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【大河ドラマ】「次の主人公は是非うちに!」町をあげて誘致をPRし、大河へ立候補している歴史人物・3選

原田ゆきひろ歴史・文化ライター

突然ですが、あなたは「大河ドラマになってほしい」と望む人物は、誰かいるでしょうか。

今や日本の文化とも言える存在になっている大河ドラマ。2025年の『べらぼう 〜蔦重栄華乃夢噺(つたじゅう・えいがのゆめばなし)』は第64作目となり、その歴史も長いコンテンツになりました。

しかし日本史を見渡せば、まだまだ取り上げられていない人物も、全国に多く存在します。

今回はその中でも、自治体をあげてPRを行うなど、大規模に誘致活動が行われている、3人の歴史人物をご紹介したいと思います。

【宇喜多直家と秀家】岡山県・岡山市

宇喜多直家秀家は父と子の関係で、ともに戦国時代に活躍した武将です。ゆかりの深い岡山市を中心に『戦国宇喜多家の大河ドラマ誘致を応援する自治体の会』が結成され、その名の通り多数の市町村が連携し、PR活動を推し進めています。

「わしらも大河になりたいが!」というインパクトのあるキャッチコピーのもと、誘致の署名に加わると、宇喜多家臣団となった“証”が貰えるなど、ユニークさも兼ね備えた取り組みが展開されています。

もともと宇喜多家は守護代に仕える有力武将の一族でしたが、親の代に居城を攻められて陥落。流浪の身となり、懇意にしていた人物にかくまわれながら、各地を転々としたと伝わります。

そうした身一つの状況から直家は、策謀を重ねて失った宇喜多家の所領を取り戻しました。またその後も躍進、策略の冴えや直接の合戦においても武勇を発揮し、ついには50万石とも言われる、大大名にまで成り上がった武将です。

その背景からしばしば斎藤道三にもなぞらえられる他、同じ中国地方の智将「毛利元就」「尼子経久」とともに“中国三大謀将”と呼ばれることもあります。なお毛利家とは中国地方の覇権をかけて、激しく争いました。

その直家の跡をついだ秀家は、豊臣秀吉に従い四国征伐、九州征伐、小田原征伐にも従軍し、その天下統一を大きく支えました。そのため秀吉からの信頼も高く、豊臣政権の頂点たる五大老の1人にも選ばれています。

ちなみに秀家の名は秀吉の“秀”から一字を授かっており、ほぼ豊臣家の一門と同等の扱いを受けていたと伝わります。その後、関ケ原の戦いでは豊臣家への忠義から、石田三成に味方。

その兵力は諸説ありますが、1万7千人にも及んだと言われ、その通りであれば西軍における戦場の最大兵力です。いかにこの戦いに賭けていたかが伺え、もし西軍が勝利すれば一躍、天下を治める主力大名となる可能性もありました。

しかし結果は徳川家の勝利となり、当然ながら領地はすべて没収。八丈島へ流罪となり、復帰は叶いませんでした。それから江戸時代の全般を通して、徳川家に弓を引いた武将として、良く描かれることは少なく・・むしろその名が脚光をあびる機会自体が、ほぼありませんでした。

こうした事実からも、ある意味で歴史に葬られてしまったとして、その宇喜多家に「再び光を」という目標のもと、現在もPR活動が続けられています。

【ジョン万次郎】高知県・土佐清水市

自治体を中心に商工会議所や観光協会、 その他ゆかりのある様々な団体が連携して、PR活動を行っています。

高知県の歴史人物と聞かれれば、多くの方がまず坂本龍馬の名を挙げると思います。しかし同時代には彼に勝るとも劣らない激動の生涯を送り、また日本の近代化を大きく支えた人物が存在し、それがジョン万次郎です。

万次郎は、もともと土佐の貧しい漁村に暮らす、1人の漁師でした。しかし漁の最中に遭難し、無人島(伊豆鳥島)に遭難したことが、その後の運命をまるで違うものに変えます。

たまたま通りかかったアメリカの捕鯨船に救助され、その恩を返すために船内で懸命に働いた彼は、船長に気に入られました。そして乗っていた“ジョン・ハウランド号”という船名にちなみ「ジョン万次郎」と呼ばれるようになりました。

そのままアメリカ本土へ渡り、船長の養子として育てられます。好意で通わせて貰った学校を、極めて優秀な成績で卒業。航海士や捕鯨船員として世界中の海に行き、またゴールドラッシュに湧く金鉱で働いて、資金を貯めました。

知識・財産・肩書き、いずれもそのままアメリカで暮らして行くために、充分なものを得ました。しかし彼は祖国の日本を想い、当時は鎖国の時代なので戻れば禁を犯したとして、捕まるリスクをも覚悟の上で日本へ。

アメリカ船は寄港出来ないので、自ら用意した小型の舟“アドベンチャー号”とともに上海行きの大型船に乗り込み、今でいう沖縄県の近くで下船。

アドベンチャー号に乗り、自力で当時の琉球王国へたどり着きました。そして役人に自分がアメリカからやってきたことを申告。

それから、その身は薩摩藩に預けられることになりますが、先進的な考えを持っていた島津家は、ジョン万次郎が持つ世界の最新知識を、重宝しました。罪人どころか厚遇され、薩摩藩にさまざまな技術や知恵をもたらしたのです。

その後、故郷への帰還を果たし家族にも再会しています。また土佐を治めていた山内容堂も、先進的な考え方をもつ大名で、万次郎のアメリカ滞在の体験を書物へ記させます。

そうこうするうち日本にはペリーが来航し、徳川幕府を震撼させました。「また日本へ来る」と予告して帰ったペリー艦隊。また他にも日本へ迫る西欧列強にどう備えるのか。ここで万次郎の知見が求められ、江戸へと召喚されます。

そして徳川家の旗本という異例の待遇で取り立てられ、ジョン万次郎は一般庶民から武士“中浜万次郎”となったのです。

ペリーが再来すると、その能力的に双方の通訳や仲介を担当する流れでしたが、幕臣の中には「万次郎はアメリカと繋がりが深い、相手に都合の良い方向へ話を運ぶのでは?」と疑う人物もおり、外されてしまいます。

しかし結果的に日本は不平等条約を結ばされ、その撤回のため後々に、とてつもない苦労をすることになるのです。ここで世界事情に明るい万次郎を、もし前面に立てて交渉していたら、歴史は大きく変わっていたかも知れません。

その後は、勝海舟らとともに使節団として咸臨丸(かんりんまる)でサンフランシスコへ。維新後も明治政府にその能力を買われ、ヨーロッパ使節団への抜擢、また大学で人材を育てるため教授への就任など、あらゆる方面で引っ張りだことなりました。

そしてアメリカに立ち寄った際には、養父にして恩人の元船長とも、感動の再会を果たしています。

彼の大河ドラマが実現すれば、アメリカ滞在の期間も長く、異色の雰囲気になりそうですが・・“事実は小説よりも奇なり”と言える冒険に満ちた生涯は、多くの人々の心を揺さぶる作品となりそうです。

【立花宗茂と誾千代(ぎんちよ)】福岡県・柳川市

2人にゆかりの深い柳川市を中心に、大河ドラマ招致委員会が形成され、誘致へのPR活動を行っています。その総会には県知事をはじめ、県議会議長も駆けつけるなど、実質は福岡県をあげて後押ししているとも言える形です。

立花宗茂は、九州の北東で勢力を誇った“大友家”という大名の一家臣ながら、秀吉に“西国一”とも言わしめた名将です。

その大友家は同じく九州の覇権を目指す島津家に、決戦で大敗し(宗茂は戦場に不在)滅亡の危機に陥ります。

その勢いを一手にくいとめた武将が、立花宗茂でした。5万とも言われる島津勢を、約3千の手勢でくい止め(立花山城の戦い)、その間に助けを求めていた豊臣秀吉の援軍が到着し、主家は滅亡を免れました。

この尋常ならざる軍才は、のちに徳川家康も惚れこみ、関ケ原合戦の前にはいち早く味方に誘うべく使者を出しています。

しかし、立花宗茂はかつての豊臣秀吉への恩は忘れられずと、不利を承知で拒否。石田三成に味方して近畿地方へ出陣、東軍の味方勢力に脅威を与えます。

そして彼自身は関ケ原で戦うことはありませんでしたが、石田三成が敗北したのちも大阪城を拠点に、もうひと合戦する気でした。しかし総大将である毛利輝元に肝心の戦意が無く、仕方なく手勢とともに九州へ引き上げます。

その後、徳川家の天下になると領地を没収されて流浪の身となりますが、その才覚を買われ、西軍に属した武将としては異例ながら、徳川家に取り立てられました。

なおNHKでは『歴史探偵』という歴史番組が放映されていますが、2025年1月8日(水)の放送では、立花宗茂が特集される予定となっています。

その理由としては、取り上げて欲しい戦国大名をファンミーティングで募集したところ、最もニーズが多かったからと言います。いつの日か、大河ドラマに取り上げられる日も、夢ではないかも知れません。

全国で望まれるさまざまな歴史人物

なお上記の立花宗茂の項目で、その妻である立花誾千代(ぎんちよ)に関しては、以下の記事にて紹介しており、ご存知ない方はぜひ合わせてご覧ください。

≫猛将にもひるまない女武将にして、慈愛の女神となった戦う姫君!

以上、大河ドラマへのノミネートが目指されている人物を、ご紹介しました。なお全国にはここでは触れなかった多数の地域でも、さまざまな人物がPRされています。

徳島県が推薦する戦国武将の三好長慶(ながよし)、茨城県や島根県など複数の自治体が推薦する千姫(せんひめ)、福井県が推薦する由利公正(ゆり・きみまさ)などなど・・。

すべての詳細を記せないのは残念ですが、いずれにしても地元の歴史人物のドラマ化を目指し、光を当てようとする活動は、たいへん夢やロマンがあります。

この先々にどのような物語が誕生するのか、ぜひ楽しみにして行きたい思いです。



歴史・文化ライター

■東京都在住■文化・歴史ライター/取材記者■社会福祉士■古今東西のあらゆる人・モノ・コトを読み解き、分かりやすい表現で書き綴る。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。■著書『アマゾン川が教えてくれた人生を面白く過ごすための10の人生観』■鬼滅の刃・ドラゴンボールZのファン

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