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平原綾香 松任谷正隆と共同演出で作り上げた20周年記念ツアー完遂。半生を辿り未来を提示した美しい歌

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/Office MAMA(全て)

「平原綾香 20th Anniversary Concert Tour 2023 ~Walking with A-ya~」は、平原の半生を巡る旅

9月にスタートした平原綾香のデビュー20周年を記念した「平原綾香 20th Anniversary Concert Tour 2023 ~Walking with A-ya~」のツアーファイナル公演が、12月24日大阪フェスティバルホールで行われた。超満員のファンは、クリスマスイブに平原からの歌の贈り物に心を熱くした。平原も鳴りやまない惜しみない拍手に涙し、節目の20年を締めくくった。

平原綾香という名の“希望”――この日集まった誰もが平原の歌にそう感じたはずだ。それはこのコンサートがアーティストとしての20年間の軌跡を辿るだけではなく、一人の人間としての39年間を紐解く旅でもあり、人生と歌がリンクし圧倒的な説得力を纏って伝わってきたからだ。ショーの開幕を告げるベルは荘厳なパイプオルガン。オープニングナンバー「Georgia On My Mind」だ。この曲は平原の父で2021年に亡くなったまことさんと一緒に演奏した曲でもあり、平原は父の存在を感じながら歌い、間奏では平原が見事なサックスを披露。「20年間私が歩いてきた道を紹介したい」と、ツアータイトルに込めた意図を説明し「おひさま~大切なあなた」を切々と歌う。

過去と現在、未来の自分に向けたダイアリーを読み上げる

そして“5歳のあーやへ”と自分に向けたダイアリーを読み上みあげる。このツアーでは、平原の過去から現在、5歳、10歳、17歳、9年前、2年前、そして未来の“あーや”へ向けたダイアリーを自ら読み、人間・平原綾香を紐解いていく。共同演出の松任谷正隆と共に作り上げたこだわりの世界だ。平原をずっと応援している人にとっては改めてその人となりを知るきっかけになり、初めてコンサートを観る人にとっては人物像と歌が鮮やかに伝わってくる演出だ。

「星つむぎの歌」ではペンライトがまさに星のように一斉に光り出し、「僕らは一人では生きていけない」「僕らは愛さずに生きていけない」と全員で合唱し、思いを共有する。「ずっと歌い続ける曲」と大切にしている「JOYFUL,JOYFUL」は、客席が総立ちになりゴスペルクワイアのコーラスが流れる中、高らかに歌い上げる。ファンキーなベースが響くNicoTheOwlプロデュースの「This is Me (〜A-ya Version〜)は、平原のラップが炸裂。玉置浩二が提供した「マスカット」はアコギ一本でドラマティックに歌い上げる。小さな頃から、だんだん成長していく様子を葡萄の実に例えて玉置が作ったこの曲は、平原の人生を辿るこのコンサートには欠かせない。

圧巻のミュージカルメドレー

平原が『ラブ・ネバー・ダイ』でミュージカルに初挑戦し来年で10年。そのミュージカルで歌ってきた曲達、「Lady Marmalade」「(You Make Me Feel Like)A Natural Woman」「Supercalifragilisticexpialidocious」「氷と炎」「Love Never Dies~愛は死なず」をメドレーで披露。時にゴスペルシンガーのように、時にオペラ歌手のように、豊かな歌を響かせると客席から“ブラボー!”の声が飛び交う。ミュージカルは“その役として生きる”ことができる瞬間を積み重ねる表現。平原の歌に大きな影響を与えているのは間違いない――そう感じさせてくれた圧巻のステージだった。

“ミュージシャン”の側面を見せる

平原は“歌唄い”であると同時に、ミュージカルスター、そしてサックスプレイヤーであり、以前からボイスパーカッションを駆使するなど、ミュージシャンの側面も色濃く持っている。そこをクローズアップさせたのが、ルーパーを使って、声をダビングし即興でビートを作り上げるコーナーだ。客席は平原のミュージシャンとしてのリアルな姿を目の当たりにできたはずだ。

「キミへ」は、平原が誰かの夢が叶うことを応援している人の歌を作りたいと、言葉とメロディを紡いだ楽曲。客席はそれぞれが“誰か”のことを思い浮かべながら、誰の心にも寄り添う平原の歌に聴き入っていた。“2年前のあーや”と題したダイアリーで、敬愛する父・まことさんのことを語り、歌った「Song for you」は万感の思いが込められ、客席に感動が広がっていくのが伝わってくる。そして代表曲「Jupiter」へ。歌い始めた瞬間に拍手が湧く。キャリアを重ねてきて、より“深化”した歌で披露する「Jupiter」は、さらに繊細に、さらに強さを纏い、伝わってくる。一転「今、風の中へ」では自身の弱い部分も曝け出しているようだ。コンサート全体を通して見せてきた、一人の人間としての素の部分を曝け出し、歌の説得力と強度が増し伝わってくる。

「20周年記念コンサートができて本当に幸せ。ずっと歌い続けていきたい」

「20周年記念コンサートができて本当に幸せ。30年、40年、50年と続けていきたい。歌い続けていきたい」と力強くメッセージし、本編を締めくくった。

それにしてもドラム則武裕之をバンマスとする、ギター&チェロ伊藤ハルトシ、ベース岡田治郎、キーボード田島岳という、手練れのミュージシャンが揃ったバンドが作り上げるアンサンブルの素晴らしさたるや…。全員が“歌心”を感じる音で平原の歌に寄り添いつつ、しっかりと自己主張する音で、芳醇なサウンドで会場を包んだ。

アンコールは「Don‘t Cry」、「スマイル スマイル」を披露、総立ちの客席から拍手が鳴りやまない。そして「明日」では切なさが広がっていく。歌詞の行間に浮かぶ感情までを鮮やかに映し出す。様々な歌で、様々な表情を見せてくれた平原。コンサートパンフレットで松任谷正隆が平原について「若いのに貫禄があるし硬いかと思えば柔らかいし、裏側と表側が同一表面上にある。とにかく時空を超えた存在。音楽性も天井知らず」(抜粋)と語っているが、その全てが歌と声に現れていた。

「このコンサートツアーは(松任谷)正隆さんの魔法だった」

松任谷正隆と平原綾香(12月16日東京国際フォーラムホールA)
松任谷正隆と平原綾香(12月16日東京国際フォーラムホールA)

ノンマイクで「CHRISTMAS LIST」を会場の隅々まで届くように心を込めて歌い、割れんばかりの拍手が起こる。そして突然ステージにサンタクロースが花束を持って登場し、平原にプレゼント。松任谷正隆のサプライズに平原は「大人になったからサンタさんはもう来ないと思った」と涙、涙、のち笑顔だ。そしてこのコンサートが「正隆さんの魔法だった」と改めて松任谷に感謝していた。まだまだ終わりたくないという平原の思いと、まだまだ終わって欲しくないという客席の思いとが、ラストのピアノ一本での「からっぽのハート」に結実した。

「明日に向かって歩いていけそうな気がする」

平原は終演後ブログに改めて「明日に向かって私は歩いていけそうな気がします。」と綴っていた。それはファンも同じ気持ちだったはずだ。平原綾香という名の“希望”を手にすることができたのだから。

12月16日東京国際フォーラムホールA公演の模様が、WOWOWプラスで12月28日に放送

このコンサートツアーのセミファイナル、12月16日東京国際フォーラムホールA公演の模様が、WOWOWプラスで12月28日に放送される(2023年12月28日(木)18:30~21:15、2024年1月14日(日)23:15~26:00【リピート放送】)。松任谷正隆もディレクションに携わっているスペシャルなライヴ映像になりそうだ。

2024年3月、恒例の“平原綾香Jupiter基金コンサート”開催

そして恒例の、平原のライフワークのひとつでもある「第8回 平原綾香 Jupiter 基金 My Best Friends Concert〜顔晴れ[がんばれ]こどもたち〜with Orchestra」が、2024年3月20日東京国際フォーラムホールCで開催されることも決定している。

【出演】平原綾香/ドラム 則竹裕之/ピアノ 大貫祐一郎/ギター 伊藤ハルトシ/指揮 佐々木新平/演奏 洗足学園ニューフィルハーモニック管弦楽団

平原綾香オフィシャルサイト

「平原綾香 Jupiter 基金」オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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