コロナ禍でも会食を繰り返しSNSでシェア… 「自分だけは大丈夫」になる理由
コロナ禍の影響で、私たちの日常は以前と比べて大きく変化してしまいました。ネットやSNSでは不安を煽るような情報も飛び交い、さまざまな行動に対して慎重になっている人も多いようです。カウンセラーである私のところにも、“コロナ疲れ”を訴える人が多く訪れました。
今回はその内の一人Aさんの事例をご紹介します。
◆自粛疲れのせいか、大勢で会食し、それをSNSに投稿するようになったAさんのケース
Aさん(女性20代後半)が勤務する会社では、早くからコロナ対策に取り組んでいました。在宅勤務を基本とするほか、接待を含め会食を避けること、昼休みも極力一人で取るなどの方針が、全従業員に伝達されており、ワクチン接種も早い時期から希望を募るなどしていました。
ただ、Aさんは社内外の人との飲み会が大好きで、それが実際に仕事の役にも立っていたため、会社の対策は「過剰反応だ」と不満に感じていました。
それでも昨年末までは会社の自粛方針に大人しく従っていましたが、ストレスが溜まってイライラする時間が増えるようになり、年明けからは同じ考えを持つ友人と飲みに行ったり、イベントに参加したりするようになりました。同僚からは「密になるので危ない」と止められても、「大丈夫だよ!」と自信満々に答えていたようです。そのうち、7、8名で会食しているところを堂々とSNSにアップしたり、ワクチンに関する怪しげなネガティブ情報をシェアしたりするようになるなど、次第にエスカレート。これらは会社にも知られるようになり、上司からは投稿を削除するよう注意を受けたそうです。
◆根拠のない正常性バイアスが危険な行動を生む
ではAさんは、なぜこのように感染リスクを低く評価したり、問題行動と受け取られるような場面をSNSにアップしたりという行動を繰り返したのでしょうか。
これは、心身や行動における“ストレス反応”による影響だと考えられます。長期間ストレスにさらされると、心理面ではイライラ感や気持ちの落ち込みなど、身体面では肩こりや胃痛など、そして行動面では人間関係のトラブルや飲酒量の増加などが表れるようになります。Aさんの場合は、イライラ感のほか、職場から問題視されるような言動が、行動面のストレス反応として表れていたと考えられます。
アメリカの心理学者ラザルス(1922 – 2002)らが提唱した心理学モデルによると、自分にふりかかった出来事をストレッサ―(自分にとって脅威となるもの)と認識すると、コーピング(ストレスに対処するための行動)が実行されるそうです。
Aさんのように、これまで友人との飲食やイベント参加などをコーピングとして頻繁に使用してきた人は、それができなくなってしまったコロナ禍においては、環境に適応することが難しくなります。その結果、「自分だけは大丈夫だ」と根拠無く思い込むようになってしまい、周りに止められても飲み会などに出かけてしまうようになるのです。
この“自分だけは大丈夫”という思い込みこそが、災害心理学でいう「正常性バイアス」と呼ばれるものです。無意識のうちに、自分に都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりするようになってしまうのです。予期せぬ変化に心が過剰に反応して疲弊してしまわないための防衛本能の一種なのですが、自然災害などの非常事態においては、避難を妨げる要因になったりもしてしまいます。
◆効果的なコーピングで、正しいストレスマネジメントを
自粛期間中であるにも拘らず、一定数の人たちが不要不急の外出を繰り返してしまうのは、この正常性バイアスのせいかもしれません。心の不安を一掃するために正常性バイアスが発生すること自体は自然なこととも言えますが、根拠のない楽観的思考を持たないよう、私たちは正常性バイアスに惑わされないようにすることが大切です。そのためには、自粛と両立する効果的なコーピングによってストレスに対処することが必要となります。
Aさんも自身の正常性バイアスのことを知ることで、ようやく自分の状態が把握できたようで、コロナ禍でもできるコーピングを考えてみるということでした。
不安定な時代であればあるほど、ストレスマネジメントの能力は必要となります。
個人でできることは、まずセルフモニタリングをして、自分はどの程度のストレスを抱えているか、普段どのようなコーピングを用いることが多いのかを自覚することです。そして、直面しているストレッサ―に対して、柔軟で現実的なコーピング方法を選択し、成功体験を増やしていくことが重要です。そして企業は、コロナの感染についての対策を徹底することはもちろん、従業員の心の健康を守るための“術”を伝えていくことが重要となるのです。