地域ベンチャーキャピタル「瀬戸内VC」が変える、日本のスタートアップ支援と「アトツギ」ベンチャー化
明日17日から始まるAPEC・アジア太平洋経済協力会議首脳会議への出席に合わせ、米国カリフォルニア州を訪問中の岸田総理は、現地で投資家や企業・大学など米産業界向けに、スタートアップの投資を10倍にする目標など日本の産業政策を説明する予定だ。
今月2日に閣議決定した政府の「デフレ完全脱却のための総合経済対策」では、成長力の強化・高度化に向けて「イノベーションを牽引するスタートアップ等の支援」を盛り込んでいる。
既に発表されている政府の「スタートアップ育成5か年計画」では、年間投資額を2027年度に10兆円規模へ増やす目標を掲げていて、日本経済再興の鍵を握る。
そうした中、明日18日、スタートアップや跡継ぎ、大企業、VC(ベンチャーキャピタル)、行政、金融機関などが集い、議論し、交流を深める「BLAST SETOUCHI(ブラストセトウチ)」が、岡山市内で開かれる。
「波のないセトウチに波を立てる」を掲げた、中国四国最大級のオープンイノベーションカンファレンス・ピッチイベントで、今回が2回目の開催となる。今夜17日には前夜祭がある。
このイベントを仕掛けるのは、瀬戸内エリアに特化したスタートアップ支援に取り組むベンチャーキャピタル「SetouchiStartups(セトウチスタートアップス)」の共同代表、藤田圭一郎さんと山田邦明さんの二人。
「瀬戸内VC」として岡山大学や広島大学など、若き経営者たちによる地域発のスタートアップの支援や、地域企業、地域商店の「アトツギ(跡継ぎ)」たちへの支援をスタートさせた。
なぜ今、地域にベンチャーキャピタルが必要なのか?そして「アトツギ」という片仮名に込めた意味は何なのか?今回は、藤田さん、山田さんのふたりに加え、瀬戸内VCからの投資を受け、成長を続ける株式会社ABABA代表の久保駿貴さんに話を聞いた。
◆「地域にベンチャーキャピタルが必要だ」と思った理由とは?
堀)
自己紹介お願いします。まずは山田さんから行きましょう。
山田)
山田邦明といます。「瀬戸内スタートアップス」っていうVCを今、隣に来てる藤田さんと一緒にやっておりまして、それ以外にも弁護士資格持ってたりとか、自分で会社したりしながら、岡山でのみ暮らしてます。よろしくお願いします。
堀)
山田さんは弁護士の資格もあって、起業家でもあって、そしてVCでもありと、ちょっと変わっていますよね。
山田)
そう聞くとすごい強い感じになるんですけど、なんかその辺どっちも向いてないなとなり、今のところにいるというのが結構リアルなところでして、何か何かそういう自分に向いてるところとか、自分がやりたいなってとこだけやってたら、何となく肩書きはなんか強そうになっていったって感じですね。
堀)
そしてお隣が藤田さんです。よろしくお願いします。
藤田)
よろしくお願いします、瀬戸内スタートアップスの共同代表の藤田です。 家業が酒屋でして、業務用の酒を扱っています。岡山駅のすぐ近くで繁華街の居酒屋さんとかバーとか、スナックとかにお酒を配達するような仕事をしつつ、今、山田さんと一緒にスタートアップ、特に創業期のスタートアップに投資をするベンチャーキャピタルをやっております。どうぞよろしくお願いします。
堀)
そして藤田さんは、X(旧Twitter)の自己紹介欄に「アトツギVC」と書かれていますよね。カタカナで書く後継ぎには意味があるんですよね?
藤田)
そうなんです。最近、家族内で事業を承継していこうみたいなムーブメントがあって、その時に普通に継ぐだけではなくて、新規事業にチャレンジをしていくような跡継ぎ2代目、3代目たちのことをカタカナで「アトツギ」というふうに言っていて、ちょっと僕もそれのムーブメントに乗っかってはいます。すいません。
堀)
一方で、山田さんは肩書きに「起業家VC」と明記していて、特徴ある二人で立ち上げたのがこの「瀬戸内VC」ということですね。まさに久保さんはお二人からの出資を受けているんですよね?
久保)
はい。僕たちの会社ABABAがお二人に出資を受けております。実はこの事業は、私にとって三つ目の事業なんですけど、一つ目のときからもうこのお二人には本当にお世話になっておりまして。
堀)
そのときの出会いが何歳ぐらいですか?
久保)
出会いは大学3年生の最初ぐらいだったかなと思うんですけど。
堀)
お二人はどういう久保さんとの出会いだったのですか?
山田)
「岡山の尖った大学生たちがいるんだけどどうにかしてくれない?」と相談が来ました。まだVCはやっていなかったのですが、企業や学生たちとの交流が結構あったので、その中の1人という感じですね。まさかその時には投資するとも思っていませんでした。その後、投資をしたらこんなにすぐに成長してくれるなんてすごくないですか?
堀)
藤田さんは、酒店の後継ぎでありながら、どうして起業家の道を歩んでいくのですか?
藤田)
酒店の事業を中心に、どんどん、どんどん新しいことをやっていった結果「業」がそこで起きていくっていう。「地域×新規事業」みたいな感じで、東京で流行っているような事業をローカライズさせるのが結構得意だとわかりました。
今は株式会社「コンパス」という会社で、地方学生の機会格差に注目したような事業をやっています。地域にいる学生が、それぞれ実践的なインターンをできるようにする、というプラットフォームの運営をしていたりします。いろんな事業をやりつつ、お酒の本業作業もやりつつで、今3足ぐらいのわらじを履いているような感じです。
堀)
酒店も普通は卸して終わりなのかな、と思いきや藤田さんは色々展開していったんですよね。
藤田)
コロナもあったからか、お酒を中核にしつつも全然違う業態のものを手がけ始めたんですよねそうですね。当時はお酒が本当に売れなくなってしまったので、そこから完全にギフトECにもフォーカスして「オリジナルラベル」のお酒を簡単に作れるアプリを作っていたりとか、その前はその飲食店さん向けにお酒を売るだけじゃなくて、付加価値として「集客をしますよ」とか、「求人を助けてあげますよ」とか、コロナ禍は「食事をデリバリーしますよ」とかそういう付加価値をITでつけて酒も売るみたいな、そんな事業の拡大の仕方をしてきました。
堀)
この話聞いていて勇気づけられるのは「起業する」とか、何かを「興す」とか、ましてや「ベンチャーキャピタルを立ち上げる」なんていうのは、きっとどこかの、ものすごく何か特別な人たちがやることなんだみたいに思われてる方もまだまだ少なくないと思うんですよね。
でも藤田さんのように、目の前の、身の回りのところから「これがあったら助かるよね」とか、「これがないんだったら作ればいいよね」とか、「資金だったらこれぐらいから集めていけばファンドを組成できるよね」とか、そういうのを地道にやることが起業家であり、ベンチャキャピタリストに繋がっているというのが素敵だと思いました。まさに「手触り感がある起業やVC」。
久保さんはお二人の魅力をどう感じていますか?
久保)
本当にお2人もすごい方なんですけども、やはり「身近な方が何か立ち上げた」みたいな温かさであったりとか、お2人とも事業家でもあるので、そこの気持ちをわかっていただけるっていうのは、我々起業家としては本当にありがたいですよね。
堀)
「ひょっとしたら自分も何かできるかもしれない」なってやっぱり思えるっていうのが大きいですか?
久保)
そうですね。やっぱりこの地域に「VCがいる」ということで、頑張ろうかなって思う学生も本当に増えましたし、お2人のところに行けば何か助けてくれたりアドバイスくれるんじゃないかなって思ってる学生たちは本当に多いと思います。
堀)
山田さんはこれまでにも色々な事業も手がけてこられたし、弁護士の資格も持っているものの、「ベンチャーキャピタルを立ち上げる」というのは「想定内」だったのか「想定外」だったのか、いかがですか?
山田)
今回、形として「VC=ベンチャーキャピタル」ということになってるんですけど、先ほど言っていただいたように、まさに「この人にお金をちゃんと流したいな」とか、「この人の事業が一緒に伸びたらいいな」とか、僕らがいることによって「新しいスタートアップがここに集まるといいな」とか、そういう一つ一つのことをやった結果、「形としてはVCがいいよね」という話になっていったんで、「VCがどうしても作りたかったというわけではない」というのは結構意識してますね。
応援したい人たちがいて、その「応援の形として資金が手当てされたり」とか、「アドバイスできるようなコミュニティ」があったりとか、そういうのがあればいいなっていうところがスタートです。
まさに藤田さんが元々「起業家とお酒を飲むのが好きだ、ぐらいの粒度」で始めているんで、そこに呼んでもらったりとか、それこそ僕自身も元々スタートアップの世界にいたんですけど、そういうことが何か当たり前に起こってるっていうのがすごくいい世界だなと思っていて、それを形にするんだったら、今回だったら「VCが一番いい」と思ったんで、むしろ一緒に作ったっていう感じですね。
堀)
今回VCの前に「地域」という冠が付いてるじゃないですか。まさに「瀬戸内VC」ですが、地域にVC機能をつくる、というのは狙いがあったのですか?
なぜなら、僕自身「地域創生」の現場取材していても、「誰から資金を集めるのか」、それを「誰が手当できるのか」というのはどこも悩んでいて、そもそも事業者が手を挙げ育つのも難しいし、その地域と事業者を繋ぐような「エリアマネージャー」の人材も枯渇しているし、ある程度事業化できたとしても、一人の事業者が調達できる規模を超える次のステージの資金獲得を目指そうと思ったらなかなか厳しい。
久保)
そうですね。ようやく地方銀行のVC部門が出来上がってきたかなとは思うんです。スタートアップコミュニティを立ち上げた中国銀行さんとか、頑張ってやってるんですね。
ただ、やっぱり創業間もないスタートアップに、金融機関さんがリスクを取って出資するってのはなかなか難しいことだと思っています。
瀬戸内スタートアップさんはやはり「創業期を支える」っていうコンセプトのもとやっておられると思いますし、元々お2人もエンジェル投資家として、VCを作る前からそうした取り組みを始めていて、やはり我々若手のスタートアップにとってはありがたい機能かなと思います。
◆山田さん、藤田さんが語る「地域VCのつくりかた」
山田さん、藤田さんの二人が「瀬戸内VC」を組成したのはちょうど2年前、2021年11月。
「瀬戸内のスタートアップを加速させる」という狙いに賛同した地域の有力企業や個人投資家からの出資を集め1億円のファンドを立ち上げた。対象は創業や事業を思いついた段階である「シード」や「プレシード」を対象にした。
二人はどのようにして、事業計画さえ完成していない段階の起業家たちに対する投資を取り付けてきたのか。
さらに話を聞いた。
堀)
資料の右側、参加企業を見ると「両備」や「ナカシマ」など岡山の名だたる企業が繋がってますね。
藤田)
はい。戦前から続く由緒ある企業です。
堀)
さらに、ここには載ってないですが、個人のエンジェル投資家の方々もいらっしゃるそうですが、最初はどうやって出資のお願いをして回ったのですか?
山田)
2人で行ったんですよ。まず、キーマンになる大学教授がいて、その方々がいろいろ関係各所に連れて行ってくださって。ただ、最初に僕らの中でこの「中島ホールディングス」さんは結構、メインの「ボス的な感じ」でして。アンカーLPと言ったりするんですけど、なんかおじいちゃん、はい。そのおじいちゃんから出資決まった瞬間にワーッて集まりだしたというか。
堀)
やはり、地域地域に「100年続いています」、「 何百人も社員がいます」という有力企業に協力を求めるときに「ファンドを組成したいんです」という形で若手が交渉に行くというのは、効果があるということですね?
山田)
やった方がいいと思ってますし、やった方がいい。もっと言うと「ファンド」とか「スタートアップ投資」というところに、そのおじいちゃん世代も興味ないわけじゃないんですよ。だけど、自分たちがどう関わればいいかわかってないんで、そこに「今まさにリスクを負ってやるんだよ」っていう、彼らからするとすごく若い起業家が出てくると、「お前が言うんだったら」みたいなお金の出し方を結構してくれると思っています。
もちろん断られることもめちゃくちゃあるんですけど、そういう人が1人でも出たら、そっから芋づる式に一緒におでんとか食べに行く中で出資が決まっていくみたいなのがあるんです。
今までそういうことをやる人が逆に少なくて、ファンドもないですし。お金を集めるといっても、あるのは「協賛」とか、リターンが絶対にないような形で。要は「お金くださいよ」と言ってくる人は割と過去にいて、それで痛い目を見てたりとか、それで嫌になったことがあるという人は少なくないと思います。
ですから「一緒の船に乗ろうよ」という言い方で、誘ってる人はあんまりなかったのかなって思います。
堀)
やはり「新しい世代」とか、「新興の企業」とかは、何か「敵対する」とか「自分たちの領域が大きく脅かされる」んじゃないかっていう不安が悪意なく芽生えたりするというケースも見てきました。そういうことではなく「一緒に船に乗りましょう」というアプローチが大切なんだと感じました。
最初からそういう作戦だったのですか?それともコミュニケーションをとる中で、お互いのリスペクトや発見があったから、そのようなアプローチになったのですか?
山田)
そこは「後者だ」って言いたいですね。 作戦があったわけではないんですけど、すごい意識してたのはやはり「目の前の人とちゃんと対話しよう」というのはありました。
その人たちがどう思ってるかとか、逆に「全然あなたたちはわかってない」って思うことも僕らとしてもありましたし。だけどそれはちゃんと丁寧に狙いや思いを伝えて、「この形だったら一緒にできるんじゃないの?」みたいなのをずっと話していったというのはすごい大事だったなと思いますね。
藤田)
「地域」という特色で言ったら、おじいちゃん方とのコミュニケーションをよく取ってるんですけど、そこの層は結構いけるなという感じはあります。
逆にむしろ今脂が乗っている現役世代の方が、反発までとは言わないですけど難しい点は感じます。スタートアップと地域経済の分断というか。
特に中小企業の方々は、スタートアップって全く売り上げもない、利益がない状態で何年か走るみたいな、そういうところを株式でどうにか資金調達してみたいなのは、自分たちがやってないし理解がなかなかできないから、認めたがらないみたいな。企業ってちゃんと利益を着実に出して、それで成長していくもんでしょ?といういうような頭もありますし。
あと、スタートアップって売却することも結構あると思うんですけど、それに対しても地域の企業は「せっかく作ってもすぐ売るんだろう」みたいな、そういう見方もあり、スタートアップに対する嫌悪感みたいなものもあるので。
何かそういうなかなか相容れない層と、そこから一歩上がって「何か地域にいいことをしないとね」とか、「頑張ってる若者を応援しよう」という二つの層があるのなと思ってます。
◆「後継ぎ」ではなく「アトツギ」に可能性を見出す理由は?
藤田さんは、地元酒店の3代目の「後継ぎ」として家業を継いだ。しかし、その心境は当時複雑だったという。「親の資産を受け継いで気楽にやっている人たち」そんな風に見られることに違和感を感じたこともある。
その藤田さんたちが、今、好んで使う言葉が「アトツギ」だ。ゼロからの創業とは異なる「アトツギベンチャー」が、スタートアップ活性化に繋がるキーワードだと捉えているからだ。
カタカナ「アトツギ」とは何なのか。さらに話を聞いた。
堀)
藤田さんが「アトツギVC」と名乗っている点に興味を持っています。どいういうことですか?
藤田)
僕、酒屋の跡継ぎなんすけど、世間の「後継ぎ」のイメージは親の事業を受け継いでいて、土地もあって将来も安泰だというのがあるみたいですが、そうじゃないんです。
それこそVCやっているからそのままいたら「なんか金持ってんだろ」みたいな感じで思われたりもするんですけど「貧乏」でした。
継いだ家業も全然大きくなかったです。家族の商店なんですよ。家族商店で家族みんなが、365日18時間ぐらい働いてるから成り立ってるみたいな感じで。時給換算したら、一人当たり数百円ぐらいになってしまいます。
確かに、全然違う境遇にある「跡継ぎ」の方々は、なんかのんびりとされていて。
山田)
言葉を選んだ。
藤田)
はい。瀬戸内の波のようなゆらゆらとされていて。僕はそこに対してかっこいいと思えなくて。なのでそういうところと距離を置いてきたっていうような感じですか。だから自分で事業を興したりとか「リスクを取ってやってんだ」というのを見せたかった。
堀)
そうした思いが、スタートアップ界隈にどんどん近づいていったっていう。
藤田)
そうですね。私自身が「リスクを取って事業を興した」そういう人たちと一緒にうまい酒を飲みたいと思ったのが本当のこの活動の最初の理由です。
でも、そうした視線で周囲を見渡してみると、同じような境遇、同じような思いで新しいことをやるんだって人たちがいっぱいいるってこと気づきました。
堀)
勇気づけられますよね。今回の「BLAST SETOUCHI」にもそうした「アトツギ」の方々が登壇するんですよね?
藤田)
はい。1社だけ言うのもアレですが、岡山の「マクライフ」という会社があります。既存の天井の構造じゃなくて「膜」を張って天井にする、そういうプロダクトをやっている方がいます。
元々はテント屋さんの跡継ぎなんですけど、それこそ大地震で天井が落ちてきて大勢が被災するリスクを回避するため、防災効果のあるファイバーシート素材の天井「MAKUTEN」を東日本大震災をきっかけに開発しました。その後継が、27歳の牛垣希彩さんと言う女性です。
去年「アトツギ甲子園」という中小企業庁がやっている全国的なピッチコンテストでファイナリストになり賞にも選ばれました。
地元から「マスター」みたいな方が生まれ、これが結構火付け役となって「アトツギ」が岡山でもすごい注目され始めました。
堀)
「新しい領域あるんだ、できるんだ」「こんなふうにそして社会ニーズに応えている人がいるんだ」というのは、ものすごく惹き付けられたという人が多かったのでしょうね!
藤田)
そうですね。勇気づけられた跡継ぎもいると思いますし、支援機関も「跡継ぎを支援しないといけない」そういう雰囲気になってきてます。
長年続いてきた会社や商店には、ずっとやってきてるからこそ蓄積されてるいいものも悪いものもあるんですけど、やはり「顧客リソース」だったり、「スタートアップが最初から得られない信頼」だったり、「技術」だったり、そういうものがたくさんあるので、それを活かして新しい領域でチャレンジしようという機運が広がってきています。
堀)
アトツギたちの「BLAST SETOUCHI」でのプレゼン、面白そうですね。久保さんは起業家としてどう見ていますか?
久保)
第2創業も起業家だと僕も思っていますし、それこそ岡山でも、僕と同じくらいの年齢で「3代目の跡継ぎやってます」とかそういう仲間たちとも話しましたし、我々も刺激を本当に受けています。藤田さんたちの活動が「アトツギとスタートアップ起業家の融合」というところを作っていってくれてるなと本当に思いますね。
堀)
山田さんはどうですか?
山田)
僕が全く跡継ぎじゃないのであんまり偉そうなことを言えないんですけど、さっき紹介されたマクライフの石垣さんも僕の地元です。人口が10万人ぐらいしかいない地元津山市の方です。
これまで、スポットライトの当て方がやっぱり難しかったんだなと思っています。スタートアップだったらスタートアップという光の当て方ができたと思うのですが「後継ぎ」ではなかなか難しかった。
「アトツギ」という言葉が生まれて「アトツギベンチャー」という言葉が生まれてやっとスポットライトが当たったと思っています。
そういうことをやれるのが、我々のような「支援プレイヤー」の強みだと思うので。まさに「スタートアップ」と「アトツギ」の両方を持ってるの藤田さんは、結構稀有な存在なのではと思います。
藤田)
スポットライトと言われたんですけど、まさに「中小企業」って「社長」にスポットライトが当たるからメディアに出るのも社長なんですよね。社長になる前の「専務」だったり、特に役職がついてないような「跡を継ぐ予定の人たち」には普通はスポットライトが当たらなかったんです。これまでは。
「アトツギ」という言葉ができたことによって、平社員であっても代表じゃなくても、個人にフォーカスしてもらえるようになってきたというのに、大きな変化を感じています。
◆「瀬戸内」のエリア概念を広げる「SETOUCHI」その狙いは?
山田さん、藤田さんは「瀬戸内」のエリア概念を広げたいとも語る。
これまで「瀬戸内」と言えば、岡山、広島、香川、愛媛など瀬戸内海に面した山陽地方と四国の北側などを指すことが一般的だが、大分や和歌山など九州や関西地方も含む大きな「経済圏」をイメージさせる「SETOUCHI」まで昇華させていきたいとその意気込みを語る。
地域とスタートアップとを繋ぐエコシステムを構築したいというのがその狙いだ。
最後にその真意を聞いた。
堀)
瀬戸内の範囲を広く置いておきたいというのはどういう理由ですか?
山田)
はい。まだちょっと裏が取れていないんですけど、「瀬戸内」のエリアはそもそも広いんですよ。
山田)
「瀬戸内」という言葉はファジーな使い方ができるのがいいなと思っています。瀬戸内と聞いてもみんな曖昧なんですよ。どこまで入るかがわからない。
堀)
僕は兵庫県神戸市生まれなんですが、若干の違和感も感じつつ「瀬戸内出身」と名乗ってもいいものですか?
山田)
はい出身者です。みんながこの「瀬戸内」という広い概念を理解し、流通させ始めたのは、ここ数年のことだと思っています。まだ概念化を進めているタイミングです。
ですので、このタイミングで、僕らが思っているのは「一番大きい概念」で「一番一つになれるタイミング」だと思っているので、それを何とか形にしよう考えています。
こういう新しい概念ができたときに、例えばスタートアップと既存企業とか、大企業とかっていう分け方をするところがなくなると思うんです。
今こそ「分断が消えていくタイミング」だと思ってて、今度僕たちが手掛ける「BLAST SETOUCHI」では、まさにそこを一番やりたいと思っています。
例えば僕たちの地域でいえば、香川と岡山は何か対立してるよねとか、広島が中四国の中ではボスだよねって言うんですけど、瀬戸内だとそれないんですよ。
だから1回ぐちゃっとできて、そこには「アトツギ」もいるし、「スタートアップ」もいるし、「既存企業で頑張ってる人」もいるし「行政」もいるし「金融」もいるし。
こういうぐちゃぐちゃな状態を作り出せるのが今「SETOUCHI」という概念なので、ここをやり切るっていうのが僕らが今やりたい、「SETOUCHI」という言葉でやりたい、一番の理由なんですよね。
◆オリジンは「瀬戸内」サービスは「世界」その全てが繋がる未来
今回の「BLAST SETOUCHI」には、地元での創業後、現在は東京で活動を始めた成長企業の代表たちも登壇する予定だ。
そのうちの一人が広島大学発のベンチャー企業「Gino」の北尾共さん。仲間と共にVRゲームで海外市場での展開を仕掛けている。
瀬戸内VCからの投資を受ける一人だ。
その北尾さんに「SETOUCHI」への想いを聞いた。
堀)
今回「BLAST SETOUCHI」に登壇されますが、北尾さんの会社はオリジンが瀬戸内で、こうやって東京で開発を行い、そしてサービスはグローバルを目指す。そうした環境下で、ご自身にとって「瀬戸内」という地域はどのような存在ですか?
北尾)
本当に瀬戸内VCさんとか、広島VCさんとか、中国銀行さんとか、そういった皆さんが地域を盛り上げようとしてるんで、自分たちとしても非常にありがたく思ってます。
自分自身愛着があるというのが、もちろんなんすけど、戦略的な意味でも、東京の中での1社になってしまうとすごく数が多くて埋もれてしまうので、この「瀬戸内初」みたいな存在だと目立ちやすいところもありますので、非常にここは大事にしていきたいなと思っています。
何よりも大切にしてくれる方が多いので、そこが一番大きいと思います。
堀)
サービスや会社の規模もこれから大きくなってことがあると思いますが、そうした成功を「瀬戸内」に何か還元したいという想いもあるのでしょうか?
北尾)
そもそもゲーム会社は結構東京一極集中って感じでもないですよね。
任天堂が京都にあったり、大阪にカプコンがあったり、自分たちもそういう広島や瀬戸内地域を代表するようなゲーム会社になれたらいいかなと思っていて、現在は拠点はここだけなんですけれども、広島にもいずれゲーム開発の拠点のようなものを置きたいなと思っています。
堀)
どうしてですか?
北尾)
広島に開発部署を持った場合、中四国地域の優秀なゲームが好きな学生が、自分達を目指してくれるんじゃないかなと思ってるんで、その地域に自分たちがどっしり構えることによって、採用とかの面でもうまくいい関係を築けるんじゃないかなと思ってます。
基本的には開発はリモートでもできるので、拠点は広島にあってその地域の優秀な学生がリアルで会って、かつ、東京や特に日本以外の国の人でも優秀な方がいれば一緒にリモートワークでも、リアルでも働けるんじゃないかなと思ってます。
堀)
山田さん藤田さんのお人柄はいかがですか?
北尾)
特に山田さんの方は元々ゲーム会社ということで、すごく話もわかってもらえるんですよね。藤田さんとは一緒にお食事とかさせていただいて、すごく何かお兄ちゃんみたいなみたいな勝手にそんなイメージを持っていますね。
自分自身はやっぱりまだまだ小さい一つ目にすぎないんですけど、これからどんどん大きくインパクトを残していけるような会社になりたいなと思ってます。
いや、正直まだ小さいので、まずまず一歩ずつ積み重ねていくしかないと思っています。
「BLAST SETOUCHI」は17日夜が岡山県倉敷市内で前夜祭が、そして18日午前10時から、岡山市に新たにオープンした岡山芸術創造劇場ハレノワで開催される。
政策として語られるスタートアップ支援に「命を吹き込む」ようなイベントになる、そうした期待を感じさせる。