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サンリオ「いちご新聞」、いちごの王様による反戦メッセージを読んで考えたこと

治部れんげ東京科学大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト

サンリオが発行する「いちご新聞」、8月号の巻頭記事が話題になっています。

「いちご新聞」反戦メッセージ サンリオがなぜ? 共感のツイート: withnews 7/17

http://withnews.jp/article/f0150717000qq000000000000000G0010401qq000012268A

筆者は「いちごの王様」こと、サンリオ創業社長の辻信太郎さん。可愛いキャラクターグッズを紹介した「新聞」誌面の中、「王様」の真面目なメッセージが目立っています。

学生時代に戦中を過ごした「王様」こと辻社長はこう書きます。

…大学1年生だった王様は、この戦争で同級生を数人失いました。

この経験から、心に深く刻み込まれたのは「争いからは何も生まれない。国と国、民族と民族、人と人は如何なることがあってもお互いに争うことなく、仲良く助け合って行くことが本当に大切なことだ」ということです。

(中略)

戦後70年、戦争を経験した人がだんだん少なくなっていますが、みなさんには8月の終戦のことを忘れないでほしいと思って、このメッセージを書きました。

とても心に沁みるストレートな文章です。いいなあ、と思った後、これが「反戦メッセージ」と位置付けられる現状に、あらためて違和感を覚えました。なぜなら、極めて当たり前のことを、素直に文章にしているからです。当たり前のことを言うと「反○○」になるような空気があるんだな、と。

私自身は「いちご新聞」に「いちごの王様」がこういう文章を寄せることは、とても自然に感じました。幼稚園児だったころ、同じサンリオが発行する「いちご絵本」の読者だったからです。

サンリオの平和主義はたぶん、いちご新聞時代から

私と同じ、団塊ジュニア世代の方は、読んだことがあるかもしれません。覚えていますか。「子どもと、子どもの心を持つ大人のための詩と絵と童話のいちご絵本」です。いちご絵本は詩や、イラストや、童話や俳句の投稿誌で、毎月、色んな人の作品が載っていました。詩や俳句は、子どもの作品も多く、うちの母は、私や私の弟の言葉を書き留めて、よく投稿してくれたものです。たまに掲載されると、箱いっぱいにサンリオ商品が届き、天に昇るような気持ちになったことを、覚えています。

幼児の発想は今思い返しても面白く、例えば弟の言葉「きなこもち、2つ食べたら2つうんち出るよ。3つ食べたら3つうんち出るよ」(正確ではありませんが)というフレーズが掲載されたこともありました。

私自身のもので覚えているのは「柳さんしだれ桜がお嫁さん」とか。こういう言葉に、やなせたかしさんが線画でイラストを付けて下さったものが誌面になっていました。今思うと、ものすごく贅沢ですね。もちろん、いちご絵本には、アンパンマンも載っていました。

子どもの反戦詩にやなせたかしさんがイラストをつける

筆まめな母が書き留めてくれた私の「おしゃべり」が「詩」として、いちご絵本に掲載されたことがあります。それは、戦争に関するもので、戦争を発明した人を「この地球から追い出してしまえばいいよ」という、いかにも子どもらしい発想でした。それは、怒った顔つきの子どもが、悪者を蹴飛ばして地球から追い出している、やなせさんのイラストと共に、割に大きなスペースで誌面に載ったのでした。

もう、35年くらい昔の話になりますが、いちごの王様のメッセージを読んだ時、この思い出がよみがえってきました。たぶん、いちごの王様は、いちご絵本の編集にしっかりコミットしていたことでしょう。その姿勢は今も変わっていないんだな、と思います。

変えてはいけないこと、守らなくてはいけないことを、今度は自分が、親の立場で守っていかなくてはいけないんだ、と「マイメロちゃん」大好きな娘を見ながら考えています。

東京科学大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト

1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社で16年間、経済誌記者。2006年~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年からフリージャーナリスト。2018年一橋大学大学院経営学修士。2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、国際女性会議WAW!国内アドバイザー、東京都男女平等参画審議会委員、豊島区男女共同参画推進会議会長など男女平等関係の公職多数。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)、『ジェンダーで見るヒットドラマ』(光文社新書)などがある。

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