「女々しくて」の著作権者は鬼龍院翔氏ではありません(釣りタイトル)
先日の記事「JASRACに怒られずにブログに歌詞を掲載する方法」、本当は別のことを書こうとしていたのですが、書いている途中で「JASRACがブログサービスと包括契約していることはあまり知られていないかもしれない」と思い、そちらに話題を変えてしまいました(ツイッターでの反応を見る限り、実際知らない方は多かったようです)。本題に戻して話を続けます。
元々の話は、ゴールデンボンバーの鬼龍院翔氏が、自分の楽曲を(楽曲の宣伝になるような形であれば)SNS等で自由に使って欲しいと発表したことでした。そして、先日の記事では、これに対して「著作権とは本来的に使っていいか悪いかを権利者が決定できる権利なので、権利者が自由に使ってもらった方が良いと思えばこのような動きを取るのは当然のことでしょう」と書きました。しかし、正確に言えば、「女々しくて」をはじめとするゴールデンボンバー楽曲の著作権者は鬼龍院翔氏ではなく音楽出版社です(鬼龍院翔氏は著作者ではありますが現時点の著作権者ではありません)。なので、同氏が自分の楽曲の管理を特定の条件の下で自由に使って欲しいと思っても、本人が勝手に決められるわけではありません。
これは、別に特別な話ではなく、メジャーなポピュラー楽曲では作詞家・作曲家が著作権を音楽出版社に譲渡していることがほとんどです。音楽出版社は楽曲の権利の管理やプロモーションを行なう対価として著作権収入から所定の手数料を引いて、作詞家・作曲家に分配します。
鬼龍院氏の場合、ほとんどの楽曲の著作権者はユークリッド・エージェンシーという音楽出版社になっています。これは、ゴールデンボンバーの所属事務所でもあります。鬼龍院氏は「もっと自由に使ってもらえないのか事務所の方に確認取ってみた」と言われていますので、ユークリッドが権利を持つ楽曲についてちゃんと話を通したということでしょう。アーティスト側に立った音楽出版社なので話が早かったのだと思います。
一方、「タイムマシンが欲しいよ」「僕クエスト」「あの素晴しい朝をもう一度」の3曲については、今回の措置の対象外になっていますが、これらの楽曲は、音楽出版社(=著作権者)がユークリッド・エージェンシーではないので、すぐには決められなかったということだと思われます。
さらに、ここまでの話は、鬼龍院氏作品がJASRACではなくNexTone管理だったからこそやりやすかったという点もあります。
JASRAC管理楽曲の場合、著作権はさらにJASRACに信託譲渡され、JASRACが著作権者となります(つまり、作詞家・作曲家→(音楽出版社)→JASRACと著作権が移転します)。NexToneの場合、著作権は信託ではなく管理委託なので著作権者は音楽出版社のままです(ちなみに、NexToneは個人との直接契約は原則認めないようです)。
JASRACのように著作権が信託譲渡されていると、多数の楽曲が関係する訴訟の際にまとめて原告になれるので楽といったメリットがありますが、今回のように特定の作詞家・作曲家が自分の作品を特別扱いしてほしいと思ったような場合には、さらに交渉がワンステップ増えるのでちょっとやっかいです(不可能ということはないとと思いますが)。
余談ですが、「女々しくて」が2014年のJASRAC分配金年間一位に選ばれたのを覚えている方もいるでしょう(参照プレスリリース)。鬼龍院氏作品はその時点ではJASRAC管理であって、その直後にNexToneに権利が移ったようです(なお、NexToneは現時点では演奏権の管理を行なっていませんので、演奏権だけは今でもJASRAC管理となっています)。