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2連覇目指す藤井聡太銀河(19)大熱戦の末に佐々木大地五段(26)に勝ち、銀河戦ベスト4進出!

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月9日。第29期銀河戦決勝トーナメント2回戦▲藤井聡太銀河(19歳)-△佐々木大地五段(26歳)戦が放映されました。棋譜は公式ページで公開されています。

 結果は159手で藤井銀河の勝ちとなりました。

 藤井銀河はこれでベスト4に進出。準決勝で渡辺明名人と対戦します。(9月14日収録、12月14日放映)

 藤井銀河の今年度成績はこれで45勝9敗(勝率0.833)となりました。

藤井銀河、勝敗不明の終盤を制す

 藤井銀河先手で、戦型は相掛かり。序盤から一気に激しい展開になることもありますが、本局では比較的穏やかな駒の組み合いとなりました。

 駒がぶつかる前の駆け引きで、藤井銀河は角の上下移動、佐々木五段は飛車の左右移動を繰り返します。このまま千日手成立か・・・。そう思われたギリギリのところ。61手目、先手番の藤井銀河が手を変え、打開しました。

 本格的な戦いが始まると、佐々木五段は藤井銀河の攻めを強く正面から受けて立ちます。対して89手目。藤井銀河は1筋に歩を垂らします。これは珍しい判断ミスか。コンピュータ将棋ソフトによる形勢判断は、一気に佐々木よしと表示されました。

 急所の局面で、佐々木五段は時間をつぎ込んで考えます。後手は飛車取りに歩を打てばはっきり優勢。ソフトはそう示します。佐々木五段も当然深くまで読んだことでしょう。しかし藤井銀河を相手に、そううまくことが運ぶのか。疑心暗鬼に陥りそうな場面でもありました。

 90手目。佐々木五段は考えた末に歩を打たず、桂で相手の歩を取りました。

森内「いやー」

 解説の森内俊之九段は、思わずうなりました。「勝率」の表示は佐々木81%から45%になりました。

森内「将棋は難しいですね、やっぱりね」「藤井さんは命拾いですよね。たぶんもう『ダメだな』と思ってたと思うんで」

 形勢はほぼ互角へと戻ります。やがて藤井銀河がリードを奪うに至りました。

 終盤に入った110手目。藤井銀河は馬取りに金を寄ります。

森内「おお、出ましたね! 光る手が出ました」

 時間の少ない中で指された妙手。藤井銀河の将棋には、一局のうちに必ずと言っていいほど、きらめくような手が現れます。

 このままいつものように、藤井銀河が鮮やかに勝ち切るのか。そう思われたところから、佐々木五段は容易に土俵を割りません。この粘り強さが、高い勝率の秘訣なのでしょう。

 そして形勢は巻き戻り、勝敗不明の最終盤へと入りました。藤井銀河が攻めきるのか、それとも佐々木五段がしのぐのか。最後は指運(ゆびうん)勝負だったのかもしれません。そこから勝ちを見出したのは、藤井銀河でした。

 159手目。藤井銀河は佐々木陣に銀を打ち込みます。佐々木玉はついに受けが利かない形となりました。

「20秒、1、2、3、4、5、6、7、8」

 そこまで秒を読まれたところで佐々木五段は次の手を指さず、静かに頭を下げました。藤井銀河は一礼を返したあと、しばらくうつむきます。一局を振り返って、いろいろと思うところがあったのでしょうか。

 藤井銀河はこれでベスト4進出。本棋戦2連覇まであと2勝としました。

 結果として、またも先手番で勝利を収めた藤井銀河。2020年11月以降の先手番成績は34勝1敗(勝率0.971)です。

 藤井銀河と佐々木五段の対戦成績は藤井銀河が追いついて、両者2勝ずつの指し分けとなりました。

 藤井銀河が現在負け越している棋士は現在4人。唯一2番負け越しているのが佐々木五段の師匠にあたる深浦康市九段です。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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