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金正恩体制の北朝鮮、10年後(2031年)の姿――四つの大胆予想

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
2019年、トランプ米大統領(左、当時)と握手を交わす金正恩氏(写真:ロイター/アフロ)

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が最高指導者になって10年が過ぎた。その間、米国との直接交渉も手掛けつつ、核・ミサイル開発も加速させ、盤石ともいえる指導体制を確立した。では10年後、2031年の北朝鮮はどうなっているのだろうか。北朝鮮専門サイト「NKニュース」が専門家の見方を集約した。

 NKニュースは、北朝鮮問題に詳しい専門家から「金総書記の次の10年」に関する見解を募り、82人から回答を得た。その中で可能性の高いと考えられた「2031年の北朝鮮」は次の四つのパターンだそうだ。

(1)大規模な人道危機、深刻な食糧不足に陥るものの、エリート層には食糧の蓄えが十分にあり、核・ミサイル能力は進化を続ける

 回答者の30.5%がこの見方を支持している。そのうちマレーシア国民大の胡秋坪(Chiew-Ping HOO)博士は「このシナリオは、外部とは閉鎖状態にありつつも、高度なサイバー攻撃によって、中核的エリートや戦略的資産を維持するもの」と述べた。

 また、米ケイトー研究所のダグ・バンドウ(Doug Bandow)上級研究員は「米国が(北朝鮮の)非核化ではなく軍備管理を追求する意思を持たない限り、北朝鮮住民の人道状況の悪化は10年後にも十分にあり得る」と指摘する。

 米ミドルベリー国際問題研究所のジョシュア・ポラック(Joshua H. Pollack)上級研究員は次のように危機感を募らせる。

「北朝鮮がより危険な存在になろうとしているのに、米国やその同盟国、パートナーは北朝鮮をさらに孤立させようとしている。それに反応して、北朝鮮はさらに危険になる」

(2)緩やかな制裁の緩和を受けつつも、経済成長は鈍化し、核開発は継続する

 回答者の25.6%が支持する。

 2019年2月の米朝首脳会談が不発に終わるまで、核・ミサイル開発の一時停止と首脳外交を絡めることによって、北朝鮮は何らかの形で制裁緩和にこぎつける可能性はあった。

 北朝鮮が最後に長距離弾道ミサイル試射や核実験を実施して以来、4年以上が経過している。制裁緩和に向け、核・長距離ミサイルに関しては自制する必要性を北朝鮮側が認識している可能性はある。NKニュースは「2018~19年の一連の首脳外交で、金総書記が求めていたような制裁緩和は確保できなかったが、現実的にみれば、時間が金総書記の味方をしている」とみる。

 核兵器維持と緩やかな制裁緩和、そして経済成長……。この三つをどう絡めてみればよいのか。英ロンドン大キングスカレッジのラモン・パチェーコ・パルドー(Ramon Pacheco Pardo)教授は「米韓両国は、関与への追求を続けるか、あるは少なくともそのためのドアを開けておくだろう。おそらく北朝鮮は関心を持っている」と指摘。そのうえで「米朝間で、ある程度の制裁緩和、あるいは少なくとも免除を提供するというような合意が成立する可能性がある」と述べた。

 韓国・国民大学のアンドレイ・ランコフ(Andrei Lankov)教授は「北朝鮮は国連安保理制裁の緩和、あるいは中国との関係改善によって、同じレベルの利益を得ることができる」という認識を示す。「どちらの方法でも、核開発を続けながら、鈍い経済成長を経験することになる」と見通した。

 さらに米海軍大のテレンス・ローリグ(Terence Roehrig)教授は次のように指摘する。

「今後4〜5年間、北朝鮮の核・ミサイル開発計画は続けられ、大半の制裁措置も継続される。非核化の目標がほとんど手の届かないところにある以上、脅威を減らす方向を転換し、どのような暫定措置が可能かを模索する方向に焦点を移し始める必要がある」

(3) 中国と歴史上、最も緊密な関係になる

 回答者の13.4%がこの見方を支持する。

 中国との関係は、2016~17年に北朝鮮が核・ミサイル実験を強行したことで冷え込んだものの、18年以後は一転。金総書記は中国の習近平国家主席と15カ月の間に5回も会談し、2019年の習主席訪朝によってピークに達した。それ以来、北朝鮮は中国との関係改善の恩恵を受けるようになった。

 中朝関係は北朝鮮の生命線であり、中国からの“非公式な”制裁緩和、援助物資の大量輸送、中国人観光客によるドルの大量投入が続いてきた。多くの専門家が次の10年間で、中朝はさらに接近すると見込んでいる。

 非営利の調査・分析組織CNAの国際問題グループ責任者であるケン・ガウゼ(Kenneth Gause)氏は「金総書記が完全に対米や対南関係に背を向ければ、これまで以上に中国に頼らざるを得なくなるだろう」とみる。「このことは、中国が朝鮮半島において、これまで以上に強力な手腕を発揮し、米韓間にさらに深いくさびを打ち込むことが可能となるだろう」と見通す。

(4)新型コロナによる孤立状態の継続、経済衰退と人道状況の悪化

 回答者の9.8%がこうみる。

 新型コロナウイルス感染対策により、北朝鮮は過去約2年間、前例のない国境閉鎖に踏み切り、それが予想を上回る長さで続いている。また、パンデミックが長期化し、ワクチンの効果も低下していることから、閉鎖の緩和まで、さらに時間がかかるのではないかと考える専門家も増えている。

 そんななかで、2031年の時点でも北朝鮮は閉鎖されたままだとする予測もある。北朝鮮経済は危機的状況が続くことになる一方で、それでも「体制を脅かすような経済破綻の兆候は見られない」(ウイーン大のリュディガー・フランク=Ruediger Frank=教授)との見方もある。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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