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新型コロナ 米国民の受け止めに地域格差 米CDCは高齢者に空の旅、クルーズ旅行の取りやめを呼びかけ

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
クルーズ好きの高齢者は多いけれど、今はリスク高すぎ。(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルス感染の地域差

 米国各地の学校で、スプリング・ブレイク(春休み)が始まった。地域によって多少前後するが、筆者の住むテキサス州では3月7日から14日までという学校が多い。家族連れで国内外の旅行やイベントに出かけたり、大学生が旅先で羽を伸ばしたりする時期だ。

 連日、米国でも新型コロナウイルスの感染者増や日用品の買いだめといったニュースが日本にも流れるため、全米がパニック状態になっているような印象を受けるかもしれない。

 しかし3月10日現在、100件以上の感染が報告され、市中感染の急速な拡大が心配されているのは、ニューヨーク州、ワシントン州、カリフォルニア州の3州のみで、16州では一人の感染者もいない。(注1)

 筆者の住むテキサス州でも、武漢やクルーズ船からの退避者を除けば、先週から今週にかけて、エジプト旅行帰りの感染者数人と、カリフォルニア出張から戻った住人と家族の感染が確認されたのみで、市中感染はまだない。

 今週から州都のオースティン市で開催予定だった国際的な大規模フェスティバルSXSWはキャンセルされたものの、ヒューストン市では2週間にわたり総計で250万が参加する「家畜とロデオ・ショー」を開催中だ。

米国時間3月11日アップデイト:ヒューストン市郊外で、旅行歴のない新型コロナウイルス感染者が1人確認されたことから、ロデオ・ショーは3月11日午後、キャンセルされた。これがテキサス州ではじめての市中感染のケースとなる。

 筆者の同僚の一人も、先週末、家族とともにドイツ旅行に出かけて行った。別の同僚は明日から南欧を訪れる予定だったが、「自分のことはあまり心配していないけど、もし新型コロナを持って帰ってきて、高齢の親にうつしたら大変だから」と、急遽、旅行を取りやめた。

高齢者は人混みを避けて

 実際、CDC(米疾病対策予防センター)は3月9日、COVID-19が重篤化しやすい高齢者などのハイリスク群に対し、次のような勧告を行っている。(注2)

クルーズ船や空の旅を避ける。

大勢の人が集まる場所は避ける。

外出した時は他人との物理的な距離を十分にとる。

できるだけ家で過ごすことで、感染リスクを避ける。

 さらに、念のために薬や日用品を余分に用意しておくことや、こまめな手洗いなどの衛生管理の強化も呼びかけた。

 ハイリスク群は、主に50代後半からの中高年で、特に高血圧、糖尿病、心臓疾患、呼吸器・肺疾患がある人

武漢からのCOVID-19死亡リスク報告

 また3月9日、中国の研究者らが重症のCOVID-19患者の観察研究をふまえ、死亡リスク要因を医学雑誌「ランセット」オンライン版に発表した。この研究結果も、米CDCのハイリスク群への勧告を裏付ける内容だった。(注3)

 重症のCOVID-19で、武漢の2病院に入院した191人の成人患者について観察研究を行ったところ、1月31日までに137人が退院し、54人が病院で死亡した。退院した人の平均年齢は52歳で、死亡者の平均年齢は69歳。年齢が高いほど、死亡リスクも高かった。

 高齢、入院時に敗血症の兆候が見られる、高血圧や糖尿病などの基礎疾患がある、長期的に鼻マスクなどの呼吸補助を使っていることや、異常な血栓も死亡のリスク要因だったと、この研究の共同著者のZhibo Liu医師は報道発表でコメントしている。(注4)

 さらに「高齢者の予後が悪いのは、高齢で免疫機能が落ちウイルスの増殖が促進されたり、長期にわたる炎症反応で心臓や脳、その他の臓器に損傷を与えるためかもしれません」と述べている。

 またこの研究ではCOVID-19の進行について、発熱が12日間(中央値)続き、回復した患者は、13日程度で息苦しさが改善したと報告。一方で咳は長く続き、退院した患者の45%は、退院した後も咳の症状が続いていたという。

 重症患者の症状が悪化すると、敗血症や急性呼吸促迫症候群や、急性心損傷、急性腎障害、二次感染などの合併症を起こす恐れがある。

 米国のテレビニュースでは、CDCの勧告を横目に、笑顔でカリブ海クルーズに向かうシニアの姿が映し出されていた。広大で、自由を重んじる文化の米国では、政府が個人の生活を制限するのが難しい。スプリング・ブレイクあけに、各地で市中感染が広がらないことを祈るしかない。

参考リンク

(注1)米国における新コロナウイルス感染発生状況(中ほどに地図あり。オレンジ色が濃いほど、発生件数が高い)CDC (英文リンク)

(注2)CDCの高齢者を含むハイリスク群への勧告(英文リンク)

(注3)オンライン版「ランセット」新型コロナウイルスのページ(英文リンク)

(注4)武漢でのCOVID-19による成人入院患者の死亡に関連するリスク要因の特定研究 (プレスリリース、英文リンク)

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』(エスコアール)がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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