【三國志】宿敵が関羽を神様にした?主人公の一人と悪役の曹操が結んだフシギな絆と、数奇な運命
世界の歴史を見わたすと、数々の勢力がしのぎを削って闘い合うなか、
味方のハズが足を引っ張り合ったり、逆に倒すべき宿敵同士が不思議と、
「あやつこそは名将よ」と、認め合うことさえあります。
この記事では、そんな中でもとくに際立って、数奇な運命を辿った2人。
古代中国の名将、関羽(かんう)と曹操(そうそう)の関係にフォーカスして
数千年の時を超え、今にも影響を及ぼしている不思議な運命を、お話したいと思います。
曹操を打倒せよ!
「三國志」で有名な、漢王朝の戦乱。
その物語版においては、主役の1人として据えられているのが、当時でも指折りの名将・関羽です。
彼の最大の敵こそは曹操であり、三國志とは関羽たち3人の義兄弟が、
打倒“曹操”を目指して奔走するスト―リー・・といっても過言ではありません。
そんな両者はとうぜん激しく戦い合いますが、前半で関羽らは完全敗北。
捕虜となってしまい、義兄弟で主君でもある劉備(りゅうび)は、
戦いの混乱で、行方不明になってしまいます。
本来なら敵将の関羽は処刑されるか、人質として利用される境遇でしょう。
しかし曹操は、とうじ中華で活躍していた、どの武将にも増して
“人の才能”に着目する人物でした。
関羽の人望や武力、その卓越した才能に惚れこみ、
何とか自分の家臣にしたいと、考えるようになります。
互いに認め合う2将
そこで牢獄に入れるどころか、立派な屋敷に住まわせ、金品や官位の贈与を含めた
あの手この手で厚遇し「どうだ、ワシに仕えぬか?」と誘います。
しかし関羽は「わが主君は劉備ただ1人」と言って、譲らず。
そんな態度に怒るどころか「ほう、忠義を貫くか!気に入った。」とばかり、
ますます評価を高めます。
関羽の方も敵・味方を超えて人を見る、曹操の器に感心していました。
何より処刑されてしかるべきところ、厚遇された“恩”は、何とか返したいと思うようになります。
そうした中、とうじ曹操にとって最大の脅威であった、袁紹(えんしょう)という武将と、
中華の覇権をかけた、決戦のときがやってきました。
関羽は“期間限定”を条件に、曹操軍へ参加。兵を率いて出陣します。
そして袁紹軍でも最強クラスの武将を討ち取る、大戦果を挙げました。
しかし程なくして、劉備は生存しているという情報を耳にすると、
関羽はこれまで受け取った、物品の全てを返却。曹操のもとを去ろうとします。
それを知った曹操の参謀たちは、口々に進言。
「関羽を逃すなど、ありえませぬ!」
「必ずや我らの仇となりましょう。すぐ手討ちになさいませ!」
しかし曹操は言いました。
「良い、捨ておけ。あやつは義を通した。ワシもそれに応えねばなるまい」
曹操と関羽の結末
はたして軍師たちの忠言通り、のちに関羽は本当に、曹操軍にとってケタ違いの脅威となります。
曹操麾下には歴戦の猛将が揃っていましたが、そんな彼らでさえ次々と撃破され、
このままでは、本拠になだれ込んでくる!・・という状況に。
しかし、曹操軍の参謀が画策した、起死回生の計略がここで奏功。
関羽軍は味方と見なしていた呉の国から背後を突かれて、敗北します。
ついに関羽は討ち取られてしまい、その首級は曹操のもとへ送られました。
その首を前にして、曹操は言いました。
「最高の礼をもって弔え。」
三國志の“物語”では、曹操は劉備の怒りを怖れ、あえて丁重に葬った描写となっています。
しかし、はたして史実はどうだったのでしょうか?
そうした理由だけで、自分達をさんざん脅かした敵将を、
多くの家臣も見守るなか、国をあげて弔えるものでしょうか。
もし、ここで「敵将の首など討ち捨てておけい!」という指示を下していたら?
もし、かつて捕虜となったときに、処刑していたら?
おそらく関羽の名は、今ほど広がっていなかったと思われます。
これは曹操の、器の大きさなくして起こり得なかった出来事でしょう。
のちに関羽は神格化し、現在も中国全土から東南アジアをはじめ、
日本の中華街でも、祀られています。
それも元をたどれば、宿敵のお陰・・と考えると、何とも不思議な運命ですね。
数奇な運命
三國志の物語は、関羽ら3人の義兄弟が「われら生まれは違えども、
同じところで死なん!」という誓いから、スタートして行きます。
ところが、その願いは叶わず。よりによって関羽の最期を見送ったのは、一番の宿敵です。
しかし最高の敬意をもって葬られ、やがて何千年のときを超えて伝説へ。
たとえ1流の脚本家でも、ここまでの物語は、なかなか思い描けないかも知れません。
・・世界の歴史をふりかえるとき、もちろん戦争や対立といった出来事は
起こらないのが、一番ではあります。
しかし、ときに命がけで渡り合い、敵を研究し尽くしたからこそ
対立の関係を超えて認め合ったケースも、しばしばあります。
そうしたエピソードには心惹かれるものがあり、そうした関係を追ってみるのも
歴史を物語として見たときに、面白い1つですね。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。