浦和レッズレディースが6季ぶりのなでしこリーグ女王に!魅力的なサッカーはいかにして生まれたか
【ホームで掴んだ自力優勝】
浦和レッズレディースが、6年ぶり3度目のなでしこリーグ優勝を決めた。 なでしこリーグ第16節、浦和駒場スタジアムで愛媛FCレディースに5-1で勝利し、2試合を残してのタイトル獲得だ。
2005年に浦和レッズレディースとしてスタートして以来、リーグ優勝は2度勝ち取っている。だが、09年はアウェイゲームで優勝が決まり、14年の優勝はホームで決まったものの、試合には敗れた。ホームで勝って優勝を決める喜びは何ものにも代えがたいが、こればかりは巡り合わせもあるから難しい。
その点、今回は最高のシチュエーションで優勝の瞬間を迎えられる状況を引き寄せ、森栄次監督の下、今季リーグ最多の3899人が入った聖地で、そのチャンスをものにしてみせた。
09年の優勝を知るFW安藤梢は試合後、喜びの実感をこのような言葉に込めた。
「今日の試合、駒場で(優勝を)決めたいという強い思いがありました。レッズレディースにこれだけのファン・サポーターがいるということは本当に、世界に誇れると思います。そういう方々に支えてもらっていますし、ファン・サポーターと一緒に優勝するという思いが強かったので、駒場で決めることができて、みなさんと一緒にトロフィーを掲げて喜び合えたことはすごく大きな意味があったと思います」(安藤)
また、1部チームで13シーズンを過ごしてきたキャリアを持つDF長船加奈は、自身初となったリーグタイトルの喜びをSNSで発信。「13年目の正直」「みんなここまで連れてきてくれてありがとう」と、喜びに満ちた絵文字とともに記した。
在籍4年目で、浦和の得点力を支えてきたFW菅澤優衣香も、リーグ優勝は初めて。これまで獲得してきたベストイレブンや得点王などの個人タイトルとの違いについて、「全然違いますね」としみじみとした口調で語り、「今のレッズの選手たちとタイトルを取りたいと強く思っていたので、それができて本当に良かったなと思います」と、柔らかい笑顔を見せた。
試合は立ち上がりから浦和ペースで進んだ。最終ラインからしっかりと繋ごうとする愛媛に対し、浦和は的確なポジショニングでパスコースを限定し、力強い寄せで奪い切る。攻撃に転じると、最終ラインから軽やかな連係プレーでボールを運んだ。愛媛がラインを下げると、流動的にポジションを変えることでできたスペースを効果的に使い、相手陣内に侵入。コンビネーションで崩したかと思えば、ゴール付近では1対1で力強くシュートまで持ち込むなど、多彩なフィニッシュでスタンドに拍手を響かせた。
そして、試合は前半9分のコーナーキックで動く。MF猶本光のキックからゴール前の混戦になり、最後は長船が押し込み先制。22分には愛媛陣内中央で安藤からのパスを受けたMF塩越柚歩が、味方の声でマークが分散した隙をついて左足を振り抜き、ペナルティエリアの端から鮮やかなミドルでゴールネットを揺らした。
その後も攻撃の手を緩めることなく、36分にも追加点。愛媛陣内で相手のスローインをMF柴田華絵が突き、こぼれ球を拾った猶本のパスをエリア内で受けたMF水谷有希が倒されてPKを獲得。水谷が自ら決めて3-0と突き放した。40分には愛媛が、コーナーキックからFW上野真実が右足アウトサイドで技ありのゴールを決めて反撃の狼煙を上げる。だが、直後の43分には浦和が高い位置でボールを奪い、MF栗島朱里のパスを受けた猶本がペナルティエリア手前から右足ですくい上げるような技ありシュートを決めて4-1。
3点リードで迎えた後半も、試合は愛媛陣内で進んだ。63分にピッチ中央で柴田が倒されてFKを得ると、水谷が素早いリスタートで安藤の動き出しに合わせた。安藤は相手DFを力強いドリブルで振り切ると、グラウンダーのシュートをゴール左に決め、勝負を決定づけた。
その後、森監督は78分からベンチメンバーを投入。MF遠藤優、菅澤、DF高橋はな、DF長嶋玲奈、DF乗松瑠華が次々にピッチに立ち、歓喜の瞬間を迎えた。
【優勝への道のり】
なでしこリーグは2015年からの5シーズン、日テレ・東京ヴェルディベレーザがリーグを5連覇し、牽引してきた。直近の2シーズンはリーグ杯、皇后杯ともにベレーザがすべて優勝。実質、“1強”と言っても過言ではない力の差を見せつけてきた。
だが、今季は浦和が6シーズンぶりにタイトルを奪還し、その勢力図を塗り替えた。コロナ禍で開幕が4カ月間延期され、シーズン前には緊急事態宣言により練習自粛を強いられたが、森栄次監督は、「練習が再開できるようになってからが勝負だと考えているので、今、追い込む必要はないし、メンタル的にもあまり焦らずにやらせたいなと思っています」(5月)と語り、再開とともに徐々にペースを上げていった。そして、リーグが開幕すると、他チームがなかなか波に乗り切れない中で着実に勝ち点を積み重ねた。13勝1分2敗。2試合を残して2位以下に8差をつけての優勝という成績に、その強さが表れている。
昨年就任した森監督の下で取り組んできたサッカーは、個性が躍動し、結果だけでなく内容でも観る者を楽しませてきた。
ピッチ上の選手たちが流動的にポジションを入れ替わり、ボール保持者に対して常に複数のパスコースを作りながらテンポよくボールを運ぶ。相手にボールを持たれる苦しい流れでも、菅澤を中心にカウンターやセットプレーから点を取ることで試合を優位に進めた。先制されても焦らず、じっくりと流れを引き寄せ、最終的には接戦をものにした。
昨季からの浦和の進化を改めて振り返ってみると、様々な要素が複合的に絡み合い、螺旋(らせん)状に良くなっていった印象がある。
「正直、私もこの2年間でここまでできるとは思っていませんでした」と、愛媛戦後に森監督は明かした。その言葉通り、目指すサッカーの理想は高く、選手は難易度の高い要求をクリアしなければならなかった。「止める・蹴る」技術に加え、あらゆる状況を優位に導く戦術理解力や、複数のポジションに対応できるユーティリティ性。実際、1年目の昨季は驚くような選手のコンバートもあった。また、交代に伴って複数のポジションを動かすことも少なくない。2年前までFWだったDF清家貴子は、右サイドバックにコンバートされてから、その類いまれなスピードを生かした攻撃参加で相手に脅威を与えるディフェンダーになり、拮抗した試合では、FWに“戻る”こともある。それに対して、左サイドバックのDF佐々木繭は、ドリブルやスペースへの動き出しなど直線的な動きを得意とする清家とは異なり、ボランチ出身の高いテクニックと戦術眼に裏打ちされたシンプルなプレーで試合の流れを引き寄せる。両サイドハーフはドリブルを得意とする塩越と、テクニックのある水谷。2人は前線から最終ラインまで、最も多くのポジションをこなせるマルチプレーヤーでもある。ドイツから2年ぶりに復帰し、1年遅れで森サッカーに加わった猶本は、持ち味である球際の強さやミドルシュートでアクセントとなり、セットプレーのキッカーとしても大きく貢献した。
高いボール保持率を可能にしたのは、安定した守備だ。選手同士の距離感が良いから、攻撃への切り替えもスムーズで、その中心には常に柴田と栗島がいた。守備の開始位置は高く、自陣に大きなスペースというリスクを抱えたが、そのスペースをカバーし、リーグ最少失点を支える柱となったのがセンターバックの長船と南萌華、そしてGK池田咲紀子の3人だ。長船と南はそれぞれ170cmと172cmの高さがあり、対人守備に強く、前への強い意識に加えてチャレンジ&カバーが徹底されている。池田は試合の流れを読む力と足下の技術が高く、攻撃の起点になった。
「基本的には、選手をどうやって光らせようかということしか考えていないので、それが彼女(選手)たちにストレートに伝わったというのもあります。グループでやる、ということがいい方向に向いたのではないかと思いますし、それがこういう結果(優勝)につながってくれたことが非常に嬉しいです」
わずか2シーズンでチームを劇的に変化させた要因を聞かれ、森監督はそのように話した。
また、今季の優勝を引き寄せた要素の一つに、ベレーザとINAC神戸レオネッサの強豪2チームとの試合で勝率を上げたことがある。
その成長は、昨季から地道に積み重ねてきた成功体験の延長線上にある。昨季、ベレーザには3月のリーグ戦と7月のカップ戦で2度の逆転負けを喫し、皇后杯でも敗れたが、9月のリーグ戦では最後まで攻め抜いて3-2の接戦を制した。そして、今季は1勝1敗。
INAC戦は特に勝てず、昨年はリーグ戦とカップ戦で4戦4敗だったが、皇后杯では2度のリードを許しながら3-2の逆転勝利。そして、今季は2戦2勝と負けなかった。どんな相手にもチャレンジャーとして「自分たちのスタイルで勝つ」姿勢を貫いてきたからこそ、足下を固めながら揺るぎないスタイルを構築できたように思う。
チームの成長は、塩越のこんな言葉からも窺い知ることができる。
「去年に比べて1点差のゲームが多いのですが、『点が取れない時間帯も大丈夫だろう』という雰囲気がありましたし、『1点取られても取り返せる』というメンタル的な成長もありました。(これまで)ベレーザやINACには後半体力が落ちたり走り負けることも多かったのですが、今季はボールを持つ時間が長くなったり、選手同士の距離感がいいために、失った瞬間に奪えていました。ボランチの2人が中心になってボールを回収してくれて、優位に進められる試合が多かったと思います」(塩越)
勝つことで、確信に変わったものもあるだろう。
昨季の終盤は「優勝」というプレッシャーがブレーキになっているように感じられる試合もあった。だが、今季は最後まで「優勝」ではなく、「目の前の一試合一試合を勝ち切る」という明確な目標を口にする選手が多く、プレッシャーとは無縁に見えた。それも、メンタル面の成長だろう。
浦和のホーム戦の平均観客数は11月12日現在、1523人でリーグトップだ(2位はINACで1241人)。観客数には様々な要素が反映されるが、今季の浦和の観客増は、その魅力的な試合内容によるものも大きいのではないだろうか。
だが、シーズンはまだ終わりではない。リーグ戦残り2試合を戦った後、12月からは皇后杯が始まる。「勝つチーム」から、「勝ち続けるチーム」になれるか。新たな挑戦が始まる。
※文中の写真はすべて筆者撮影