教員採用試験倍率、1倍近い県も なぜ地域差が大きいのか?
ちょうど、今日、明日あたりは、首都圏や九州などで教員採用の一次試験が実施されています。公立学校の教員採用試験は、都道府県や政令市等ごとに行われていて、試験日や試験方法は各地で異なります(かぶらなければ併願も可能)。新型コロナの影響もあって、たいへんでしょうが、受験生のみなさん、がんばってください!
さて、前回の記事でお話ししたように、近年、小学校や中学校の現場では、教師不足、講師不足が深刻です。
前回記事:先生のなり手がいない!? 保護者向けに募集チラシを配る学校も
たとえば、担任の先生が年度途中で体調を崩し病休に入ったものの、講師(多くの場合、非正規職)として来てくれる人がおらず、教頭が担任の代わりをする、こんなことが各地で起きています。中学校や高校の場合は教科ごとに分かれていますが、たとえば、どうしても国語の講師が見つからず、体育専門の先生が臨時に国語も担当している、そんな例もあります(数は少ないと思われますが)。
教員不足にはさまざまな背景、要因がありますが、採用試験の倍率が下がっていることで、不合格者が減り、講師バンクに登録する人が減っていることも一因です。採用試験で残念ながら落ちた方が講師となっているケースが多いためです(ほか、育児などで一度退職された方が講師となるケースなどもあります)。
さて、教員の量の確保も重要ですが、質も大事です。当たり前の話ですけど。講師バンクが枯渇しているからといって、「だれでもいいから、とにかく来て下さい!」というわけにはいきません。これは講師の質の問題ですが、正規の教員についても、「採用倍率低下で、質が下がっている」とよく言われます。今回と次回の記事では、この点について「ほんまでっか?」というところも含めて、解説したいと思いますが、その前に、きょうはまず、概況をおさえておきましょう。
■倍率が1倍近い地域も
一例として、今日も採用試験が行われている福岡県について見てみましょう。次の資料は、福岡県教育委員会の発表資料の抜粋です(強調枠は引用者、以下同様)。小学校教員について見ると、福岡県は昨年も倍率は約1.3倍と苦戦していましたが、今年も1.4倍となっています。中学校は教科によってかなりバラツキがありますね。技術家庭科は、今年は倍率は低いようです。なお、政令市は別枠(政令市で採用)なので、福岡市に限ると、もう少し倍率は高くて、小学校教員は2.5倍です。
お隣の佐賀県を見ても、小学校教員については去年は1.4倍、今年は1.6倍で、苦戦しています(佐賀県教委資料)。佐賀県では、今回の試験から対象年齢を49歳以下から59歳以下に引き上げました。60歳が定年ですから、年齢制限は廃止したようなものです。これで多少受験者が増えた側面もありそうですが、大幅な増ではないようです。なお、たまたま福岡と佐賀について取り上げましたが、似た動きは他の県でもあります(後述するとおり、地域差が大きいですが)。
先ほども述べましたが、併願も可能な場合もありますから(どうしても福岡で就職したいといった人を除いて)、途中で抜ける人や辞退者もいます。ひょっとすると、倍率が低いと、希望者はほぼ合格してしまうかもしれません。
「うちの県は応募者のほとんどは合格してしまう、“全入時代”だ」と言う関係者もいます。
もっとも巨大な東京都は、どうでしょうか。次の資料は都教委の発表資料です。小学校については、倍率が3.3倍に上がっていますね。去年と比べるとよくわかりますが、採用見込み者数が約2/3に絞られていますので、倍率が上がっています。
ちなみに、中学校の技術科は1.0倍ですね。。。場合によっては採用したい人数ぶん確保できない、ということもありえます。
隣の神奈川県について見ると、小学校教員の倍率は3.7倍(神奈川県教委資料)、横浜市の小学校教員は4.4倍でけっこうあるほうです。横浜市も東京都と似ていて、受験者数は少し減少していますが、採用予定者数がかなり減っているので、倍率アップしています(横浜市教委資料)。
■なぜ、地域差がこんなにもあるのか?
時期(何年採用なのか)や地域によって、倍率はずいぶんちがいます。これにも、いろいろな要因、背景があります。
採用倍率は受験者数÷採用予定者数なので、分子と分母にわけて考えてみましょう。
受験者数については、当然ですが、他の公務員や民間など、教員以外の就職先の募集状況や人気にも左右されます。ここ数年は、教員が過酷な労働実態であることが知れ渡っていますので、敬遠する人も出てきています。
次に、採用予定者数については、少子化が進んでいるところは、必要な教員数も少なくなりますから、絞られていきます。ただし、近年、特別支援関係や外国にゆかりのある子などで、特別なケアが必要な子が増えていて、その教員数は増加している地域も多いと思います。
おそらく一番大きい要素として、定年などで退職者がどのくらい出そうかによっても、新規採用者数は変わってきます。次のグラフをご覧ください。文部科学省「学校教員統計調査」から作成したものですが、2016年度時点の公立小学校教員の年齢構成です。
黄緑は50歳以上の割合。東北や四国、九州では、シニアな方が多いです。こうした県のなかには、大量退職がしばらく続くところもあり、先ほどの少子化の影響などにもよりますが、採用予定者数は多いままというケースもあります。
一方で、首都圏や関西など主に都市圏は、黄緑が下がっていますね。つまり、既に大量退職、大量採用はピークが過ぎているところもあります。東京や横浜が典型例かと思います。たしか、横浜市はすでに10年未満の先生方が全体の半数近くにいっています。これはこれで別の問題があるのですけど(人材育成の問題、それから産休育休になる人の増加に講師が足りない問題など)。こういうところでは、採用予定者数を一気に減らす自治体もいて、その影響で倍率が急に上がったりします。
もうひとつ、採用予定者数に影響してくるのが、各教育委員会の政策です。一気に採用者数を増やしたり、減らしたりせず、なるべく、ちょっとずつならして、計画的に採用している自治体もある一方で、そうは見えない自治体もあります。また、正規職員の採用は抑えつつ、非正規雇用への依存度を高めている自治体もあって、これも地域差が大きいと別のデータは示しています。
以上のことも踏まえつつ、採用倍率の低いところは、教員の質などの点で、問題なのか。逆に言うと、倍率が高いところは安心なのか。その点について、次回の記事では考えていきたいと思います。
⇒次の記事
●【先生の質は低下しているのか?(1)】 2倍、3倍を切る採用倍率の影響、背景を考える
(参考文献)
妹尾昌俊『教師崩壊』
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