どんなに上司が「傾聴力」「共感力」を磨いても若者が辞めていく2つの理由
■「傾聴力」なんて、たいしたスキルではない
優秀な若者が辞めていく。
何とか阻止しようと、多くの職場で対策が施されている。
その施策の中で、とりわけ力を入れているのが、「傾聴力」や「共感力」向上だ。相手と信頼関係を築くうえで最も大切なことは「傾聴」と言われる。だが、いまだに
「自分の意見を聞き入れてもらえない」
「上司に傾聴の姿勢が足りない」
と不満を口にする若者が、とても多い。だからか、私どもが開催するマネジャー研修でも「傾聴力アップ」のニーズはとても多い。
だが、現場で実践していて強く思う。正直なところ、ビジネスで必要とされる「傾聴力」や「共感力」なんて、たいしたスキルではない、ということを。
どんなに「傾聴力」や「共感力」を訓練しても、たかが知れている。プロのビジネスコーチのレベルが【10】だとしたら、もともと【2】のスキルの人が【3】とか【4】のレベルになるぐらいだ。
しかし、それぐらいでいいのだ。
頭ごなしに否定したり、まったく耳を傾けないのならともかく、意識して相手の話を聞き、正しくリアクションするぐらいで問題はない。
プロのビジネスコーチは相手(クライアント)の眼球の動きや呼吸、声の変化を洞察して、相手の心理状態を分析する。
しかし上司が部下と関係を築くのに、それほど高度なコミュニケーションスキルを体得する必要はない。傾聴の重要性やちょっとしたテクニックが書かれた書籍を、一冊読んで実践すれば、事足りるものだ。
言い方を変えれば、どんなに上司が傾聴しても、柔らかい表現でフィードバックしても、辞めていく若者は辞めていく、ということだ。
それでは、何が問題なのか?
■実務以外に学ぶことがない上司への失望
若者が上司や会社に失望する、リスペクトできなくなる、コミュニケーションに関する、主な原因は以下の2点である。
・無駄が多すぎること
・昔のやり方を変えないこと
現場における実務に関しては、無駄はほとんどない。これ以上、作業現場で「ムリ・ムダ・ムラ」をなくそうとしても難しいほど、改善活動が徹底されている。
しかし職場内のコミュニケーションに関しては、どうか?
たとえば、リアルで集まって「進捗報告」をさせる会議で考えてみよう。
デジタルで武装し、「タイパ」を強く重んじる若者たちにとっては、無駄以外の何ものでもない。
「進捗管理のための資料を見ればわかること」
「わざわざ集まって報告させる意味がわからない」
と言われても仕方がない。しかも、会議に入っても無駄話が多かったり、成果が出ていない人の言い訳を聞かされたりしていると、
「大事な時間を返してほしい」
と誰だって思うだろう(若者だけではない)。
ある25歳の営業が、このような不満を口にしていた。
「ある日、突然ミーティングルームに集められて、他社の成功事例を聞かされたんです。そんなことに30分もかけるなんて意味がわからない」
「配布された資料を読めばわかることだし、いきなりその場で意見を求められても、何を言ったらいいかわかりませんでした」
課長の呼びかけで、中堅から若い営業までの8人が集められ、30分近く拘束されたという。しかも一度や二度ではない。こういった日々の出来事に、強い不満を感じるようだ。
「あれで、お客様のところへ行く時間が大幅に遅れました。あんなことやっておいて、生産性を上げろ。残業はダメと言われても、できません」
「私が参加しているオンラインサロンではSlackを使っています。Slackを使えば、サクッと情報共有できるし、活発に議論もできる。職場でもそうしてほしい」
こう訴える。
繰り返すが、実務に関する上司のアドバイスは心強い。そこに不満はない。
しかし実務以外で学ぶことがない上司に対する失望感は、大きい。その実務でさえもAIやロボットに置換される可能性があると確信したら、
「上司から教わることはない」
「この職場では成長できない」
と烙印を押されてしまうのではないか。
■「傾聴してるだけ」「共感してるだけ」のマネジャーたち
ある企業でも、こんなことがあった。
新型コロナウイルス感染症の影響が強かった時代は、オンラインミーティングが使われていた。なのに収束に向かうと、またリアル会議が増えたそうだ。
「どうしてリアルの会議に戻すのか」
と若者が尋ねると、
「うんうん、たしかに」
「そうだよね」
と上司は話を聞いてくれたそうだ。しかし、いったん受け止めても、
「オンラインだと、みんなの反応がよくわからないんだ」
「リアルのほうがいい、という意見が多くてさ」
と言って、結局は聞き入れてくれない。理屈が通っているのであればともかく、納得がいかないと、
「ちゃんと顔出しをさせればいい」
「チャットやリアクションボタンを積極的に使えばいい」
と、主張した。それでも、
「わかるよ。気持ちはわかる。そうだよね」
「一度、みんなで検討してみよう」
と言いながら、なかなか対応しない。対応したとしても、スピード感がない。若者の言い分が正しいかどうかは別だ。しかし上司が部下の言い分を聞き入れて、変えていこうという気構えが見られないのは、部下を失望させるには十分すぎるほどの減点材料である。
だから、どんなにマネジャーたちが、
「傾聴している」
「共感している」
と主張しても、「聞いているだけ」「共感してるだけ」と若者たちに受け止められるだろう。結局は、昔からいる人たちの「慣れているやり方」を変えるつもりがないのなら。
■傾聴とは、本気で納得してもらうことだ
たとえば進捗管理のやり方をChatGPTで質問してみると、いくつかの選択肢(レパートリー)が出てくる。
・ガントチャート
・カンバンチャート
・クリティカルパス法
・OKR
・KPI
・MBO……等
いろんなツールやメソッドを勧められる。そのためのコミュニケーションツールも多岐にわたって紹介してくれる。前出したSlackなどは代表例だ。
何をどのように組み合わせるかは、ケースバイケースだ。組織文化との相性もある。どんな選択肢を並べても、マネジャーの主張が正しい場合も多いだろう。
しかしながら、このような「選択肢」を調べ、検討した形跡を示してもらわないと、「結論ありき」で意思決定していないか疑いたくなるものだ。
「まだ君は若いから」
といって、意見を退けられる時代は終わった。実務経験は勝てないが、デジタルツールの活用経験では若者のほうが勝ってることも多い。
だから、
「オンラインだと、みんなの反応がよくわからない」
「リアルのほうがいい、という意見が多い」
という理由だけで、リアルの会議をし続ける理由にはならない。情報共有という名のミーティングについても、誰も支持しないだろう。これほどデジタル化が進んだ現代においては。
傾聴とは結局、相手に納得してもらうことだ。どれだけ話を聞いたのか、黙って聞いた時間の量や比率ではない。若者が問題提起したことに対して真剣に向き合い、情報を収集し、整理し、客観的な視点で検討したのか。その姿勢こそが問われている。