここでいう就職率はあくまでも就職を希望する大学生のなかで就職できた割合のことであり、「就職を希望しない」を選択した、することになってしまった学生は母数に含まれていない。
実際、10月時点で就職を希望される学生は約80%であるが、時間が経過するなかで就職希望者は減っていく。
進学希望であったり、起業(在学中起業を含む)であったり、就職活動を希望しない理由はそれぞれにあるだろうが、卒業後の進路が明確な状況で就職や進学以外を選んだものばかりとは言えないのではないか。
実際、卒業時点で進学も就職も決まっていない学卒者はアルバイト等を含めて7%存在する。おおよそ14人にひとり、約4万人とされている。多様なケースが含まれるが、育て上げネットのような就労支援機関には少なからず、この4万人の進路未定のまま大学を卒業した若者が相談に訪れる。
上記調査における「進路未定」のまま卒業した若者のうち、支援機関で出会うのは一部である。事情はさまざまではあるが、一定の傾向も存在する。例えば、大学生活にうまく馴染むことができず、自宅と教室の往復だけの日常に疲れてしまう。せめて大学は卒業しようと通いきるが、就職活動するほど余力が残ってない。
大学卒業後は就職をするものであり、そのために新卒採用の波に乗らなければならないことは頭でわかってはいても、心身が動かない。かろうじてキャリアガイダンスや就職セミナーに通っても、ただつらいだけで終わってしまう。とにかく、卒業することで精一杯なのだ。
周囲が一斉に就活モードに切り替わったことに戸惑いや疑問を抱えてしまう若者もいる。急に髪の毛の色を黒くし、就活スーツに身を包む。そういう自分たちを自虐的に語るものの、それでも就活の波にしっかりと乗っていく。
もちろん、自分自身も同じようにしようとはするのだが、どうしても心と身体が動かない。インターンシップ、自己分析、企業研究、エントリーシートの作成と、やらなければならないことを着実にこなしていく姿を見て、あるとき緊張の糸が切れてしまう。
面接が進み、内定の話もちらほら聞こえてくるようになると、その場にいづらくなり仲間とのコミュニケーションから距離を置くようになっていく。時折、友人や家族から心配の声をかけられても、そこから改めて就活モードに切り替えていくのは簡単ではないようだ。
就職を希望し、一生懸命に就活をしてもなかなか内定を獲得できない若者もいる。最初のうちは、同じように内定が出ない仲間もいるが、時がたつにつれて、ひとり、またひとりと第一希望かどうかは別にして内定の報告がなされていく。
少しずつ友人の内定を心から祝福することが難しくなり、気が付くと卒論や卒業旅行の話が聞こえてくる。なんとなく居心地が悪くなっていく。積み重なる自己否定感と終わらない就職活動に身も心も疲れ切っていく。
このような形で卒業、4月1日を迎える学生が実際にどの程度いるのかはわからないが、大学を卒業したら正社員の就職が当たり前という考え方は、その当たり前に乗れなかった自分自身を否定し、ときに攻撃するようになっていく。
実際には就職希望者のなかの就職割合であっても、97.6%が就職しているという情報にあたれば、すべての大学生が就職をしており、就職先が決まらないまま大学を卒業する自分を含む学生はどうなのだろうと考えてしまうのは仕方がないことでもある。
これまで学生の就職をバックアップしていこうと学内にキャリアセンターなどが設置されてきたが、少し潮目が変わった印象を受けている。それは就職希望の学生が就職先を決めていく一方で、在学中から卒業および卒業後が心配と思われる学生をサポートしようと、NPOとの協働を模索する大学が出てきたからだ。そこでは直接的な就職活動よりも生活や個別の悩みを解決していくことが念頭に置かれている。
また、親を含めて、在学中から相談支援、就労支援サービスの利用を求める若者も徐々に増えている。これまで大学生が在学中に就労支援を希望してくることは稀であったが、就職活動が始まる前や卒業を前に相談に訪れる若者が特別な存在ではなくなっている。
新卒一括採用が少しずつ崩れていくなか、また、多様な「働く」選択肢を選択しやすくなったいま、卒業後は正社員が大半の大学生にとって当たり前とは言い切れなくなっているかもしれない。しかし、就労支援の現場に相談に来る若者は、卒業後は正社員として就職することが当然で、起業や旅を選ぶことは特別な存在であり、就職も進学もできないまま卒業した自分を責め、否定し、つらい状況のなかでもがいているように見える。
今後、しばらくは売り手市場、大学生の就職率の高い水準が取り沙汰されていくだろう。そのとき、大多数の就職希望でそれを実現した学生ではない、進路に光を見いだせない若者こそに着目し、一人ひとりの希望に応じた多様な支えを充実させていきたい。