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【最新研究】化膿性汗腺炎(慢性膿皮症)に新薬ビメキズマブが有効 - 難治性皮膚疾患への希望

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

化膿性汗腺炎(HS)は、皮膚の慢性炎症性疾患で、患者さんのQOLを大きく損ねる難治性の病気です。現在の治療選択肢は限られており、多くの患者さんが満足のいく改善を得られずにいます。そんな中、新薬ビメキズマブの登場が注目を集めています。

ビメキズマブは、IL-17AとIL-17Fというタンパク質の働きを阻害する抗体医薬品です。IL-17は炎症反応を引き起こす物質で、HSの発症に関与していると考えられています。つまり、ビメキズマブはHSの炎症を根本から抑える効果が期待できるのです。

【ビメキズマブの臨床試験で高い有効性を確認】

ビメキズマブのHSに対する有効性と安全性を評価するため、BE HEARD IとBE HEARD IIという2つの第III相臨床試験が行われました。その結果、16週時点でビメキズマブ投与群のHiSCR50達成率は、プラセボ群と比べて有意に高いことが示されました。

HiSCRとは、HSの重症度を評価する指標の一つで、膿瘍や炎症性の結節の数が50%以上減少し、かつ膿瘍と排液tunnel数が増加しないことを示します。つまり、ビメキズマブがHSの症状を大きく改善させる効果があることが証明されたのです。

さらに、ビメキズマブ投与群では、HiSCR75(75%以上の改善)を達成した患者さんの割合も、プラセボ群より有意に高い結果となりました。加えて、QOL評価や疼痛スコアにおいても、ビメキズマブ投与群で早期から改善が認められています。

【ビメキズマブの安全性プロファイル】

気になる副作用については、ビメキズマブ投与群とプラセボ群で大きな違いは見られませんでした。最も多かった副作用は、病勢悪化、カンジダ感染症、下痢、頭痛などで、いずれも軽度から中等度のものがほとんどでした。

ただし、まれではありますが、炎症性腸疾患や真菌感染症など、IL-17阻害に伴う副作用の可能性には注意が必要です。HS治療の選択肢が広がることは喜ばしいことですが、導入にあたっては十分な患者さんへの説明と、慎重なモニタリングが求められるでしょう。

【今後のHS治療の展望】

BE HEARD試験の結果は、HSという難治性の皮膚疾患に光明をもたらすものと言えます。IL-17の働きを抑えることで、HSの炎症を根本から抑制する新たな治療戦略の有効性が示されました。

今後は、ビメキズマブの長期的な有効性や安全性の検証、他の生物学的製剤との比較試験などを通じて、HSに対する最適な治療法の確立が期待されます。また、HSの病態解明も進み、患者さん一人ひとりに合わせた精密医療の実現にもつながるかもしれません。

参考文献:

- Kimball AB, et al. Efficacy and safety of bimekizumab in patients with moderate-to-severe hidradenitis suppurativa (BE HEARD I and BE HEARD II): two 48-week, randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre phase 3 trials. Lancet. 2024; Published Online. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(24)00101-6

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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