熊本地震・緊急地震速報の光と影
気象庁では、災害発生の危険性を分かりやすく示すため、平成25年8月30日から重大な災害の起こるおそれが著しく大きい場合に特別警報を発表しています。
気象庁が自ら周知の措置をとるほか、報道機関の協力を求めて周知するほか、地方自治体等の防災機関の通信網やNHKの放送網を活用し、住民へ確実に伝達する体制をとっています。
地震に対する特別警報
特別警報は4種類あります。
気象等に関する特別警報、津波に関する特別警報、火山に関する特別警報、地震に関する特別警報の4つです。
地震に関する特別警報については、平成25年8月30日までは緊急地震速報のうち、震度5弱以上を予想したときを「警報」としてきましたが、これを二つに分け、震度6弱以上を予測した場合を「特別警報」、震度5強と震度5弱を「警報」としています。
特別警報 緊急地震速報で震度7、震度6強、震度6弱。
警報 緊急地震速報で震度5強、震度5弱。
予報 緊急地震速報で震度4以下。
緊急地震速報の利用
地震情報の目的は、まず2次災害防止です。地震予知ができれば、それに越したことはありませんが、地震が発生したあとでも、大きな揺れ(破壊的な揺れ)が来る前に情報が入れば、被害を軽減する対応をとることができます。これが緊急地震速報です。
緊急地震速報は、平成16年に一部運用を開始し、平成19年10月より運用を開始していますが、このような地震速報は世界初の試みです。
推定震度が5弱以上である特別警報と警報は、一般向けにテレビや携帯電話などを通じて提供されますが、直ちに行動をとる高度利用者と呼ばれるところへは、推定震度が4以下である場合も含めて各地の震度や到達時間などの詳しい情報が提供されています。
高度利用者は気象庁からの情報を受けるやいなや、直ちにコンピュータ制御を行って防災行動に入ります。例えば、新幹線やエレベーターは直ちに停止の信号が出て止まります。とにかく停止をさせ、安全を確認して再開という行動は、費用対効果が非常に大きなもので、利用が急速に進んでいます。
緊急地震速報の弱点
緊急地震速報は、地震が発生してからの速報ですので、震源地から離れた場所に対して有効な情報です。
熊本地震のように直下型の地震では、地震発生から大きな揺れがくるまでの時間が非常に短く、緊急地震速報が間に合わないという弱点を持っています(図1)。
また、緊急地震速報は、震度階級で1階級位の誤差がありますが、多くの地震が発生している時には、多数のデータが一気に集まるため、震源地の位置をコンピュータが誤って計算することがあります。気象庁では計算方法の改善を進めていますが、完全にはなくなっていません。
例えば、 平成28年4月16日11時29分に発表した緊急地震速報では、日向灘(図2の+の位置)で予想最大震度7の地震が発生するというものでした。この通りの地震であれば津波が発生して大きな災害に直結する可能性があり、一刻の猶予はありませんでした。
緊急地震速報は津波予報に利用
地震に伴って津波が発生すると、多数の死者がでます。
気象庁では、地震発生後、ただちに図3の流れに沿った作業に入ります。津波が発生するかどうかが最大のポイントの作業で、緊急地震速報が大きな役割をしています。
そして、津波予報の発表・伝達を最優先し、津波が予想される場合は、一刻を争って「津波の恐れ」を伝達し、警戒を呼びかけています。
また、津波が予想されない場合でも一刻を争って「津波なし」を伝達しています。大地震の直後にはいろいろなデマが飛び交い、パニックを起こしやすくなっているからで、関東大震災でも「大きな津波がやってくる」というデマもパニックを起こした一因との指摘があります。
緊急地震速報を信用して行動を
テレビや携帯電話で緊急地震速報が伝えられるときには、すでに、高度利用者によって対応がとられ、大きな効果がでています。
緊急地震速報を入手したとき、それが正しければ、すぐに大きな揺れがきます。自分の頭を手で守るなどやれることは限られていますが、それでも、死ぬところを重傷に、重傷を軽傷にするという、かなりの利用価値があります。
緊急地震速報は直下型では間に合わないことがある、あるいは、誤報の可能性があるという弱点を持っていますが、考える時間的余裕はありませんので、まず、緊急地震速報を信用してすぐに行動をとることが大切です。
誤報でなければ、命に関わる情報ですので、すぐに対応が必要です。また、仮に誤報に基づいた行動をとったとしても、すぐに普段の状態に戻れますので、「なーんだ。誤報か。」で済むからです。
図1、図2の出典:気象庁HP。
図3の出典:饒村曜(2015)、特別警報と自然災害がわかる本、オーム社