豊島竜王vs藤井二冠、夏の十二番勝負開幕!藤井聡太二冠はなぜ相掛かりを使い続けるのか
第62期お~いお茶杯王位戦七番勝負第1局が29・30日に愛知県名古屋市「名古屋能楽堂」で行われている。
藤井聡太王位(18)に豊島将之竜王(31)が挑戦する大注目のシリーズだ。
第1局ということで振り駒が行われ、藤井王位が先手番となり相掛かりへ進んでいる。
2日目に入りABEMA将棋チャンネルの中継で表示されるAIの判定はやや豊島竜王有利に傾いているが、大きな差ではなく互角の範疇だ。
作戦選択
26日に第6期叡王戦挑戦者決定戦で藤井王位が挑戦権を獲得して、豊島叡王への挑戦を決めた。
これで王位戦と合わせて二つのタイトル戦を争うことになった。
本局は夏の十二番勝負の開幕戦ともいえる。
対戦が続くとなれば、作戦選択も戦略として重要になる。
この王位戦第1局では豊島竜王が藤井王位の相掛かりを受けて立つ格好となった。
二人とも居飛車しか指さず、後手番では相手の作戦を堂々と受けて立つ指し方を好むため、先手番に作戦選択が委ねられる。
王位戦第1局は藤井王位が先手番になり作戦を選ぶ権利を得た。先手番が選べる作戦は基本的に、矢倉・相掛かり・角換わりの3つだ。
以前の藤井王位であれば先手番ではほぼ100%角換わりであった。
しかし昨年に入ってから矢倉の採用が増え、さらに今年の2月頃から相掛かりも採用するようになった。一方で角換わりを一年近く採用していない。
本局も相掛かりを採用した。
なぜ藤井王位はいま相掛かりを連採しているのか。ここから解説していく。
相掛かり
同時並行で行われている第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負でも相掛かりの採用が続いている。
先日行われた第2局では先手番の藤井棋聖が相掛かりを採用し、長いねじり合いを制して勝利した。
なぜ藤井二冠はこれほどまでに相掛かりを連採しているのだろうか。
その理由を考えてみたい。
渡辺明名人(37)も最近は先手番で相掛かりの採用が増えている。特に藤井二冠との対戦では相掛かりをメインに据えている感じを受ける。
棋聖戦で渡辺名人と番勝負を戦う以上、藤井二冠は相掛かり対策が欠かせない。
そうして研究を重ねる中で理解が深まっていることは間違いない。
今年の2月に先手番で採用し始めた相掛かりでも藤井二冠はよく勝っている。勝率の高い戦法を採用するのはプロでは当然といえる。
ただ藤井二冠に関しては勝敗で戦法を選んでいる感じがしないので、これは理由として弱い気がする。
相掛かりの基本形となる図だ。開始からわずか6手しか進んでいない。この局面から無限の広がりをみせるのが相掛かりの特徴といえる。
ここから一局の将棋をデザインする必要があり、構想を立てるのを得意とする人に好まれる戦法だ。
一方で定跡化しづらく、形の決まった将棋を得意とする人には好まれない。
藤井二冠は序盤から長考を重ね、一局の将棋を自分色にデザインしていくのを好むので、藤井二冠の棋風と相掛かりは相性がいい。
そのため指していて「楽しい」はずだ。
王位戦七番勝負は各8時間と持ち時間が長い。長く考えるのであれば「楽しい」に越したことはない。モチベーションが上がれば対局の質も向上する。
単純なようでも、人間である以上「楽しい」ほうが研究にもより気持ちが入る。
「楽しい」は勝敗よりもある意味大切な要素なのだ。
いま一番研究を深めていて、そして「楽しい」から藤井二冠は相掛かりを採用し続けていると筆者は考える。
歴史に残る十二番勝負をお見逃しなく
王位戦第1局は豊島竜王が序盤でうまく立ち回ってリードを築いた。
先手番で相掛かりを採用した藤井王位にとっては思わしくない展開だが、ここからのねじり合いでどうなるか。
決着は夕方頃になる。
夏の十二番勝負や棋聖戦五番勝負は各メディアで中継が行われる。
ぜひリアルタイムで歴史に残る戦いをご覧いただきたい。
王位戦第1局はABEMA将棋チャンネルで中継されている。
筆者はABEMAビデオで配信される「タラレバ検討会」に出演する。本放送と合わせてお楽しみいただきたい。