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新型コロナ:「パルスオキシメーター」は「タバコを吸っても」正確か

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染管理や治療で、体内への酸素の取り込みを数値化できるパルスオキシメーターが注目されている。東京都や宮城県など自宅療養者に向けてパルスオキシメーターを配る自治体も増えてきた。だが、この機器、喫煙者など使う人によって誤差が出る危険性があるので要注意だ。

パルスオキシメーターは何を測るのか

 新型コロナの感染者が急増し、無症状や軽症の人が自宅療養したり、中等症の人が入院まで自宅待機せざるを得ない状況も多く出てきている。その結果、自宅で症状が急変し、悪化して亡くなる人も相次いでいることで、東京都や宮城県などの自治体がパルスオキシメーターを配る動きが出てきた。

 パルスオキシメーターは、指先を挟んで血液中の酸素濃度である酸素飽和度(SpO2)を測定する簡便な機器だ。血液中の酸素の割合(赤血球のヘモグロビンに酸素がどれくらいくっついているか)を特に針などを刺すことなく(非侵襲)皮膚の上から測る。

 赤血球のヘモグロビン100個に全て酸素がくっついていれば割合は100%で、健康な人は97%から99%くらいの値になる。だが、90%以下では呼吸不全で酸素吸入などの治療が必要な状態になる。

 新型コロナでは急激な重症化や死亡リスクと酸素飽和度の低下に関連があるとされ(※1)、厚生労働省も2020年4月の各自治体衛生主管部宛の事務連絡で、症状の軽い感染者の宿泊療養施設に適切な数のパルスオキシメーターを備え付けることの重要さを通知している。

 米国イリノイ州の病院で行われた検証研究によれば酸素飽和度92%を目安にし、それ以下になったら救急治療へ戻らせた場合、酸素飽和度が低いほど入院の必要が高くなり、酸素飽和度を目安に救急治療へ戻った患者の50%が悪化することなく退院できたという(※2)。

 新型コロナの症状では、少しずつ呼吸器の機能不全が起き、血液中の酸素濃度がじわじわと低くなっていくことがあり、患者はその変化に気づきにくい。そのため「サイレントな」低酸素血症というような状態になり、病状が急変して救急治療が間に合わないという事態になりかねない(※3)。

 だが、自宅で療養したり待機している人や家族が、この機器を使って患者の酸素濃度の低下を知ることができれば、その数値の変化によって症状の急変や重症化の予兆を察知できる。そうすれば、本人や家族が救急車を呼んだり保健所に連絡することができ、適切な措置を受けられる可能性があるというわけだ。

喫煙者はパルスオキシメーターでの測定に要注意

 このように新型コロナの感染者管理や治療で有効な役割を果たすパルスオキシメーターだが、その正確な使用について、いくつかの制約がある。

 例えば、どの指かによっても数値が異なり、利き手の人差し指か中指がいいとされるが、指先に装着する場合、指先が冷たいときは正確に測定できない。この場合、指先を温めたり他の指に変えてみるなどする。

 また、マニュキュアやネイルは取り除いて測定すべきだ。ほかにも光学的に検知するパルスオキシメーターの特性上、電磁波や赤外線など周囲の強い光線に影響を受けたり、血管拡張剤などの服薬によって数値が変わることもあるようだ(※4)。

 そして喫煙もまたパルスオキシメーターの数値に影響を及ぼす因子となる。タバコを吸うと血液中や呼気中の一酸化炭素のレベルが上がり、一酸化炭素のほうがヘモグロビンとくっつきやすいため、一酸化炭素とヘモグロビンが結合したカルボキシヘモグロビンが増える(※5)。

 この時、酸素とくっついたヘモグロビンが減るが、酸素濃度が低下してもパルスオキシメーターがそれを感知できず、正確な数値を測定できない状態になってしまう(※6)。新型コロナに感染して自宅で療養や待機中の喫煙者がタバコを吸った後、パルスオキシメーターで酸素濃度を測定した場合、重症化に対する措置が遅れたり、逆に数値が急降下してあわてて救急車を呼ぶことになるかもしれない。

 ヘモグロビンとくっついた一酸化炭素は約5時間たたないと離れ始めないが、その後もカルボキシヘモグロビンが20時間から25時間、体内に残存し、パルスオキシメーターの正確な測定を妨げる。つまり、喫煙者がパルスオキシメーターで正確に測定したいなら、丸1日から2日は禁煙しなければならない(※7)。

 喫煙による一酸化炭素の影響は、受動喫煙の被害者にも及ぶ。タバコを吸わない人がパルスオキシメーターによる正確な測定を期するのなら、タバコ煙にさらされない環境で行うべきだろう。

 喫煙者は新型コロナにかかると重症化や死亡のリスクが上がる。パルスオキシメーターで正確に測定できないような生活習慣とは早くお別れしたほうがいい。

  • 注:この記事は主に紙巻きタバコの喫煙者について書いています。

※2021/01/20:AM1026「酸素とくっついたヘモグロビンが減るので血液中の酸素濃度が急激に低下するが」の部分を修正しました。

※1:Felix Scholkmann, et al., "The Role of Methemoglobin and Carboxyhemoglobin in COVID-19: A Review" Journal of Clinical Medicine, Vol.10(1), doi: 10.3390/jcm10010050, 25, December, 2020

※2:Sonia Shah, et al., "Novel Use of Home Pulse Oximetry Monitoring in COVID‐19 Patients Discharged From the Emergency Department Identifies Need for Hospitalization" Academic Emergency Medicine, Vol.27, Issue8, 681-692, 17, June, 2020

※3:Sebastiaan Dhont, et al., "The pathophysiology of 'happy' hypoxemia in COVID-19" Respiratory Research, Vol.21, 198, 28, July, 2020

※4:Krrtlkumar C. Badgujar, et al., "Importance and use of pulse oximeter in COVID-19 pandemic: general factors affecting the sensitivity of pulse oximeter" Indian Chemical Engineer, doi.org/10.1080/00194506.2020.1845988, 27, November, 2020

※5:Monica Linea Vold, et al., "low FeV1, smoking history, and obesity are factors associated with oxygen saturation decrease in an adult population cohort" International Journal of COPD, Vol.9, 1225-1233, 2014

※6:Honathan Schimmel, et al., "Carboxyhemoglobin Levels Induced by Cigarette Smoking Outdoors in Smokers" Journal of Medical Toxicology, Vol.14, 68-73, 2018

※7:Kevin L. Glass, et al., "Pulse Oximetry Correction for Smoking Exposure" Military Medicine, Vol.161, Issue5, 273-276, 1996

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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