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<シリア内戦>イドリブの学生たち(2)「楽しいはずの高校生活 ずっと戦争でくやしい」(写真10枚)

玉本英子アジアプレス・映像ジャーナリスト
イドリブは反体制派(シャム解放機構、国民解放戦線ら)が実効統治(地図:坂本卓)

◆内戦の苦境めげず大学めざす

反体制派が実効統治するシリア北西部イドリブ。シリア政府軍、ロシア軍と、反体制派との戦闘が続いてきた。激しい戦闘や空爆で2019年4月以降、少なくとも1700人の民間人が巻き込まれ、命を落としたといわれる。戦火のなかの学生生活について、男子高校生フセイン・アブドゥル・ラーマン君(17)にネット回線で話を聞いた。全3回連載の2回目。(聞き手・構成:玉本英子/アジアプレス、取材協力:ムハンマド・アル・アスマール)

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「大学進学めざし勉強の日々」とフセイン君。(8月20日・イドリブ市内・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
「大学進学めざし勉強の日々」とフセイン君。(8月20日・イドリブ市内・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)

フセイン君(17):両親と4人きょうだいの6人家族です。市の中心地に近い地区に住んでいます。9月に新学年が始まるので、高校3年生になります。今年は新型コロナ対策の影響で、春から学校が休校続きでした。今は夏休みですが、勉強に忙しい毎日です。塾にも通って、数学、物理学、フランス語など、いくつかの科目を勉強しています。イドリブの生徒は現在、アサド政権のシリア教育省の教科書ではなく、「暫定政府」の教育局が独自に発行した教科書や教材で勉強しています。

現在、イドリブの学生はシリア教育省の教科書ではなく、地元で発行された教材で勉強する。「生物」が左、「物理」が右。(8月23日・イドリブ市内・撮影:フセイン・アブドゥル・ラーマン)
現在、イドリブの学生はシリア教育省の教科書ではなく、地元で発行された教材で勉強する。「生物」が左、「物理」が右。(8月23日・イドリブ市内・撮影:フセイン・アブドゥル・ラーマン)

高校卒業後は大学進学したいです。シリアには、有名な大学がいくつもありますが、僕たちがアサド政権地域の大学に行く決断をするのは容易ではありません。アサド政権地域に行けば、反体制派が統治するイドリブの出身ということを理由に拘束される懸念があります。家に戻れなくなるかもしれないのです。イドリブにはいくつかの私立大学がありますが、費用がかかります。

扇風機の横で勉強するフセイン君。(8月23日・イドリブ市内・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
扇風機の横で勉強するフセイン君。(8月23日・イドリブ市内・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)

イドリブの大学の学位が国際的に認められるようにしてほしいです。将来は、ウェブ・プログラマーになりたい。シリアの若者は戦争と隣り合わせですが、教育は、若者たちや社会の将来にとって、とても重要だと思います。

大学への進学を目指すフセイン君は夏休みも塾へ向かう。日中の気温は40度近くになるため人通りも少ない。(8月23日・イドリブ市内・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
大学への進学を目指すフセイン君は夏休みも塾へ向かう。日中の気温は40度近くになるため人通りも少ない。(8月23日・イドリブ市内・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)

◆戦時下の日常

内戦の影響で、イドリブには電気は供給されていません。多くの家庭にはソーラーパネルがあり、そこから車のバッテリーに充電して、部屋の照明や携帯の充電、冷蔵庫などに使います。今は夏なので、日差しも強く、そういう日は母が急いで洗濯機をまわしたりします。今、イドリブの気温は昼は40度近くなり、扇風機がないと、もうフラフラです。

イドリブには電気が供給されておらず、多くの家庭が、ソーラーパネルで電気を得ている。1枚あたり日本円換算で3500~6500円。(8月23日・イドリブ市内・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
イドリブには電気が供給されておらず、多くの家庭が、ソーラーパネルで電気を得ている。1枚あたり日本円換算で3500~6500円。(8月23日・イドリブ市内・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)

週に1回、公共の水道管から水が出ます。でもそれでは十分ではないため、給水車から水を購入します。1000リットルごとに4000シリアポンド(イドリブの現在のレートで換算:約200円)で販売されています。生活の厳しいイドリブの住民にとってはこの金額は安くないです。だから、この暑さでも僕がシャワーを浴びるのは週に1回だけです。

電気が足りないので、テレビはあまり見ません。家ではスマホでユーチューブをよく見ます。情報や知識を得られそうなものがメインですが、コメディとかのお笑いも大好きです。ファンじゃないけどK-POPも知っています。

ソーラーパネルから車のバッテリーに充電し、それを家の電気につなげる。(8月23日・撮影:イドリブ市内:ムハンマド・アル・アスマール撮影)
ソーラーパネルから車のバッテリーに充電し、それを家の電気につなげる。(8月23日・撮影:イドリブ市内:ムハンマド・アル・アスマール撮影)

新型コロナ感染者がイドリブで出たと聞いています。今のところ、僕の家族は誰も感染していません。混雑した場所を避け、手はよく洗いますし、マスクをするときもあります。友達と会いたいのですが、コロナの影響で頻繁には会えません。時々、公園やプールに一緒に行きます。友達とは勉強のことや、戦況について話したりします。そして知り合いの誰かが死んだという話を聞いたりすると気が滅入ります。

<シリア>イドリブ地元記者「コロナも空爆も恐怖」(写真8枚)

カフル・ナブルでの反体制派の集会。当初はアサド政権の独裁に対し、自由を求める市民運動が主流だったが、内戦長期化で宗教色の強い武装組織が反体制派内で影響を拡大。(資料ARCHIVE:2018年・反体制派系イバア通信映像)
カフル・ナブルでの反体制派の集会。当初はアサド政権の独裁に対し、自由を求める市民運動が主流だったが、内戦長期化で宗教色の強い武装組織が反体制派内で影響を拡大。(資料ARCHIVE:2018年・反体制派系イバア通信映像)
イドリブ南部カフル・ナブルでのシリア政府軍による爆撃。フセイン君は家族とともにカフル・ナブルからイドリブ市に逃れてきた。(資料ARCHIVE:2019年・反体制派系イバア通信映像)
イドリブ南部カフル・ナブルでのシリア政府軍による爆撃。フセイン君は家族とともにカフル・ナブルからイドリブ市に逃れてきた。(資料ARCHIVE:2019年・反体制派系イバア通信映像)

◆戦争で奪われた青春

僕と家族は、もともとカフル・ナブルという町に住んでいたのですが、そこは去年、アサド政権軍による激しい攻撃があって、僕たちは家を捨てて、イドリブ市に逃げてきました。空爆や砲撃のなか、学校や市場に行くのは本当に怖かった。忘れられないのが、家の近所をロシア軍の戦闘機が爆撃して、建物が徹底的に破壊され、10人の民間人が殺されたことです。救出する民間防衛チームも遺体を見つけることができなかった。その際、僕の親友も亡くなりました。ほかにも、いとこや友人を何人も失いました。つらすぎます。僕たちの町を戦闘機で破壊したアサド大統領には職を辞してほしい。

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イドリブではシリア政府軍と反体制派との戦闘が繰り返された。2015年、反体制派が中心部を制圧。(資料ARCHIVE:2015年・反体制派メディア、ムシュカット公表映像)
イドリブではシリア政府軍と反体制派との戦闘が繰り返された。2015年、反体制派が中心部を制圧。(資料ARCHIVE:2015年・反体制派メディア、ムシュカット公表映像)

内戦が始まったのは僕が小学生の頃からだから、ずっと戦争でした。高校生って人生で一番ぐらいに楽しい時期のはずなのに。本当にくやしく、悲しいです。日本の若い人には、空爆下の暮らしを想像できるかわかりませんが、僕たちには平和な国がうらやましい。シリアが早く平和になる日が来ることを願うばかりです。

<シリア内戦>イドリブの学生たち(1)戦火のなかの受験生 トップ成績を収めた15歳少女(写真6枚)

<シリア内戦>イドリブの若者たち(3)女子大生「戦争でもあきらめない。夢はセラピスト」(写真7枚)

イドリブ一帯ではシリア政府軍と反体制派との攻防が続く。写真はイドリブ東部で前線防衛にあたる国民解放戦線。(資料ARCHIVE:2020年8月・国民解放戦線公表写真)
イドリブ一帯ではシリア政府軍と反体制派との攻防が続く。写真はイドリブ東部で前線防衛にあたる国民解放戦線。(資料ARCHIVE:2020年8月・国民解放戦線公表写真)
アジアプレス・映像ジャーナリスト

東京生まれ。デザイン事務所勤務をへて94年よりアジアプレス所属。中東地域を中心に取材。アフガニスタンではタリバン政権下で公開銃殺刑を受けた女性を追い、04年ドキュメンタリー映画「ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性」監督。イラク・シリア取材では、NEWS23(TBS)、報道ステーション(テレビ朝日)、報道特集(TBS)、テレメンタリー(朝日放送)などで報告。「戦火に苦しむ女性や子どもの視点に立った一貫した姿勢」が評価され、第54回ギャラクシー賞報道活動部門優秀賞。「ヤズディ教徒をはじめとするイラク・シリア報告」で第26回坂田記念ジャーナリズム賞特別賞。各地で平和を伝える講演会を続ける。

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