ドローンに無人配送車…新型コロナ拡大を防ぐ中国の「無人化技術」、活用の実態とは
新型コロナウイルスで最も多くの感染者が出ている中国だが、現在は徐々に落ち着きを見せ街も日常を取り戻しつつある。新規感染者の増加も現在は1日に30名程度にまで落ちついた。
しかし今回の感染拡大により、現在も企業活動や市民生活に大きな制約が出ている。一方で、デジタル技術の活用によりそうした制約を緩和、回避しようという動きが盛んだ。感染拡大を防ぐために、既存のテクノロジーが改めて注目を高める例も出ている。
今回紹介するのは「人と人との接触を最小限に抑える」テクノロジーだ。ウイルスの封じ込めには政府・民間ともに多くの対策が実施されたが、その中でロボットやドローンなど様々なテクノロジーが活用されている。
ドローンが市民に注意を呼びかける
「おばあちゃん、見てないで!これは私たちの村のドローンです」
「あなたはマスクをしてないですよね。むやみに外に出ないで」
「帰ったら手を洗ってね、いいですか?」
中国で新型肺炎への感染が広がる中、警察官がドローンを携帯したスピーカーを使用して、 女性に家の中に入るように促す動画が、中国のソーシャルメディアで拡散された。街の上空を飛ぶドローンに搭載されたカメラの映像を通じて人が集まっている場所を見つけ、注意する。
公安の業務にドローンを活用することで、注意喚起の効率化を図るほか、人との接触を避けることによって公安の人員の感染を避ける狙いがあるようだ。
SNSで拡散されている情報の中には他にも、歩行者にマスクを着用するように警告したり、人が集まるのを防ぐために屋外に置かれた麻雀卓をドローンが壊したりしているものまである。
また地区によっては、検温ができるドローンで住民の体温を計っているところもある。街中を歩く市民の体温を上空から測定。高熱がある人は、自宅待機や病院での受診が指示されるというわけだ。
ディストピア的な監視社会のようにも見えるが、このような感染拡大の危険がある状況下では効果的な対策とも言えるだろう。
ちなみに中国の人々の反応はと言うと、投稿された動画には「おばあちゃんも笑ってるね」「笑っちゃうね、おばあちゃんかわいい」など、この様子を楽しむコメントが目立つ。
ドローン世界最大手のDJIを擁する中国でも、日常的にドローンを見る機会は一般人にはほぼない。ドローンでの取り締まり自体が物珍しく、また動画に写っている女性の反応も相まって、広く注目された。現地メディアの「人民網」が字幕付きで発信した動画は、3月12日時点で2400万回以上再生されている。
他にも、バスケットコートで遊ぶ若者たちに、かつて東京・渋谷で話題となった「DJポリス」さながら、公安がうまく注意して家に返す様子を収めた動画なども人気だ。
筆者の中国に住む友人の間でも、このような動画は「おもしろ動画」のような位置付けで拡散され、話題となっている。「監視されていて怖い」「自分がこれをされたらどう思うか」「どうあるべきか」という話よりも、感染拡大下で家から出られない人々にとっての「楽しい暇つぶしコンテンツ」となったようだ。
武漢市内で無人配送ロボットが病院へ物資を運ぶ
人と人の接触を避けるテクノロジーとして、無人配送ロボットを活用しようという動きもあった。
新型コロナウイルスの流行と春節休暇の延長で、中国の物流業界は人手不足が深刻化した。自社物流を持つ大手各社は、この時期に無人配送サービスの実施を始めた。配送車に荷物を積み、配送指令を出すと、配送車が自動的に障害物を避けてルートを決め、送り先に荷物を配送してくれるというものだ。
例えば中国EC(電子商取引)大手の「京東(JD.com)」は武漢市内で、「スマートデリバリーロボット」が配送を開始したとweiboの公式アカウントで明らかにした。京東は今後、武漢市内のさらに多くの病院や家庭へ、スマートデリバリーロボットを使用し必要物資の配送を行うと発表している。
また、IT大手の「百度(Baidu)」は同社の自動運転オープンプラットフォーム「Apollo」と、運搬用の自動運転車開発の「新石器(Neolix)」が共同開発したスマート自動運転車を災害対応のために導入。新石器の発表によると、これらの自動運転車は病院に食事を届けたり、消毒液を噴射し街の消毒を行ったりしているという。
また新型コロナウイルスの感染拡大下にあって、感染リスクが最も高いのは、感染症病棟で働く医療関係者だと言えるだろう。患者と医療関係者の接触を最小限にすべく、医療現場でもロボットが活躍している。
例えば広東省の人民医院の感染症病棟には、「平平(Ping Ping)」と「安安(An An)」と名付けられた2台の無人搬送ロボットが導入された。ロボットを開発した塞特智能(SAITE)の発表によると、2台のロボットは役割分担をし、医療廃棄物や衣類の回収のほか、薬や食事の配達を担っているという。
2台のロボットは病院内のフロアレイアウトや作業環境を自ら識別し、収集したデータを蓄積。配送や回収をする各地点を結ぶルートをつくり、効率良く移動するという。自らドアを開閉し、エレベータターに乗り、障害物を避け、充電器に戻ることもできるという優れものだ。
これらの無人搬送ロボットが使われているのは現状では限られた病院のみだ。ただ、ロボットがこのような感染症医療の現場において、患者や医療関係者間の感染リスクを低下させるという点で効果を発揮する可能性を明らかにした事例と言える。
このように配送や物資の運搬を行うロボットは以前より存在している。筆者も展示会などではよく目にしていた。ただ、基本的には実験段階のものが多く、日常的に多く使われているということはあまりない印象だった。
新型コロナウイルスの感染拡大下で、予期せぬ形ではあるが実践的に利用される機会が増えることで、開発する各社は機能を検証する機会を多く得られていると言えるのではないだろうか。配送ロボットや関連するテクノロジーは、今後進化のスピードが上がるかもしれない。