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夏ドラマで輝いている、3人の「働く女性」たち

碓井広義メディア文化評論家
公正取引委員会・第六審査の面々(番組サイトより)

猛暑や大雨の中で続いている、今年の夏ドラマ。

全体を見渡すと、「働く女性」の活躍が目立っているようです。

『競争の番人』の白熊楓(杏)

まずは、『競争の番人』(フジテレビ系)。

元刑事の白熊楓(杏)が異動先の公正取引委員会で、審査官の小勝負勉(坂口健太郎)とコンビを組んでいます。

地味で、あまり強くない組織ですが、企業の「ズル」を許さない役割を果たしているのが公取委です。

超マイペースで仕事を進める天才肌の小勝負に、やや振り回され気味の楓。

しかし、彼女の正義感と行動力は小勝負との組み合わせで上手く生かされており、新機軸のサスペンスドラマを盛り上げています。

複数のホテル間で行われていたウエディング費用のカルテルを突き崩した、最初のエピソードも見応えがありました。

『石子と羽男』の石田硝子(有村架純)

次は『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』(TBS系)です。

石田硝子(有村架純)は弁護士の業務を助ける、東大卒のパラリーガル。

高卒で弁護士資格を持つ羽根岡佳男(中村倫也)をサポートしています。

普通の人が日常生活の中でトラブルに遭遇したとき、頼りになるのが近所の「町医者」のような弁護士、つまり「マチベン」です。

2人が扱うのも、自動車販売会社での社内いじめや、小学生がゲームに多額のお金をつぎ込んだ騒動などです。

しかも、出来事の奥にある社会問題に触れているのが、このドラマの特徴だと言えるでしょう。

それが企業のパワハラ問題だったり、教育格差の問題だったりするのです。

これまでのところ、硝子の活動が限定的で、少々もどかしかったのですが、さすがは有村さん、じわじわと存在感を増してきています。

『魔法のリノベ』の真行寺小梅(波瑠)

さらに、女性の「仕事ドラマ」として健闘しているのが、『魔法のリノベ』(カンテレ制作・フジテレビ系)です。

今年の春クールに放送されていた『正直不動産』(NHK)が、家という大きな買い物にまつわる具体的なエピソードを、ユーモアを交えて描いていました。

同じような傾向のドラマかと思っていましたが、しっかり、ひと味違うものになっています。

現在の建物に新たな機能や価値を加えて、より暮らしやすくするのが、いわゆる「リノベーション」です。

新築に比べたら桁が違うとはいえ、住人にとっては決して小さくない負担となる取り組みです。

だからこそ、単なる会社の利益や自分の業績よりも、依頼人の思いを優先して最適の提案をしようとする、主人公の真行寺小梅(波瑠)に好感が持てるのです。

3本に共通する「身近な感動」

この3本のドラマに共通するのは、杏さん、有村架純さん、そして波瑠さん、女優陣とその演じるキャラクターのマッチングが良好であること。

また物語展開にも無理がなく、必ず大仰ではない「身近な感動」が用意されていることです。

あと、もしも可能なら、社会で働く女性たちが抱えている現実的な「困難」を、もう少し物語に取り込んでくれると、ありがたいですね。

その困難は個人の問題でも、女性だけの問題でもなく、男性の問題であり、社会の問題であることを伝えて欲しいと思うからです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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