Yahoo!ニュース

触るだけで「本当の」消費期限がわかる?食品ロスを減らす英国発の鮮度指標ラベルmimica touch

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
左は常に滑らか。右を触って判断(Mimica Labs Case Study)

世界では、食料生産量の3分の1にあたる13億トンが毎年廃棄されている(1)。2015年9月に国連サミットで採択されたSDGsのターゲット12.3(ゴール12番のターゲット3)では、「2030年までに世界の小売・消費レベルで発生する食料廃棄を半減させる」と数値目標が定まっている。

そこで食品ロスを減らすために先進国で始まっているのが、賞味期限の日付だけで「食べられない」と判断してすぐ捨てることのないよう、消費者に啓発することだ。日本では、消費者庁が賞味期限の愛称・通称コンテストを実施し、「おいしいめやす」が大臣賞に選ばれた。ピンポイントの日付で品質が切れるわけではないことをわかりやすく表している(3)。

年間700万トンの食品ロスを減らす英国の取り組み

英国では年間700万トンの食品ロスが発生しており、一世帯から廃棄される食品の金額は年間470ポンド(日本円で72,592円)にも及ぶ。そこで2021年1月19日、英国食品基準庁(FSA)は、食品が悪くなっているかどうかを判断するために、匂いを嗅いだり、見たり、味わったりすることを消費者に奨励する “Look, Smell, Taste, Don’t Waste”(見て、嗅いで、味わって、無駄にしない)食品ロス削減キャンペーンを始めた。

このキャンペーンは、英国政府の支援を受け、食品ロス削減アプリ「Too Good To Go」(トゥー・グッド・トゥ・ゴー:捨てるには良すぎる)が主催しており、大手食品企業のネスレやダノンなど、30以上の食品ブランドが参加している。目的は、期限表示が混同され、捨てなくていい食品が捨てられている状況を改善することだ。

英国では、それ以外にも、食品のイラストをこする(スクラッチする)と、その食品の品質が劣化したときにどのようなにおいを発するかがわかるスクラッチシールが開発されたり(4)、品質が変わることで色が変わり、消費者が食べてよいかどうかを判断できるスマートラベルも開発されたりしている(5)。

触るだけで本当の消費期限がわかるmimica touch(ミミカタッチ)

英国では、触るだけで、その食品を食べていいか否かがわかる「mimica touch(ミミカタッチ)が開発された(6)。2021年半ばのローンチ(市場導入)を目指しており、数年前から開発が進められてきた。

ジュースやフルーツ系飲料、肉への表示を計画している(mimica touch公式サイトより)
ジュースやフルーツ系飲料、肉への表示を計画している(mimica touch公式サイトより)

mimica touchは、プラスチックラベルの下にゼラチンやグミのようなジェルが入っている。そのラベルが貼られた食品が食べられる場合はジェルの弾力が感じられて滑らかでスムーズな感触が得られるが、すでに品質が劣化して食べられない状態であれば、下にある凹凸状の突起に指があたり、ゴツゴツした感触になる、というものである。動画のスクリーンショットで見た方がわかりやすい(日本語訳は自動翻訳のようで少し変)。

mimica touchの内側にはジェルが入っており、最初はスムーズで弾力が感じられる。

ラベルの中にあるジェルが変化していく(Mimica Labs Case Studyより)
ラベルの中にあるジェルが変化していく(Mimica Labs Case Studyより)

ところが、時間の経過とともに品質が変わると、中のジェルが液体になり、底の方にある凹凸の突起が指にあたり、ゴツゴツした感触に変わる。

ラベルの中にあるジェルが液状になり、下の突起が指にあたるようになる(Mimica Labs Case Studyより)
ラベルの中にあるジェルが液状になり、下の突起が指にあたるようになる(Mimica Labs Case Studyより)

ラベルのうち、左側は常にスムーズな感触が得られるが、消費期限(Use by)の書かれた右側は、品質が劣化すると、中のジェルが液状化し、ゴツゴツした突起が感じられるという仕組みだ。

なめらかな感触なら食品は新鮮(左上)で、ゴツゴツしていたらだめになっている(左下)ことを表す(Mimica - Startup - Full Pitch - FoodBytes! London 2018より)
なめらかな感触なら食品は新鮮(左上)で、ゴツゴツしていたらだめになっている(左下)ことを表す(Mimica - Startup - Full Pitch - FoodBytes! London 2018より)

J-Waveに創業者が収録出演

2021年6月25日に放送されたJ-Waveの「JK Radio Tokyo United」には、創業者で工業デザイナーのSolveiga Pakstaite(ソルベイガ・パキシュタイテ)さん(7)が登場し、英国で捨てられてしまう食品のうち、60%はまだ食べられること、そのような廃棄を減らすことにより食品ロスが膨大に減らせることを説明した。

2018年に登壇したイベントでは、小売企業が食品ロスをたった0.5%減らすだけで利益が17%上がることを説明している。

食品ロスを0.5%減らすだけで利益が17%増える(Mimica - Startup - Full Pitch - FoodBytes! London 2018より)
食品ロスを0.5%減らすだけで利益が17%増える(Mimica - Startup - Full Pitch - FoodBytes! London 2018より)

2018年に登壇したイベントでは、ソルベイガ氏は、ハム・ヨーグルト・牛乳・加工肉への導入を考えていると話していたが、6月25日のラジオでは、それに加えてジュースやフルーツ入り飲料への導入についても説明した。

2018年に登壇したイベントではハム・ヨーグルト・牛乳・加工肉への導入を考えていると話したが、ラジオではジュースやフルーツ入り飲料への導入について話した(Mimica - Startup - Full Pitch - FoodBytes! London 2018より)
2018年に登壇したイベントではハム・ヨーグルト・牛乳・加工肉への導入を考えていると話したが、ラジオではジュースやフルーツ入り飲料への導入について話した(Mimica - Startup - Full Pitch - FoodBytes! London 2018より)

たとえ食品がだめになっても捨てずに堆肥にしよう

mimica touchの公式サイトでは、食品の品質が劣化した場合(凹凸を感じた場合)「捨てなさい」とは書いていない。「堆肥にしましょう」と書いてある。

デコボコを感じたら、食品を堆肥化して、栄養分として土に戻しましょう。

If you feel bumps, it’s time to compost that food so that it can turn back into a nutrient.

ラジオでは、日本を含めたアジアでの展開の可能性も語られていた。ジェルだけで本当に食品の品質が判断できるのか?2018年のイベントでは、将来的に化粧品や薬品にも適用できると語っていたが、本当だろうか?まだ市場に導入されておらず、疑心暗鬼な部分はあるが、食品ロス分野の先進国イギリスならではの興味深い技術だと感じる。

参考情報

1)Food Loss and Waste Database(FAO)

2) TARGET 12.3

"HALVE GLOBAL PER CAPITA FOOD WASTE"

By 2030, halve per capita global food waste at the retail and consumer levels and reduce food losses along production and supply chains, including post-harvest losses

3)賞味期限の愛称「おいしいめやす」に 環境先進国スウェーデンのいう「安売りより10倍価値ある」こととは(井出留美、2020年11月2日)

4)「賞味期限」環境先進国で啓発や見直しが進んでいる理由とは?SDGs世界レポ(57)(井出留美、2021年2月10日)

5)英、毎日220万枚の廃棄ハムを削減、品質で色が変わる「スマートラベル」とは?SDGs世界レポ(62)(2021年3月12日)

6)mimica touch 公式サイト

7)Ms. Solveiga Pakštaitė, Founder & Director of mimica touch

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

井出留美の最近の記事