先生のなり手がいない!? 保護者向けに募集チラシを配る学校も
「学校のホームページに教員募集のお知らせをアップしてくれ、という指示が教育委員会から来ました。末期です。」
つい先日、ある校長から聞いたことです。「末期です」というのは、そこまで教員不足、講師不足が深刻化しているという実感からだと思います。
各地に似た話はあるようで、去年の報道ですが、千葉市では、保護者向けに教員募集のチラシを配布したことが、SNSなどで一時話題になっていました(J Castニュース2019年09月25日)。この記事執筆現在も、次のチラシは市のウェブページでアップされていますし、「<急募!今すぐ勤務可能な方!!>千葉市立小・中学校の講師の募集について」ともあります。
こちらも去年の状況となりますが、2019年5月1日時点で、全国の公立小中学校で1241件の「教員の未配置」があったことが、朝日新聞の取材で明らかになっています(朝日新聞2019年8月5日)。未配置とは、教育委員会が配置する予定だったのに置けなかったという意味です。「病休の先生が出て、代わりに教頭先生が担任をしている」そんな話をあちこちで聞きます。
きょうは、教員不足の問題はなぜ起きているのか、今後はどうなりそうかなどについて解説します。
■3密対策としても、少人数クラスにしたいが・・・
各地で学校再開後、1ヶ月半近くが経過しました。密接、密集を避けるためには、分散登校のときのように、1クラス20人などの少人数のほうが望ましいのでしょうが、なかなかいつまでもそうはできません。なぜなら、先生の数が限られているからです。
日本の制度は、1クラス40人学級を標準としています(小1のみ35人)。これは外国と比べると、ギュウギュウ詰めの教室空間です。OECDの調査のよると、日本の1クラスあたりの児童生徒数は世界でワーストクラスに多いです。より正確に申し上げますと、OECD諸国のなかでは、小学校はチリに次いで2番目に多い水準、中学校はそのチリも抜いて一番多い水準です。
次の図をご覧ください。文科省が「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」~(2020.6.16 Ver.2) 」で示しているものです。このなかで、児童生徒のあいだをできれば2m、最低1mは離すよう呼びかけていますが、現場の先生たちからは、「40人学級では、2mも離せるわけがない」と言っています。この図を見ても、1mがやっとという感じですし、いかにも寿司詰め状態に見えますよね?
では、子どもの感染防止のためにも、また、より丁寧なケアをしていくためにも、「30人学級や25人学級にすれば、いいじゃないか」。そう多くの教育関係者が思っています。とりわけ、コロナ禍のなか、児童生徒の学習の進ちょくや理解度にはバラツキが大きくなっている可能性が高いですし、心のケアの必要性も高まっていますから、少人数のほうがよいように思います。
■カネもないし、カネがあっても人がいない。
ところが、少なくとも3つの点で、教員の増加には、難しさがあります。
第一に、お金の問題。日本の公立学校の先生たちは、地方公務員全体の4割近くを占めるほど、大所帯。コロナ対策として大盤振る舞いを続けている政府ですが、借金も積み重なっています。これ以上、財政出動することには、しかもいったん増やすと恒常的にお金がかかってくる人件費の増加を、財務省等は、なかなかウンとは言わないでしょう。
第二に、人がいないという問題。冒頭の教員不足、講師不足の話です。現に、国は第二次補正予算で、教員の追加的な配置を決めましたが、富山県では教員不足のため、この予算を活用しない予定である、と報道されています。つまり、カネは来ても、人は来ないと、少人数クラスなど実現できません。
第三に、人材の質の問題です。前述のように、コロナ禍で、授業や子どもたちのケアの難易度は上がっています。先生たちに求められる授業力やスキル、資質も一層高いレベルが必要です。たとえば、休校中は学習があまり進まなかった子もいるなか、休校の遅れを取り戻そうと下手にスピードアップしては、取り残される子が続出します。現にそういう学校もあると聞いています。いまも課題はありますが、新しく採用する人だって、「だれだっていい」なんてことはないのです。
■教員採用試験の倍率が低下しているワケ
どうして、教員不足が起きているのでしょうか?コロナの影響で、今後の雇用状況や人気の職業は大きく変わってくる可能性もありますが、現時点でいくつか注目したいことを解説しておきます(以下は拙著『教師崩壊』から一部抜粋、編集します)。
読者のみなさんも、最近、小学校などで、採用試験の倍率が下がっている、というニュースを見聞きした方もいらっしゃると思います。去年の状況では2倍を切っている地域もあります。このことが教師不足にも影響しています。
近年、教員採用試験の倍率が低下している地域が多い理由は、何か。
実は、一番シンプルで、強力な答えは、採用数が急増しているからです。
小学校を例にとると、倍率が高かった時代(全国規模で言うと10倍を超えていました)、2000年前後は全国で小学校の採用者数は年に3,600~5,000人前後でした。これが、ここ最近は17,000人前後まで採用枠が拡大しています。実に約4倍、5倍の採用増。中学校、高校なども小学校ほどの急激さではないものの、採用数が増えています。
次の図表は、平成12年(2000)度を100としたときの経年変化を見たものです。なんか、高度経済成長みたいなグラフになっていますね。小学校、中学校における採用枠の拡大が大きいことが、よくわかります。受験者数は言うと、それほど増えていません。むしろ、ここ7、8年は減少傾向にあります。
図表 公立小・中・高における教員採用者数、受験者数の推移(H12年度を100とした場合)
採用者数がこれだけ増えているのに、受験者数はむしろ減っているとなると、倍率が下がるのは、当たり前ですよね。(受験者数の減少も大きな問題ですが、これは別の機会に取り上げます。)
■教員不足と倍率低下に共通する構造的な問題
どういう背景になっているか、次の図表に整理しました。
倍率低下は、おもには採用数の急増によるものでした。ということは、採用試験に不合格になる人が減っているということでもあります。不合格になった人のかなりの人が講師となって、学校で働くケースがありますが、この講師候補者(教育委員会の講師バンク登録者)が減っています。産休や病休の人が出たとき、かなりの地域で、「登録者にはすべて連絡したけど、別のところに就職済などで、誰も学校に来てもらえない」という声を聞きます。講師バンクは枯渇しているわけです。
次に、大量採用で、20代など若い人が増えるわけですから、学校の職場の年齢構成もアンバランスになりつつあります。こうなると、産休・育休を取得する人も増えていきます。とりわけ、女性比率が高い小学校現場では顕著です。産育休は遠慮なく取ってほしいですが(男性の育休を含めて)、これが教員不足、人手不足を助長している部分はあります。
また、いまの学校現場はたいへん疲弊しています。精神疾患等の病休になる人も毎年多いままです(年間約5千人がうつ等で休職)。離職する人もいます。これは、教員不足と倍率低下(教員人気が低下するという意味で)の双方に影響します。
さらに、図には入れていませんが、追い打ちをかけているのが教員免許更新制です。10年に一度更新していないと、教壇に立てませんから、これは、定年や育児、介護などでいったん退職した人が現場に復帰するときの足かせになっています。
こうして背景構造を踏まえると、教員不足の問題は、まだしばらくは続きそうですし、解決に向けては、こうした構造的な問題と背景を踏まえて、どこに、どうアプローチするかを、考えなくてはなりません。
多少チラシを多く配ったという程度では、到底、解決しません。それに、3つ目に指摘した教員(または講師)の質の問題など、問題を挙げていくと、もっとあります(あと、非正規雇用が増えている問題なども)。
今後はどうなりそうでしょうか。
都市部の一部では、大量採用はずいぶん落ち着いてきました。実際、いまの時期は、教員採用試験の真っ只中なのですが、東京都の公立小学校で言うと、採用予定者数は1,570人(平成31年度選考)から1,090人(令和2年度選考)と、この1年で激減しています(よって、倍率も上がります 2.4⇒3.3)。教員不足が苦しくなるのは、富山県などもそうかもしれません、地方のほうで、いまより一層深刻になる可能性も高いです。
特効薬がある世界とも思えません。ぜひ多くの方にこういう問題や事実を知っていただき、さまざまな角度から、効果的なアプローチを講じていくべきだと思います。繰り返しますが、コロナ禍のなか、子どもたちには一層丁寧なケアが必要となっています。学校現場に「もっと頑張れ」とばかり叱咤するのでは限界が来ています。教員数ももっと必要なのですが、クリアーしなければならない課題も山積みです。
(参考文献)
妹尾昌俊『教師崩壊』(PHP新書)
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