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【大気汚染が肌に及ぼす影響】知っておきたい皮膚への悪影響と対策

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【大気汚染が皮膚に及ぼす影響について】

近年、大気汚染が世界的な問題となっています。私たちの健康に影響を及ぼすだけでなく、実は肌の健康にも大きな影響を与えているのです。

大気汚染物質には、PM2.5(微小粒子状物質)、多環芳香族炭化水素(PAH)、揮発性有機化合物(VOC)などがあります。これらの物質は、肌の構造や機能に影響を与え、アトピー性皮膚炎や乾癬などの炎症性皮膚疾患、ニキビや脱毛などの皮膚付属器疾患、皮膚エリテマトーデスや強皮症などの自己免疫性皮膚疾患、さらには皮膚腫瘍(メラノーマ、基底細胞癌、扁平上皮癌)の発症にも関与していると考えられています。

大気汚染物質が皮膚に影響を及ぼすメカニズムとしては、酸化ストレス、皮膚バリア機能の損傷、皮膚微生物叢の乱れ、皮膚の炎症などが挙げられます。国内でも大気汚染問題は深刻化しており、肌の健康を守るためにも、大気汚染対策は喫緊の課題だと言えるでしょう。

【炎症性皮膚疾患と大気汚染の関係性】

アトピー性皮膚炎や乾癬などの炎症性皮膚疾患は、大気汚染との関連性が指摘されています。大気汚染物質は、皮膚の微生物叢を変化させ、黄色ブドウ球菌などの有害菌の増殖を促進します。また、芳香族炭化水素受容体(AhR)経路の活性化、酸化ストレスの増加、皮膚バリア機能の低下、炎症の促進などを引き起こし、炎症性皮膚疾患の発症や悪化に関与していると考えられています。

【皮膚がんと大気汚染の関連性】

大気汚染は皮膚がんの発症リスクも高めると言われています。たばこの煙に含まれる発がん性物質やPM2.5は、皮膚に直接的な刺激を与え、活性酸素種(ROS)の産生を促進します。ROSは、DNAに酸化的ダメージを与え、がん化を促進すると考えられています。また、PAHは紫外線との相互作用により、DNAの損傷や酸化ストレスを引き起こし、皮膚がんの発症に関与していると考えられています。

【ニキビや脱毛など、皮膚付属器疾患への影響】

大気汚染は、ニキビや脱毛などの皮膚付属器疾患にも影響を及ぼします。オゾンやPM2.5は、皮脂の過剰分泌や酸化を促進し、ニキビの発症に関与します。また、大気汚染物質は酸化ストレスを増加させ、毛包細胞にダメージを与えることで脱毛を引き起こすと考えられています。喫煙も、ROSの産生や炎症の促進、ホルモンバランスの乱れなどを介して、脱毛に関与すると言われています。

大気汚染が肌に及ぼす影響は多岐にわたります。肌の健康を守るためには、大気汚染対策に取り組むことが重要です。外出時のマスク着用、帰宅後の洗顔、抗酸化作用のあるスキンケア製品の使用など、できることから始めてみましょう。また、大気汚染問題に対する意識を高め、社会全体で取り組んでいくことが求められます。

参考文献:

- Gu, X., Li, Z., & Su, J. (2024). Air pollution and skin diseases: A comprehensive evaluation of the associated mechanism. Ecotoxicology and Environmental Safety, 278, 116429. https://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2024.116429

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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