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中国外相が「日増しに緊張が高まっている」と朝鮮半島の状況を憂慮 北朝鮮が砲撃した場合の韓国の被害状況

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
人民軍大連合部隊の砲撃訓練(朝鮮中央通信から)

 中国の王毅外相が昨日(7日)、全人代(全国人民代表大会)での恒例の記者会見で「朝鮮半島の情勢は日増しに緊張が高まっている」と、米韓合同軍事演習とそれに対抗する北朝鮮の軍事演習により軍事的張が高まっていることに憂慮を表明していたが、北朝鮮は昨日も金正恩(キム・ジョンウン)総書記の立ち会いの下、朝鮮人民軍大連合部隊の砲撃訓練を行っていた。

軍首脳らと砲撃訓練を視察する金正恩総書記(朝鮮中央通信から)
軍首脳らと砲撃訓練を視察する金正恩総書記(朝鮮中央通信から)

 砲撃訓練には前日(6日)の人民軍西部地区重要作戦訓練基地での各部隊の実動訓練に続き、軍の「三羽烏」である元軍参謀長の朴正天(パク・ジョンチョン)党中央軍事委員会副委員長と強純男(カン・スンナム)国防相及び李永吉(リ・ヨンギル)軍総参謀長が金総書記と共に訓練を参観していた。

 砲兵の戦闘動員態勢と実戦能力を向上させることに目的を置いたとされる訓練について北朝鮮の国営メディア「朝鮮中央通信」は「敵の首都を打撃圏内に置いて戦争抑止の重大な軍事的任務を遂行している国境線付近の長距離砲兵区分隊の威力示威射撃で始まり、抽選によって定めた射撃順序に従って各大連合部隊から選抜された砲兵区分隊が火力陣地を占め、目標を射撃した後、命中した砲弾数と火力任務遂行にかかった時間を総合して順位を決める方法で行われた」と伝えていた。

 大連合部隊とは軍団のことである。北朝鮮は呼び方を使い分けており、軍事パレードの時は軍団と称し、軍事演習の時は大連合部隊と呼称している。

 朝鮮人民軍は首都軍団を除き、以下のように12の軍団を編成している。

 ▲江原道・淮陽郡に駐屯している第1軍団(第757大連合部隊)▲黄海北道・平山郡に駐屯している第2軍団(第567大連合部隊)▲平安南道・南浦に駐屯している第3軍団(第526大連合部隊)▲黄海南道・海州に駐屯している第4軍団(第212大連合部隊)▲江原道・伊川郡に駐屯している第5軍団(第549大連合部隊)▲咸鏡南道・咸興に駐屯している第7軍団(第324大連合部隊)▲平安北道・塩州郡に駐屯している第8軍団(第465大連合部隊)▲咸鏡北道・清津に駐屯している第9軍団(第264大連合部隊)▲咸鏡北道・清津に駐屯している男女混合の第10軍団(第365大連合部隊)▲平安南道・徳川に駐屯している第11軍団(特殊作戦軍=第630大連合部隊)▲両江道・恵山に駐屯している第12軍団(第671大連合部隊部)である。

 このうち第1と第2、第4と第5軍団が軍事境界線で韓国軍と対峙している前線部隊である。なお、第6軍団は過去に部隊内での反乱騒ぎや軍団上層部らによる燃料や食糧などの横流しなどが摘発され、解体され、2017年に12軍団に再編成されている。

 この日も6日の西部地区重要作戦訓練基地での実動訓練の時と同様に金英福(キム・ヨンボク)軍副総参謀長が姿を現していたが、金副総参謀長の前歴は11軍団長(特殊作戦軍司令官)である。11軍団長の後任には前12軍団長の李奉春(リ・チュンボン)上将が抜擢されたが、李上将もまた、2日連続で訓練に立ち会っていた。

 北朝鮮には2010年に韓国の延坪島攻撃で使用された120mm砲やロシアに輸出している155mm砲、それに300mm砲の他に122mm、240mmなどの様々な砲弾がある。特に122mmと240mm砲については昨年8月に金総書記が大口径操縦放射砲弾生産工場など軍需工場を視察した際に「122mmと240mmロケット砲弾の操縦化を実現したのは現代戦の準備で重大な変化となり、最大の撃破効率を裏付けられるようになるのでロケット砲利用分野における一大革命である」と自画自賛した砲弾である。

 北朝鮮はこの他にも韓国の中部にまで届く射程距離180~200kmの300mm放射砲や釜山を含め韓国全土を射程に収めている最大射程距離400kmの600mm超大型放射砲も保有している。

 DNZからソウルまでの距離は約60kmであるが、韓国の国防白書には射程距離60~65kmの240mm放射砲と射程距離60kmの170mm自走砲がDMZの前線に集中的に配備されており、「ソウルを含む首都圏への奇襲大量攻撃が可能」と記述されている。

 国際安全保障に関する研究で知られる米国のシンクタンク「ランド研究所」が4年前の2020年8月6日に発表した報告書には北朝鮮が韓国に砲撃した場合の被害状況が克明に記されている。

 被害状況はシミュレーションに基づくものだが、5つのシミュレーションが段階的に想定していた。

第1のケースは、韓国経済に打撃を与えるため砲撃した場合である。

 DMZに近い京畿度・波州にある韓国のLGP工場を152mm曲射砲射(程距離24km)6門と120mm放射砲(射程距離20km)6門で攻撃した場合、5分の間に210発が発射され、この場合、死者920人を含め最大で8550人の死傷者が発生する。

第2のケースは、DMZ一帯から中距離砲で短時間攻撃した場合である。

 152mm自走砲(射程距離17.4km)72門、122mm自走砲(射程距離24km)72門、152mm曲射砲480門、122mm放射砲240門など合わせて864門を使って1分間に1万発発射すれば、人口が密集していない地位でも死者4000人を含め死傷者は4500人に上る。

第3のケースは、ソウルに向け限定的に1分間威嚇砲撃した場合である。

 240mm放射砲54門でソウル市内を砲撃すれば、1分間で1188発発射され、1570人の死者を含め1万8350人の死傷者が発生する。

第4のケースは、DMZ一帯から中・長距離砲を総動員し、1時間一斉砲撃を加えた場合である。

 射程距離15.4kmの曲射砲から60~65kmの放射砲まで延べ5700門の中・長距離砲をすべて動員した場合、1時間で38万5000発が落ち、死者1万7000人を含め死傷者は20万5600人に上る。

第5のケースは、ソウルを火の海にするため首都を集中攻撃した場合である。

 射程距離60kmの170mm自走砲162門と射程距離60~65kmの240mm放射砲162門をソウルに向け1時間砲撃すれば、1万4千発が発射され、この場合、死者1万680人を含め13万人の死傷者が出る。ソウルの人口は約930万人なので約7人に1人に被害が及ぶことになる。凄まじい被害状況である。

 北朝鮮の軍事演習は砲撃演習にとどまらず、過去の例からして、今後、海上、空中でも実施され、フィナーレにはミサイル部隊によるミサイル発射訓練が行われる公算が高い。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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