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韓国メディアがサウジ皇太子の訪韓で大喜び 「その後日本行きがキャンセルに」「これぞ韓国の勝利」

(写真:ロイター/アフロ)

韓国では大々的に報じられるものの、日本ではあまり大きく扱われない。そんな類のニュースだ。

インドネシアで行われたG20サミットを終え、16日からソウルに一泊二日で滞在したサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子。

これと関連して韓国を「喜ばせている」ニュースがある。

韓国を訪問した後、日本訪問も予想されていた。しかし、日本行きは実現しなかったのだ。9日に「東亜日報」がスクープとしてこう報じていた。

「韓国の次の目的地は日本となる可能性がある。現地での宿泊ホテルはリッツカールトン東京かマンダリンオリエンタル東京で調整が続いている。日程は18日から20日、もしくは24日までが有力な状況」

これが実現しなかったことが分かった18日、大手経済紙「毎日経済」系の「MBNNews」ではキャスターがこう言って笑顔を浮かべた。

「日本を訪問しなかった、というのは韓国の立場からすると内心『よかったな』という面があるのではないでしょうか」

今回の韓国側の大きな狙いのひとつは「サウジの超大型都市計画関連の受注」だった。結局その後、日本に行かなかったのは「韓国で決めた」というサインなのか? こういった予想が飛び交っている。

一泊二日の滞在で「食器を1000万円分購入」「筋トレ器具まで持ちこみ」

本論に入る前に、このサウジ皇太子がいかに韓国でラグジュアリーな時間を過ごしたかについて。

かなり"ぶっ飛ばして"いた。すごい人物だということが分かる。この話題でも、韓国はここ数日持ちきりだった。

宿泊したロッテホテルのロイヤルスイートルームの窓ガラスをすべて防弾仕様に替えさせた。

一泊二日の滞在のために、ベッド、専用のテレビ、筋トレ器具を韓国に持ち込んだ(これはG20サミットからの流れか)。

滞在期間中の食事で使う食器を1億ウォン(約1045万円)でポンと購入(イスラム教で禁止されている食材が載った可能性のある食器を嫌ったため)。

保安スタッフが皇太子の去った後にその場に残り、落ちた髪の毛や指紋を消していった。

財界との打ち合わせは…サムスン、SK、HYNDAIなど8大企業の総裁を一斉に集合させて。

尹錫悦大統領はVIPとして自宅(官邸)に皇太子を招き入れた。

大統領夫人がBTSの限定アルバムをプレゼントした。

「MBNNews」は「(1999年4月に訪韓した)エリザベス女王ばりに話題を振りまいて帰った」と伝えた。

話は「超大スケールの受注話」 

では、なぜ韓国がサウジ皇太子のお迎えに全集中し、日本に行かないことを喜んでいるのか。

主導の下行われる新都市計画「NEOMCity(ネオムシティ)」建設などの発注に注目が集まっているからだ。

いわば「最先端未来スマート都市」計画。

2017年に発表された総事業費1兆ドル(約141兆円)規模の事業だ。サウジアラビア北西部の紅海付近の2万6500平方キロメートル(ベルギー国土と同等)の新都市を設けるというものだ。ここに人口900万人が暮らす新都市を造ろうとしている。

そのなかには環境に優しい直線都市「ザ・ライン」と、海の上に浮かぶ八角形の先端産業団地「オクサゴン」、環境にやさしい山岳観光団地「トロジェナ」の3つが含まれている。

メインとなる「ザ・ライン」は、以下のような点を掲げている。

年中温暖な気候。

砂漠の緑地化計画。

500階建て以上の建物を多く建設。

ロボットによる家事手伝い。

すべての住民が5分以内に家庭から学校、職場、公園に移動できる便利さ…。

のみならず道路や車のない炭素排出ゼロ都市、太陽光などの再生可能エネルギーで都市電力を供給などのほか、太陽光などの再生可能エネルギーで都市電力を供給を目指す。

MBNの政治専門記者チョン・ユンソン氏も「果たしてこれが実現可能なのだろうかと思えるほどの夢の世界」と語る。

これによってサウジアラビアは「脱石油依存」を目指しているという。

日本に行かなかったのは「韓国外交の勝利?」

韓国はこのプロジェクトに対し強い意気込みをもって工事の受注を取ることを目指してきた。すでに都市の両端を移動できる高速道路のほか、サムスン物産とヒュンダイ建設が鉄道のトンネジ工事を進行中。アメリカの協力関係を築きつつも受注を得ているという。政府側も「ワンコリアチーム」を結成し、この受注を全面支援する方針だ。

その受注合戦で韓国側がライバルとみなしているのが…日本だ。

「建設・先端情報通信分野の受注で韓日戦となる可能性がある」(東亜日報)

韓国の業界筋の話として「今回の(皇太子の)強行軍は、NEOMCityのプロジェクト関連の投資元を探すことだと考えている。特に建設と情報通信など先端事業分野に強みを持つ韓国と日本の企業が皇太子の構想に入っていると分析している。NEOMCityの事業受注を巡り、韓日戦が繰り広げられる可能性が囁かれている」。

ところが…皇太子は韓国だけを訪れ、自国に帰ってしまった。

これに韓国は「ウハウハ」なのだ。

冒頭の「MBNNews」のキャスターは続ける。

「これは…我々の外交の勝利ではないですか!?」

番組にコメンテーターとして出演した保守系与党「国民の力」の元スポークスマン、ユン・ヒソク氏はこう語った。

「外交の勝利と言いますと…根拠が必要なんですが…まだ(日本に行かなかった)理由がわからないんですよ。韓国でも欧米でも報じられていないので。

いずれにせよ韓国の経済界が今回国王を迎えた目的はNEOMCityの受注であるため、日本に行かなかったことは好材料だ。そういうことは出来ます。韓国の立場からすると悪いとは言えない、ということです」

…当の皇太子は20日に行われたカタールW杯の開幕式に姿を現した。理由はこれだったか? 韓国国内では「訪問は韓国だけで十分だった」という報道もあり、様々な憶測を呼んでいる。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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