98歳のホロコースト生存者の体験を元にした南アフリカのドキュメンタリー映画「I AM HERE」
ホロコーストの生存者で98歳のエラ・ブルメンタール氏のホロコースト時代の経験や記憶を元に製作されたドキュメンタリー映画「I AM HERE」が2021年に公開された。ブルメンタール氏は現在、南アフリカに在住しているが、1921年にポーランドのワルシャワで生まれた。ナチスドイツが侵攻してくるとユダヤ人は強制的にゲットーに収容された。それからベルゲン・ベルゼン強制収容所などに収容され強制労働に従事させられたが、辛うじて生き延びることができた。
映画の中では彼女の記憶と体験を元に、当時の様子をアニメでも再現している。
▼「I AM HERE」オフィシャルトレーラー
毎年制作されるホロコースト映画と記憶のデジタル化
ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもしている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。
ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元に2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。ホロコースト生存者の体験と実話を元にしているドキュメンタリー映画『I AM HERE』もこちらだ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴されることも多い。今回の映画のテーマのように次世代にホロコーストの歴史の真実を伝えていくことに多く活用されている。
一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。
戦後75年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れてる人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく見るという大人も多い。
そして世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。