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「事前に研究して全部知ってます」感マックス! 異例ハイペース! 永瀬拓矢王座先手で王座戦第1局開始

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

公式ページをご覧ください。

 前日のインタビューで、両者は次のように語っていました。

永瀬王座「(コンディションは)いいというわけではないんですけど、なにかとてもわるいというわけではない、という感じです。どちらかと暑い方が苦手かな、という気がするので。秋に入ってどんどん気温も落ち着いてくるんじゃないかなと思っています。(仙台は)食べ物ですと蒲鉾と牛タンというものがとても美味しいという印象で。牛タンもやっぱり仙台で食べたほうが一味違ってまた一段と美味しいのかな、という印象を持っています。(挑戦者は木村九段で)どなたが来られても本当に大変なんですけど、その中で本当に充実されてる方が挑戦してきたのかな、という印象を持ちました。将棋が強いのはもちろんなんですけど、やはり決断よく指されるという印象がありますので、そういうところもやっぱり大局観がとても優れているのかな、という印象を持っています。(今シリーズは)自分なりにテーマを持って、一つ一つ解決して、自分なりに成長していけるようなシリーズにしていきたいなとは思っています。朝9時開始でチェスクロック5時間ということで、わりと他の棋戦では見られない持ち時間と、夕食休憩がある1日制という形なんですけど。自分なりに一生懸命がんばって将棋を指したいと思っております。指してみないと、どういう形になっていくか、ちょっとわからないんですけど、やはりがんばろうと思っていますので、応援いただければ幸いです。よろしくお願いいたします」

木村九段「(コンディションは)まずまずでしょうかね。暑い方がダレるのでいやなんですけれど、そんなことも言っていられませんので。元気を振り絞ってるところですね。他の棋戦で著しく勝率がいいわけではなかったので、挑戦権をつかむことができたのは大変よかったですね。王座戦は本戦(16人のトーナメント)からの出場だったんですけれど、内容もそれなりによかったのが多かったものですから、その点はツイていたなと思います。最近は二次予選から突破することができなくて、負けてばかりということが多かったです。今年は、昨年の王位の枠で予選シードということでしたので、それが活きたということですね。十数年前(2008年)に羽生さんに挑戦したことがあるんですけれども、そのときも3連敗で、まあ、うまくやられてしまったな、という感じがしますので。そういったことを思い出しますね。(永瀬王座は)負かしにくいということと、あとはまあ、かなり熱心に取り組まれてるな、ということがあって。序盤の知識というのはものすごいものだろうな、というふうに感じてます。(今シリーズは)そうですね、とりあえず千日手を1回やってから持将棋にしてですね、それから考えたいと思いますが(笑)。序盤でついてって、体力負けしないように、というところでしょうか。どうしても、年齢差もありますから。終盤のところではつらい面も出てくる可能性は高いと思うんですけど、しっかりついていきたいなと思います。1日制のタイトル戦がかなり、それこそ十数年ぶりですので、やっぱり不慣れな点はあるのかな、という気はします。ただ挑戦者決定戦が9時開始で5時間だったので、なんとなくですが、ペースはつかめたかな、というところでもあるので、そういった面がわるく出ないようにはしたいところですね。仙台での対局はJT杯ばかりだったですね。このあいだ(6月の久保利明九段戦)初めて勝ったんですよね。その前はずっと負けてたんで、相性がいいのかどうかは、よくわからないところですけど、その点では、いい記憶が残っている地域、ところですね。がんばって勝って、牛タン食べたいな、ってところです。自分なりにせいいっぱいがんばりたいと思います。いい勝負にして、盛り上がるようにしたいもんですね、はい(笑顔)」

 対局開始前。盤側(ばんそく)には佐藤康光九段が座っています。佐藤九段は日本将棋連盟会長の公務として対局場を訪れているわけですが、もし挑決で木村九段に勝っていれば、対局者として盤の前に座っていたわけです。

 立会人は島朗九段。島九段は東北統括本部長も務めています。

 佐藤九段は3回、島九段は2回、木村九段は1回、王座戦五番勝負に挑戦者として出場しています。いずれも対戦相手は羽生善治王座。そしていずれも挑戦者は3連敗で敗れています。

「史上最強」の棋士と呼ばれる羽生九段(名誉王座)。なかでも王座戦での強さは圧倒的で、同一タイトル戦19連覇、通算24期という恐ろしい記録を打ち立てています。この記録は空前にして、おそらくは絶後。今後どれほど強い棋士が現れても、抜かれることはないような気もしますが・・・。どうでしょうか。

 8時42分頃、まず永瀬王座が対局室に現れ、上座に就きます。

 将棋界のタイトル戦番勝負では、両対局者ともに和服を着る場合が多い。しかし永瀬王座は以前からスーツに変わったことで知られています。今期もまたスーツです。

 続いて8時46分頃、木村九段が対局室に入ります。羽織は白に近い色で、しゃれた模様が入っているように見えます。事前のインタビューでは、木村九段は羽織を2つ新調したと語っていました。

 両対局者、駒を並べ終えたあと、島九段が声をかけます。

島「第1局ですので振り駒をさせていただきます」

 記録係の小高悠太郎三段(25歳、所司和晴七段門下)が畳の上に白布を広げ、永瀬王座側の歩を5枚取ります。

小高「永瀬先生の振り歩先です」

 両手の中でよく振って放り、5枚の歩の駒が白布の上にまかれます。

小高「歩が3枚です」

 表の「歩」が3枚、裏の「と」が2枚出て、第1局は永瀬王座の先手と決まりました。

 午前9時。

島「定刻になりました。永瀬王座の先手番で開始してください。お願いいたします」

 立会人の島九段が告げて両対局者一礼。持ち時間5時間の対局が始まりました。

 永瀬王座は初手、木村九段は2手目、ともに飛車先の歩を突きました。

 戦型は角換わりに進みます。

 王座戦五番勝負は60秒未満切り捨てのストップウォッチ方式とは違い、消費時間がすべてカウントされるチェスクロック方式。だから両者ともに指し手が早いのか・・・と思って見ているうちに、あっという間に永瀬王座は仕掛けていきます。木村九段は小考を重ねながらも、比較的早指し。両者ともに事前の研究が深くなければ、ここまで早くは進みません。

 トップクラス同士の対局では、コンピュータ将棋ソフトを使っての事前研究で遅れを取ると、それが致命傷になる時代のようです。

 両者の研究がどこかではずれたところで長考に入るのが、現代将棋のリズムです。しかし過去の実戦例をはずれても、まだ手が止まらない。

 アマチュアの気楽な観戦者の立場としては「びっくりするほど早いねえ」と笑って見ていられますが、トップを狙う気概のある棋士は、そうはいかないのでしょう。

 あれよという間に74手まで進んだ時点で、消費時間は永瀬13分、木村1時間31分。チェスクロック方式でこれです。もしかしたら本局は「これぞ現代将棋」という記念碑的な一局となる可能性もあるかもしれません。

 75手目。永瀬王座はわずか8分で木村陣に金を打って相手の飛車を追います。

 78手目。木村九段は飛車を自玉の近くに逃しました。コンピュータ将棋ソフトの形勢判断では、ここで少し永瀬よしという評価に振れたようです。

 永瀬王座は手を止めました。時間を使う態勢に入ったようです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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