コロナ感染した高齢者の見守りとケア 知っておきたい4つのポイント
オミクロン株の派生型「BA.5」への置き換わりが進み、現在、全国における流行の主力となっています。3日前後の潜伏期間を経て発症し、7日程度、症状が続くことが多いようです。
オミクロン株では、咳や鼻水、のどの痛みが混在する上気道炎型が多く、インフルエンザに似ていますが、水が飲めないぐらい痛いという方もいらっしゃいます。必ずしも発熱するわけではなく、たとえばフランスの調査では、発熱を認めたのは 58% となっていました。それより、倦怠感 76% の方が特徴的かもしれません。
基礎疾患や肥満などのない若い方であれば、ほとんどの場合、解熱剤など症状を緩和する内服薬のみで軽快しています。
今年1月から6月までの半年間に、沖縄県で感染を確認した50歳未満 160,668人のうち、入院を要したのは1,195人(0.74%)、重症者は15人(0.009%)、死亡は2人(0.001%)でした。
一方、同時期に感染を確認した70歳以上 13,093人のうち、入院を要したのは3,148人(24.0%)と実に4人に1人です。これが医療ひっ迫の要因となっています。ひとり一人は重症化しなくなっても、多くの高齢者が感染するとベッドが足りなくなるのです。
なお、同時期における70歳以上の重症者は108人(0.82%)、死亡は89人(0.68%)でした。たしかに病原性は低下してきましたが、いまだ高齢者にとっては重症化リスクのある危険な感染症です。とくにワクチン未接種者は要注意です。
コロナによる健康被害を減らしていくためには、いかに高齢者を感染から守るかが重要です。それに加えて、感染してしまった高齢者を適切に見守り、日常的な風邪のケアができるかも大切です。
救急外来に救急搬送されてくる高齢者を診ていると、水分摂取が不十分で脱水に陥っていたり、解熱剤を使われずに高熱で弱っていたり、もう少し日常的な風邪のケアができていればと感じることもあります。もちろん、仕方のないことの方が多く、連れてきていただいたこと自体は間違いではありません。
以下、コロナに感染した高齢者を見守るにあたってのポイントを紹介します。なお、ここに紹介するお薬は、いずれも市販薬なので、近隣の薬局で薬剤師さんに相談いただけば、医師の処方箋がなくとも購入することができます。
ポイント1 体温調節をサポートして安楽に
コロナに感染したとなると、どうしても特殊なことを考えてしまいがちですが、基本となるのは一般的な風邪と同じことです。水分と栄養をとっていただきながら、発熱や咽頭痛に対して、アセトアミノフェンなど症状を緩和させる薬を内服させてください。これが基本。
熱が出始めるときは悪寒を訴えるので、衣類や布団を重ねてあげてください。訴えることができないお年寄りでも、布団に潜ろうとしたり、小さく縮こまったりしている様子がサインです。ガタガタ震えていることもあります。
こうした症状は、一般に熱が出ると収まりますが、高齢者では、熱を出せずに悪寒が長く続くことがあります。そのために布団にくるまって、熱を出すお手伝いをするのです。それでも寒気が続くときは、漢方薬の葛根湯(カッコントウ)を煎じて飲ませてみてください。
一方、熱が続いて体に籠ってくると、今度は暑がるようになります。布団を押しのけたり、口を開けてハーハー言っていたりします。お年寄りは汗をかけないことも多く、その分、水枕を腋や鼠径部にあてたりして冷やして差し上げます。タオルで体を拭くと気持ち良いでしょうが、介護者の感染リスクを高める可能性があるので時間をかけすぎないようにしましょう。
高熱が出ているときに、水分摂取を促しすぎると、嘔吐することがあります。胃ろうなど経管栄養の方についても同様で、水分投与量は適宜調整してください。ただし、汗をかいているようなら、失った分だけ水分は多めに与えてください。これは小さなお子さんと同じですね。
ポイント2 加温と加湿で上気道症状を緩和する
咽頭痛や鼻閉については、適度な加温と加湿でも緩和が期待できます。夏のエアコンの効かせすぎ、冬の換気のしすぎによる乾燥は、苦痛になることがあります。食事介助などで介護者が長時間いるとき以外は、感染者の部屋を常時換気する必要はありません。
桔梗湯(キキョウトウ)には、咽頭粘膜に直接作用して痛みを軽減させる効果があります。咽頭痛が強いときに使ってみて下さい。この漢方薬は、一気に内服するのではなく、湯に溶かして「喉を浸すように」ゆっくり飲ませると効果的です。
咳が辛そうなら鎮咳薬(メジコンなど)を使ってもいいです。ただ、生理的な咳反射を低下させるため、痰が溜まりやすくなり、高齢者では肺炎のリスクを高める恐れがあります。漫然と定期内服させないようにしてください。咳き込んで眠れないなど長引く咳には、麦門冬湯(バクモンドウトウ)が効果が期待できる漢方薬です。
なお、小さじ一杯のハチミツで鎮咳効果が期待できるので、糖尿病の問題がなければ試してみてください。
ポイント3 解熱剤や総合感冒薬を内服させる
水分と栄養をとっていただきながら、発熱や咽頭痛に対して、アセトアミノフェンを使用してください。なお、高熱だと頻呼吸になり、むしろ換気が悪くなって血中の酸素濃度が低下してしまうことがあります。呼吸が落ち着けば改善することもあるので、肺炎じゃないかと慌てる前に、解熱剤を使ってみましょう。
アセトアミノフェンが手に入りにくくなっていますが、市販の総合感冒薬があるのなら、こちらを内服させても構いません。ただ、使い慣れたものが良いです。抗ヒスタミン剤が入ったものは、とくに高齢者では尿閉となるリスクに配慮してください。腎盂腎炎を繰り返しているような高齢女性には飲ませないのが無難です。
尿閉リスクのない市販の総合感冒薬としては、パブロン50、改源かぜカプセル、ストナデイタイムなどがあります。あと、小青竜湯(ショウセイリュウトウ)は、鼻汁やくしゃみの症状を抑えます。漢方の総合感冒薬みたいなものです。
なお、体力が回復してきたら、できるだけベッドを離れ、椅子に座って食事をとるようにしてください。正しい姿勢で食事をすることは誤嚥を予防し、コロナ後の細菌性肺炎を予防します。また、高齢者を寝たきりにしないことは、回復を早めることにもなります。
ポイント4 受診すべき徴候について
冒頭で申し上げたように、オミクロン株以降は、新型コロナウイルスに感染しても、ほとんどの方が数日の症状が続いたあとに自然に治ります。
ただし、80歳以上の方、ワクチン未接種、糖尿病や肺気腫、肝硬変など基礎疾患の状態が不良な方は、とくに注意して見守る必要があります。自宅や施設で療養を続ける場合には、あらかじめ、かかりつけ医に相談してください。経過と状態によっては、抗ウイルス薬の内服を勧められることもあります。
経過中に、呼吸が早い・苦しい、もうろうとしている、ぐったりとしている、水分や食事がとれない、尿が出ない、顔色が悪いなど、状態が悪いと判断したら早めに救急外来を受診してください。
38度以上の高熱が3日以上続いているとき、血中の酸素濃度が93%以下で戻らないときは、本人がそれほど苦しそうにしてなくとも、一度は受診するようにしてください。この他、受診に悩むときは、かかりつけ医に相談してください。
逆に、38度以上の発熱があっても、こうした徴候もなく、食事がとれていて、安定して会話もできているのであれば、とりあえず自宅や施設で様子を見守っていただけます。ここで紹介したような市販のお薬を適宜使用しながら、ゆっくりと休ませてあげてください。