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「息子の代わりに私が行く予定だった」タイタニック探索ツアーで消息不明の19歳の母が証言

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
船に乗せられたタイタン号。出典:oceangateexpeditions.com

難破船、タイタニック号の残骸を見に行くツアーで、5人が行方不明だ。その中には親子もいた。

パキスタン出身の実業家で英国籍を持つシャザダ・ダウッドさん(48)と大学生の息子、スールマン・ダウッドさん(19)。

シャザダさんの妻クリスティーン・ダウッドさんは25日、英BBCの取材に応え、行方不明となった潜水艇タイタン号に「実は、自分が乗る予定だった」と告白した。

クリスティーンさんは夫のシャザダさんとこの探索ツアーに参加予定だったが、新型コロナのパンデミックで旅行がキャンセルになった。そのうちツアー参加への気持ちが薄れたようで、「それでスペース(搭乗席)を(息子のスールマンさんに)譲った」。当時の気持ちを振り返り、「2人はずっと行きたがっていたから、私は本当に嬉しかった」と語った。

消息不明の5人の一人、実業家で息子と一緒にツアーに参加したShahzada Dawoodさん。
消息不明の5人の一人、実業家で息子と一緒にツアーに参加したShahzada Dawoodさん。提供:Engro Corporation Limited/ロイター/アフロ

クリスティーンさんによると、息子のスールマンさんはルービックキューブの名手で、12秒で攻略したことがあるほどの腕前だったようだ。ルービックキューブをいつも持ち歩き、18日の探索ツアーでも「タイタニック号が沈む3700メートルの深海で解くのを楽しみにしていた」。

BBC:ルービックキューブが得意だった息子のスールマンさんが20秒以内で全6面を揃える映像

17歳の長女も含むダウッド一家4人は18日、潜水艇タイタンの出発地点まで、カナダ船のポーラープリンス号で向かった。好奇心旺盛な性格のシャザダさんは、深海ツアーを前に「子どものように興奮していた」そうで、「最後はハグし、冗談を言い合って別れた」と、クリスティーンさんは夫と息子がタイタン号に搭乗する直前の様子を振り返った。

提供:OceanGate Expeditions/REX/アフロ

タイタン号が行方不明となり沿岸警備隊の捜索中、クリスティーンさんはずっとポーラープリンス号で待機していた。「消息が途絶え、96時間(緊急用酸素で生存できる時間)を超えたとき、私は希望を失った」と語った。

米NBCニュースではシャザダさんの姉で、スールマンさんの伯母にあたる女性の証言も紹介された。パキスタンで育ったシャザダさんは幼い頃、タイタニック号の沈没を描いた映画『A Night to Remember』を何度も観て、タイタニック号に惹かれていった。一方スールマンさんはツアー参加について「あまり乗り気ではなかった」「怖がっていた」そうだ。その日が父の日だったため、父親を喜ばせようとして一緒にツアーに参加したという。

事故後も運営会社のウェブサイトに変更なし

ダウッドさん父子を含む5人の命を奪った潜水艇タイタン号。運営会社オーシャンゲート・エクスペディションズのウェブサイトは、事故後も(現時点では)通常通り閲覧できる。トップページには、このように書かれている。

タイタニック号を探索しに行こう

世界でもっとも有名な難破船を探索しよう

*スペースに限りあり

オーシャンゲート・エクスペディションズのウェブサイト。(スクリーンショットは筆者が作成)
オーシャンゲート・エクスペディションズのウェブサイト。(スクリーンショットは筆者が作成)

さらに「詳細」をクリックすると、このような文言で参加が呼びかけられている。

スリル満点でユニークな旅

タイタニック号を自分の目で確かめる貴重な1人になろう

ツアー参加の条件は17歳以上で、週ごとに最多6人が参加できるようだ。来年の6月にも2つのツアーが予定されている(いた?)。

宣伝文句の中で、「あなたの探索ツアーに同行するかもしれない人々」として、今回のツアーで行方不明者となったフランス人探検家、ポールアンリ・ナルジョレ氏をはじめ、NASAの元宇宙飛行士のスコット・パラジンスキー氏、海洋考古学者のブリジット・バクストン博士ら6人が紹介されている。

このように著名人やインフルエンサーを利用し大々的にPRしていたツアーだったが、運営会社のCEO、ストックトン・ラッシュ氏も事故で行方不明となり、今後はどのように運営されていくだろうか。

関係者の声を含むPR動画

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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