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林修先生が「英語できない人ほど早期英語に賛成」と主張しているが、これは調査結果と違う

寺沢拓敬言語社会学者

林修氏が、9月24日放送の『林先生が驚く初耳学!』(TBS系)で、「英語ができる人は早期英語教育に否定的。やらせたがる人は英語ができない人」という主張をしていた。しかしながら、これは世論の傾向とおそらく異なるので指摘しておきたい。

最初はテレビ番組にマジレスもどうかと思ったんだが、専門家がマジレスするのが Yahoo!ニュース(個人)の醍醐味かなどと思い直して、マジレスする。あと、以下の記事にあるように、話の枕として引き合いに出された紗栄子氏がちょっと気の毒なのでマジレスしたいというのもある。

紗栄子、林修に「1歳からの英語教育」を全否定!! 「2年ぶりテレビ出演で大恥」の声

「番組では、収録後に渡英を控えた紗栄子の英語教育が話題になり、紗栄子は2人の息子について『1歳の終わりから英語教育しています』と明かしました。

…(中略)…

林先生は『子どもに早期英語教育をやらせている東大出身の親に会ったことがない』と紗栄子の考えを否定。…(中略)…さらに、林先生は『英語できなかった人ほど、自分の子どもに小さい頃から英語を習わせる』とも指摘。これらの解説に対して、ネットでは『紗栄子、批判されてるじゃん』『ダメ出しされる要員として、番組に呼ばれたのかな?』『なんか子どもが不憫に思えてきた……』とも言われています」(芸能ライター)

たしかに番組で林氏は、次のような図を書いて、「英語できなかった人ほど、自分の子どもに小さい頃から英語を習わせる」と言っている。

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上の画像のとおり、英語力と早期英語教育志向は反比例すると林氏は主張している。

要は「早期英語に踊らされている親は英語ができない、一方、英語ができる親はどっしり構えている」という話である。

こういう図式は、「早期英語ブームは、結局、節操のない親の空回り」というメッセージを伝えていて、溜飲が下がる人も多そうだ。

昔から「教育ママ批判」みたいなのはテレビ番組で使い古された構図である。

林氏の推論はわかるが、これはあくまで「推論」であって、実際はデータ(事実)とけっこう違う。

私は以前、「JGSS」という日本人全体から無作為に抽出した社会調査データを用いてこの問題を分析したことがある。その結果によると、反比例というよりはU字型だということがわかっている(拙著『日本人と英語の社会学』12章)。

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上図は、「望ましい英語教育開始時期に関する意見」を、英語力別に集計したものである。英語力ができると答えた人のほうが、就学前開始あるいは中学校からの開始という両極端を支持しやすい傾向が見て取れる。(本来はこれ以外の要因も統制する必要があるが、だとしても結果は変わらない。同書で詳しく分析している)

なお、この結果は、日本人からランダムに抽出した調査データを使っているもので、一部の親たちを選択的に選んだものではない。番組で紹介されていた調査(プレジデントオンラインによるもの)よりははるかに信頼性が高いだろう。

では、なぜU字型になるのかというと、私の解釈では、以下の2つのメカニズムが合成した結果ではないか、というもの。

  1. 英語ができる人は「遅く始めても間に合う」と実体験から知っている(これは林氏と同様の主張)
  2. 英語(というか外国語一般)を熱心に学んできた人は、言語教育の意義に肯定的→だからこそ、より早期から長い期間学ばせたがる

図示するとこうなる。

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つまり、林氏は上記2つ目のメカニズムについて重視していないために、事実とは異なる推論になってしまったと言える。

この2つ目のものはごく常識的なものだろう。釣りに親しんだ親は傾向として子供にも早くから釣りをやらせたがるだろうし、読書好きの親は傾向として子どもに早くから本を読ませたがる。英語学習に関してだけ「物分りのよい親」になると考えるのも不自然だ。そもそも「日本における英語」にかぎらず、第二言語ができるひとは第二言語学習の早期開始に肯定的だというのは普遍的な特徴のようで、ヨーロッパ各国の世論調査(ユーロバロメーター)にもこの傾向は示されている。

念のため言うと、林氏の主張は「早くから英語を習わせている」、私が分析で用いた変数は「英語教育の早期開始に肯定」なので、そこに若干のズレがある。

とはいえ、「習わせるかどうか」にも上にあげた2つのメカニズムは当然働いていると思われるから、林氏の主張はちょっと勇み足ではないかと思う。

そもそも、紗栄子氏の子どもは英国の小学校に入るために英語を早くからやっていたそうである。一方、林氏の「早期英語は重要ではない、思考力育成のほうが先決」という主張は、日本での教育を前提にしており、実はかなりズレている。編集上こうなったのかもしれないがこれで紗栄子氏が「大恥」などと言われるのは気の毒である。

日本で「まずは思考力育成!英語は後からでいいよ」という環境で育った子どもは、当然ながら、当該の英国の小学校には受け入れてもらえないだろう。目的がそもそも違うのである。

言語社会学者

関西学院大学社会学部准教授。博士(学術)。言語(とくに英語)に関する人々の行動・態度や教育制度について、統計や史料を駆使して研究している。著書に、『小学校英語のジレンマ』(岩波新書、2020年)、『「日本人」と英語の社会学』(研究社、2015年)、『「なんで英語やるの?」の戦後史』(研究社、2014年)などがある。

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