『バキ』の柳龍光「毒手」がすごい! シリーズ中、刃牙を最も苦しめたのも、実はそのワザだった!
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
みなさん、「毒手(どくしゅ)」というワザを聞いたことがありますか?
中国拳法の秘伝のなかの秘伝。
さまざまな毒草や毒薬や毒を持つ虫を瓶に入れ、拳で繰り返し突く。
すると、そのうち毒は手に浸透する。
その手による打撃を受けた相手には、毒の激痛が走る。
かすり傷でもつけようものなら、そこから毒が侵入し、やがて相手は死に至る……!
これは怖い。
拳がちょっと当たるだけで、よくて激痛、悪けりゃ死亡。
もう逃げ回る以外に手がないという恐るべきワザだ。
しかし、この「毒手」とは実際にあるワザなのだろうか?
『闘将!!拉麺男』や『魁!!男塾』など、いろいろな格闘技マンガで描かれているのだが……。
現実なのか空想なのか、判然としない毒手。
本稿では、このアヤしくも魅力的な秘伝ワザについて、『刃牙』の柳龍光(やなぎりゅうこう)を例に考えてみよう。
◆真空という毒を作り出す!
柳龍光は『刃牙』シリーズの第2部『バキ』に登場する、小柄な中年男だ。
身長は160cmもなく、痩せていて、顔色も悪い。
しかし このヒトは、あらゆる手段で人の命を奪う「空道」の使い手だった。
その空道の技「空掌(くうしょう)」で、刃牙を失神させたこともある!
そのやり方がオドロキで、鼻と口に手のひらを当て、内部を真空にして酸素濃度を下げた……!
柳は「人間が 酸素比率6%以下の大気を吸気したなら、ただの一度で機能を失うという現実!」と言っていたが、確かにそれは事実である。
通常の酸素濃度は21%で、18%を下回ると、生命に危険が生じる。
厚生労働省も「なくそう! 酸素欠乏症・硫化水素中毒」というポスターで注意を喚起しており、そこには「6%以下で瞬時に昏倒、呼吸停止、死亡」とある。
具体的にどうやるかはわからんが、それを手のひらで実践できる柳は、確かに「空道」の達人に違いない。
――そして、そんな空道のワザの一つが「毒手」なのである。
◆科学的にあり得るワザか?
毒手を身につける方法については、柳のかつての師・国松が作中でヒジョ~に細かく述べている。
要約すると、こういうことのようだ。
天然の毒虫や毒草を磨り潰したものを湯に溶かし、砂に混ぜ合わせる。
これを数回繰り返すと毒砂が完成する。これを貫手で何度も突き、洗薬で洗って、毒を中和する。
それを日中は7分ごと、夜間は9分ごとに繰り返す。
5日目に入り、皮膚がサツマイモ色になり始めると、触っただけで花が枯れる。
その毒手で人間の体を打つと、相手は肉が腐り、骨髄も侵され、死ぬ……。
なんとオソロシイ! 毒手で打たれると必ず死ぬのだ。
それだけに、会得するには荒行が必要だ。
荒行には猛烈な痛みを伴い、国松によれば「痛みに耐えかね手首を切断する者までおりますからな……」。
ひえええええっ。
そんな苦痛を、日中は7分ごと、夜間は9分ごとに……!?
日中と夜間をそれぞれ1日12時間ずつとすれば、日中は103回、夜間は80回。
これを5日続けると計915回だ。
寝ている時間はないから、5日間ぶっ通しで突き続けるのだろう。
そのあいだに、徐々に手に毒を染み込ませながら、同時に毒への耐性を作っていく……!?
しかし、人間の体に毒が染み込んだり、耐性ができたりすることがあるのだろうか?
化学物質のなかには、皮膚を通して体に染み込んで悪影響を起こすものがあり、これを「経皮(けいひ)毒」という。
柳が選んだ天然の毒虫や毒草にも、おそらく経皮毒が含まれるのだろう。
耐性については、昆虫などが殺虫剤への耐性を獲得することがあるし、最近は毒の効かないクマネズミが増えて「スーパーラット」と呼ばれている。
ただ、これらは突然変異で薬や毒に強い子どもが生まれるためで、世代交代が必要だ。
柳が毒への耐性を持っていたのは、生まれつきそういう体質だったのかもしれない。
◆毎日が大変そう!
気になるのは、柳が特異体質で手に毒を染み込ませることができたとして、その毒の効果で、相手の体に大きなダメージを与えることがあるのか……という問題だ。
調べたら、なんとありました。
ドクイトグモや、パフアダーというヘビの毒は、人間の皮膚を壊死させるという。
その毒の名はネクロトキシン。
柳の手にも、ネクロトキシンが染み込んでいて、自分だけは毒への耐性を持っているとしたら、確かに強力なワザになるかもしれない!
とはいえ、こんな手になってしまったら、日常生活が大変だろう。
コンビニでお金を渡すと、店員さんが「うぎゃあああ!」。
電車でよろけて、隣の人の肩につかまると「ぎえええええ!」。
柳龍光の行くところ、善男善女がもがき苦しみ、死んでいく……!
彼の場合、職業にも制限がある。
医師や美容師、マッサージ師など、人の体に触る職業は絶対にダメで、とくに寿司屋さんには、絶対にならないでほしい。
政治家も厳禁。やたら握手するので、大勢の死者が出る。
――新型コロナの流行で「できるだけモノや人に触れる機会を減らす」という世の中になったけど、柳はコロナ禍の前から、そういう生活を心がけていたのではないだろうか。
さて、毒手はマンガのなかで、どんな威力を発揮したのか?
主人公・刃牙との戦いでは、前述のように、1回目は「空掌」で窒息失神に追い込み、2回目は途中で刃牙が恋人の梢江さんを抱いて逃げ去った。
なんと、刃牙に対しては2戦全勝である。
だが、別の格闘家と戦ったとき、柳は格下の相手に敗れ、対戦相手に「毒手に頼りすぎたのが敗因」などと指摘されていた。
モーレツに苦労して毒手を身につけただろうに、ひどい言われようだ。
――しかし、刃牙は対戦の数日後、物が食べられなくなり、げっそり痩せてしまった!
それ、すべて龍光の毒手の影響だった。
医者によれば「いま生きていることが奇跡」「致死量をはるかに上回る毒素が 打撃を通して幾度も打ち込まれている」。
『刃牙』シリーズにおいて、ここまで刃牙を追い込んだ格闘家はいない。
地味だし、顔色も悪いけど、柳はすごい実力者なのである。
意外……!