Yahoo!ニュース

「働き方改革」が目指すのは「労働によって得られる幸福感の追求」

三城雄児治療家 ビジネスブレークスルー大学准教授 JIN-G創業者
チリの動物園にあった「人間」の展示資料

「働き方改革」目指すものとは?

「働き方改革」はただのブーム(流行)なのか?

働き方改革は今や日本の経営にとって、重要な課題の一つになっています。

これは、様々な要因が重なって起こったブーム(流行)のようなものですが、16年間、人事改革に取り組んできた筆者としては、過去の「成果主義」ブーム、「コンピテンシー」ブーム、そして、「グローバル人事」ブームの時と同じように、本質を見失った、ただのブームで終わらせないために、「働き方改革」の目指すものは何なのかについて、少し考えてみたいと思います。

ブーム(流行)が起こった時は目的から考えるべし

過去の「成果主義」ブームは、人件費の高止まり状態による国際競争力の低下から日本企業を救うこと、つまり、人件費の構造改革が目的の改革として始まりました。しかし、様々な「手法」(How)が流行し始めると、流行を追い求める動きばかりが加速して、本来の目的である人件費構造改革よりも、管理職の業績目標管理や給与査定の仕組み、賞与の支払い方といった、Howの改革手法ばかりが注目されていきました。

「コンピテンシー」ブームの時は、上記の成果主義がうまく機能していない現状対して、外資系のコンサルティングファームの人たちが米国でビジネスになっていた(=人事コンサルティングファームの収益源になっていた)「コンピテンシー」という、本来は人材の未来の可能性を見極めるための採用や昇格審査を目的とした仕組みを、日本の成果主義を補完する手法(How)として導入を促しました。目的を失った手法だけの導入は、あまり効果を産みませんでした。

「グローバル人材」ブームの時は、海外市場の獲得が目的であったはずなのに、いつのまにか、英語力の向上方法や若手社員の育成方法といったHowばかりの改革になってしまいました。

人事の改革というのは、どうも目的(Why)が最初は明確にあったはずなのに、いつのまにか手法(How)の改善ばかりに陥り、悪いケースだと目的すら考えずに何をするか(What)だけの取り組みをしてしまう例もあります。

従って、人事領域でブームが起こった時は、必ず「目的」に立ち返ることが重要だと私は思っています。

働き方改革の目的(Why)は人間の幸福

冒頭に掲載した写真をみてください。これは、世界人材マネジメント協会連盟の仕事でチリを訪れていた時、各国の代表と一緒に観光にでかけた先にあった動物園を訪れた時に撮影したものです。ゾウやサルの展示と同じように人間という展示コーナーがあって、そこに書かれていたのがこの絵でした。

人間は、この絵の右側でわかるように、道具を開発し、進化を遂げてきました。このことによって、この絵にはないですが食物の保存方法や狩猟方法、栽培方法などを開発しながら、常に「働き方改革」をしてきたのです。人類の初期の働き方改革は、人間がもっとよりよく生き延びるため、生活の安全を保つため、そして、もっと豊かに、幸せになるために、働き方を工夫してきたのです。

こう考えると、「働き方改革」の目的は明らかです。

人間の幸福の追求

これが働き方改革の真髄だと思います。

ここにもう一度目覚めようよというのが、今回の働き方改革の目的だと私は考えるのです。

安倍首相が「働き方改革」というキーワードを使って、人間としての働き方をもう一度見直してみようときっかけをつくってくれたんだ。これは大きなチャンスだと、私は「勝手に」思っています。もしかしたら、そこまで考えての政策ではないかもしれないし、もっと違う思惑があるかもしれません。しかし、16年間、組織人事の改革に携わってきた経験から「働き方改革」を捉えると、私は目的を「人類の幸福」において欲しいと思います。

これからの人事改革は「人間への回帰」を目指すべし

いま、人間は現在の働き方に違和感を強く覚えていると思います。

先日、「働き方改革」に関するセミナーを開催した時、会場の80名にその場でアンケートをとりました。

質問は・・・「今の自分の働き方は子供達にとって幸せな働き方だと言えますか?」

なんと、参加者の8割がNoという答えでした。

働き方改革を推進するリーダーたちが集まるその場で、8割の人が今の働き方は幸せじゃないといっているこの現状に、危機感を覚えずにはいられません。

To Doを考えるのではなくTo Beを考える

今こそ、「働き方」について、業界を超えて、国境を超えて、議論する時期にきたのだと思います。

その際に、気をつけたいのは、手法(How)の議論にしないことだと思います。

私たちはHowの議論の方がしやすいようです。

Googleの働き方が素晴らしいとなると、じゃあ、20%ルールをまねてみよう、TGIFをうちでもやってみよう、会議は30分以内にしよう、などと手法の導入の是非の議論ばかりです。

その結果、色々な手法を試しに入れてみるということをします。(To Do)

そして、やってみて失敗します。。。

そうではなくて、目的・目標(Why)の議論をしないといけないと思います。

私たちはどういう働き方を目指しているのか?(To Be)

まさに、やり方(To Do)ではなくあり方(To Be)を議論するのです。

そして、目指したい姿ができたら、その日からあり方にあったやり方を模索し続けるのです。

To Beが明確ならば、To Doはどんどん変わっていきます。

何をするのか(How=To Do)ではなく、何を実現したいのか(Why=To Be)が大事なのです。

以上

治療家 ビジネスブレークスルー大学准教授 JIN-G創業者

早稲田大学政治経済学部卒業。銀行員、ベンチャー企業、コンサルファームを経て、JIN-G Groupを創業。グループ3社の経営をしながら、ビジネス・ブレークスルー大学准教授、タイ古式ヨガマッサージセラピストの活動に取組む。また、会社員としてコンサルファームのディレクターとしても活動し、新しい時代の働き方を自ら実践し、お客さまや学生に向け、組織変容や自己変容の支援をしている。組織/個人に対して、治療家として、東洋伝統医療の技能を活用。著書に「21世紀を勝ち抜く決め手 グローバル人材マネジメント」(日経BP社)「リーダーに強さはいらないーフォロワーを育て最高のチームをつくる」(あさ出版)がある。

三城雄児の最近の記事