宇多田ヒカルさんは勘違いされているのではないか?
JASRACがヤマハ等が音楽教室に対しても著作権料の請求を求めたことが問題になっています(参考記事)。この件に関するネット上の議論を見るとJASRACが学校の授業での音楽の利用について著作権料の請求を求めたと勘違いしている人がいるように思えます。
たとえば、宇多田ヒカルさんはtwitter上で「もし学校の授業で私の曲を使いたいっていう先生や生徒がいたら、著作権料なんか気にしないで無料で使って欲しいな」とコメントされています。上記の参考記事に対するコメントになっているのですが、記事中は音楽教室と書いてあるのに「学校の授業」と言い換えているのが気になります。単なる書き間違いなのか両者の区別がついていないのかのいずれかでしょう。ひょっとすると(今回の話とは全然別に)将来的にもしJASRACが学校の授業に著作権料を要求したとするならばという意味で書いているのかもしれないですが、いずれにせよこのツイートを見た人が「JASRACは学校の授業から著作権料取ろうとしているのか!」と誤解する可能性はありそうです。
学校の授業における音楽の演奏に著作権料が不要(著作権の許諾なしに自由に使える)のは著作権法上明確に定められています(細かくというと38条に定められた非営利・入場無料・無報酬の実演が根拠です)。ここで、学校には公立校だけでなく私立校も含まれますし、株式会社化した学校も含まれます。さらには、音楽学校をはじめとする専門学校(認可校)も含まれます。JASRACはこれらの学校に対して著作権料を要求しているのではないですし、著作権法の大改正でもなければ、今後ともそういうことはあり得ません(なので、もし宇多田さんのツイートの意図が、今回の話とは全然別にもし将来的にJASRACが学校の授業にまで手を伸ばしてきたと仮定したならばということだとすれば、それは杞憂です)。
今回、JASRACが対象にしているのは、学校ではなく「お稽古ごと」です。カルチャースクールに近い世界です。たとえば、ヤマハの音楽教室ではヤマハが定めたグレード試験に合格するためのレッスンを、ヤマハの教則本を使って、ヤマハの講師試験に受かった講師が教えるという「ビジネスモデル」になっています。これは、営利目的のビジネスなので、著作権利用料を払うべきであるというのがJASRACの主張です。
もちろん、教室内での演奏を公衆に対する演奏としてよいのか(参考記事)、ヤマハの音楽教室を運営するヤマハ音楽振興会は一般財団法人なので非営利ではないか(ただし、河合楽器の音楽教室は株式会社による運営のようです)、JASRACが要求するレッスン料の2.5%という料率が正当なのか、営利目的の音楽教室であっても音楽文化の育成には貢献しているのだから特別扱いすべきではないか等々、いろいろと論点はありますが、JASRACが学校の授業から著作権料を徴収しようとしているという事実はありませんので、誤情報が一人歩きしてそれを根拠に「JASRACけしからん」ということにならないように注意が必要かと思います。