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日立の「ジョブ型」「半分在宅」の働き方が成功するカギとは?

横山信弘経営コラムニスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

■なぜ今さら「ジョブ型」? その背景

日立や富士通が「ジョブ型雇用」を促進するという。多くの従業員を在宅勤務にさせるのであれば「ジョブ型」でなければ、うまく組織運営できないと結論づけたのだろう。

その判断は正しいと筆者も感じる。そこで、これまでの背景と、なぜそのような判断に踏み切ったのか。その理由と、そして今後の課題について考えてみる。

もちろん発端は、新型コロナウイルスの影響だ。2月27日安倍首相は、全国の小中高校に臨時休校を要請した。多くの企業が在宅勤務・テレワークを一気に導入させたのが、この一斉休校が要請されたあと。

そして4月7日には、7都府県に緊急事態宣言が発令され、その約10日後に、この宣言は全国に拡大された。

当然、在宅勤務、テレワークを余儀なくされた人が一気に増えた。

そもそも何年も前から、働き方を根本的に見直さなければならない。ワークライフバランス、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を実現する取り組みが企業サイドに必要だ、と言われてきた。

そして昨年(2019年)4月、ついに「働き方改革関連法」が施行され、強い圧力が、とくに大企業に加わった。

もう待ったなしだった。環境は整った――と言えた。オリンピック・パラリンピックでいえば、会場設備も選手村もすべて完成し、あとは各国から選手を迎え入れるだけ、という段階にあった。

ところが蓋を開けてみれば、まったくである。

昨年末に執筆したこちらの記事などにも記しているとおり、働き方を変えようと取り組む企業がまだまだ非常に少ないのだった。

※参考記事:働き方改革で減った残業代が、5割以上の大企業でまったく社員に還元されていなかった!

だから、コロナの影響でテレワークが普及したというのではなく、単に背中を押されただけであって、この動きは既定路線であったのだ。

毎日のように、多くのメディアから

「アフターコロナについてご意見をいただきたいです。在宅勤務やテレワークはどうなっていきますか?」

といった内容の取材を私は受ける。だが、いつも私はこのあたりの経緯を説明してから自分の意見を述べるようにしている。

前提としている背景を知らないと、話が噛み合わないからだ。

つまり結論としては、コロナ禍が終息したとしても、この路線が変更されることはないということだ。それどころか、日立や富士通の動きを、他社も追随することも間違いないのである。

■想像以上に評価されるテレワーク

4月ころからか。当社では、毎週のようにオンラインセミナーを実施している。そして、そのようなセミナーで、クライアント企業や顧問先の経営者、マネジャーの皆さんと意見交換をつづけている。

私もそうであったが、当時は精神的に強い不安を覚える方々もいた。ところが、昨今はおおむね不安を抱えている方は少なくなったと言えよう。

ちょうど昨日もオンラインセミナーを通じ、意見交換をしたが、在宅勤務やテレワークを通じ、ご自身の健康、家族との交流という面で、多くの利点があるとこたえた人が、大半だった。

移動が減って腰痛改善に繋がったとか、飲み会に誘われる頻度が減って痩せたとか、本を読む時間が増えたといった声も聞かれた。筆者が想像していた以上に、テレワークでの働き方を評価する声が多い。

こうなると、もう元には戻れないだろう。世間は完全に「働き方改革」の流れ。企業もそう。もちろん促進していきたいし、従業員側もテレワークのベネフィット(便益)を十分に知ってしまった。

そんな中でのニュースである。

日本を代表する企業、日立や富士通、資生堂が「ジョブ型」の人事制度を適用する方針だという。

とくに日立が発表した、従業員の5割を在宅勤務にする(国内の従業員を対象。21年7月以降)という報道はインパクトが強い。

テレワークは普及するだろうが、「ジョブ型」を追随する企業は増えるだろうか。

なぜなら日本の多くの企業は、「仕事に人をつける」欧米流のジョブ型ではなく「人に仕事をつける」メンバーシップ型労働が基本だからだ。

私は前の職場が日立製作所だ。もし今も日立製作所の一員で、そしてミドルマネジャーであったら、どうするか。少し考えてみた。

そして、どのようなチーム作りをすれば「ジョブ型」の働き方が浸透し、チームとしての成果を出せるのか。私の考えを紹介したい。

■難しい「テレマネジメント」

ひとりで働くのはいい。

仕事にも慣れて、黙っていても仕事を任される人はいい。だが、そうでない人はテレワークだと困る。チームの中に、率先して、主体的に手を挙げられないメンバーがいると、とくにリーダーの悩みは大きくなる。

だから、以前に増してマネジメントが難しくなった。

悩ましいのがマネジメントだ。とくに部下育成。

先日もオンラインセミナーで、参加者から「社員満足度に関する横山さんの考えを聞きたい」という鋭い質問を受けた。

これまでは、

「社員満足度をアップさせるにはどうすればいいか」

という質問が大半だったが、今回は違う。「社員満足度」そのものに関する問いだった。

「社員満足度ってどうよ?」

と、その存在そのものを問われているわけだから、即答するのが難しかった。

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。だから、自分のスタンスをわきまえて、こう答えた。

「社員満足度は手段に過ぎないでしょうね。部下育成と同じように」

と答えた。

顔が見えないオンラインセミナーであったので、質問者の反応はわからなかった。が、さらに、こう続けた。

「手段を目的化すると、絶対に遠回りをします。何が目的なのか。何が論点なのか。これをハッキリさせることで、意外といろいろな悩みがなくなるものです」

と。

■「フランス人は10着しか服を持たない」

「フランス人は10着しか服を持たない」というベストセラーがある。

上質なものを少しだけ持ち、大切に使う――こういうフランス人の価値観には学ぶべきことが多い。

本質とは何か? 豊かに生きること。日常の中にある、ささやかな喜びを家族とともに楽しむこと。このように考えるフランス人は多い。だから、このようなフランス人は、次から次へと服を買ったり、その服を収納するためのスペースを手に入れようと広い家に住みたいと考えるのは愚かなことだ、と考えるらしい。

ビジネスでも同じだ。本質を忘れてはならない。何が重要なことなのか、である。

大事なことはチームで目標を達成させることだ。そのために、必要なことを、必要な分だけ実施する。それを徹底し、つづけていけば、自然と部下は育つし、満足度(エンゲージメント)もアップするはずなのだ。

部下育成も、社員満足度アップも目的ではない。本来の目的を果たそうとするプロセスの中で叶っていくものと考えるべきだ。

(もしそうならないのであれば、メンバーの選定が悪い)

■「サクタスチーム」という解決案

具体的な解決案に触れる。

私が提唱するチーム作りを紹介しよう。それが「サクタスチーム」だ。

さくさくタスクを処理することを私のコンサルティング会社では「サクタス」と呼ぶ。成功を意味する「サクセス」と似ているし、何より語感がいいので、気に入って使っている。

サクタスをするうえで、まず重要なのは、仕事をどのように定義するか、だ。そして仕事をどのようにタスク分解するか、にかかっている。これができなければ、どんなにさくさくタスクを処理しようとしても意味がない。

私どもは、「タスク」と「プロジェクト」を、以下のように定義している。

●「プロジェクト」……目標を達成させるための計画、タスクの集合体

●「タスク」……スケジュールに記入できるほどの作業や課題の最小単位

たとえば、「イベントの集客をする」「残業を削減する」「企画書をまとめる」……。これらはすべてプロジェクトだ。

これらのプロジェクトを、さらに小さなプロジェクトに分け、最終的には、誰かのスケジュールに書き込めるぐらいのタスクにまで分解できれば、あとはやるだけである。

オフィスにおけるデスクワークであろうが、自宅や出先でのリモートワークであろうが関係がない。

そのタスクをそれぞれのメンバーがさくさく処理し、結合してチームの成果に結びつけることができれば、それでいいのである。とてもシンプルだ。

■日本企業に多い「グズタスチーム」とは?

サクタスチームと対極にあるチームを、私は「グズタスチーム」と名付けている。

抽象的な指示だけするチームリーダーと、ぐずぐず言って、タスク処理を先延ばしにしてばかりいるメンバーで構成されたチームだ。

リーダーが、

「新規開拓、どうなってるの? 先月も目標達成していないじゃないか」

と聞けば、

「販促ツールの作成に手間取っていて……」

「はあ? 販促ツールって何? まずは新規の開拓リストを作るのが先決だろう」

「でも、A先輩が販促ツールが必要だって。それで、みんなでリモート会議やりながら、何度か打合せしまして」

「おいおい、何を考えてるんだ。いったい誰がそんなことやれって言った?」

「でも、成果を出すためには、もっと頭を使えと言ったじゃないですか」

「誰も、そんなことで頭使えとは言ってないだろう。リストだよ、まずはリスト!」

「でも……」

「でも、でもって言うなよォ」

この会話文を読んでもらえればわかるだろう。リーダーの指示は曖昧だし、メンバーもやるべきことがわかっていない。こういうチームだと、まずリーダーは次のように愚痴をこぼす。

「だからテレワークなんて機能しないんだ。勝手に話し合って、無駄なことをしやがって」

「いつも報告・連絡・相談をしっかりやれと言ってるのに、アタマ悪いなあ」

と。

在宅勤務やテレワークといった働き方は関係がないのに、そこにこそ問題があると思い込んでしまうのだ。

■イラストで比べる

当然グズタスチームのメンバーたちは、周囲の期待どおりに育たないし、満足度も低い。

この状態で、どうやったら部下育成できるのか、どうやったら社員満足度がアップするのかと考えると、さらによけいな仕事が増えることになる。

チームとして本来やるべきこと(目的)が不明瞭になり、無駄な仕事ばかりに明け暮れることになる。

図で表現するとこうだ。

「サクタスチーム」のイメージ図(筆者作成)
「サクタスチーム」のイメージ図(筆者作成)

まずは、サクタスチームのイメージ図を見てほしい。チームの目的(幹)が太くて、はっきりとしている。その目的を果たすためのプロジェクト(枝)もシンプルで明確だ。

このように整理されていれば、タスク(葉)も少なくて済む。

10着の服しか持たないフランス人と同じ。やるべきことに集中し、質の高い仕事をしてチームの成果を出す。

無駄なことに意識がいかないから、時間にも精神的にも余裕が出やすい。

「グズタスチーム」のイメージ図(筆者作成)
「グズタスチーム」のイメージ図(筆者作成)

次は、グズタスチームのイメージ図だ。

チームの目的はあるが、はっきりしない。誰も意識していないのか。その目的と直接関係のないプロジェクト(幹)がいつの間にか複数できあがって、そしてなぜかタスク(葉)も異常に多い。

「樹」の全体像が美しくないし、何よりバランスが悪い。

これでは、仕事をしている割には成果が出ないし、何より、チームとしてのまとまりがない。メンバーたちも働きがいを感じることはないだろう。

■大量の「社内失業者」をどうする?

日本の組織は、圧倒的にグズタスチームが多い。なぜなら、まずメンバーありきのチーム編成になっているからだ。

サクタスチームがいいのは、チームの成果を明確に決め、そしてプロジェクト、タスクに分解し、イメージ図のような、まず「樹」を作ることからスタートする。

あとは、数少ない「葉」であるタスク=ジョブをキッチリこなせるメンバーを招集すればいい。中小企業にはできない芸当だ。日立や富士通といった大企業なら、社内からいくらでも調達できるだろう。

中小企業であるなら、社外から調達する。つまりフリーランスと個別契約して、その都度メンバーに入ってもらうという発想を持つことができればいい。いわゆるワークシェアだ。

このやり方は、日本の文化には合わない、という感想を持つ人もいるだろう。しかしジョブ型雇用とは、本来そういうものだ。

これからの時代は、会社に就く「就社」ではなく、仕事に就く「就職」でなければならない。

会社に依存するような人材など、どんな大企業も要らない。自分の仕事に誇りを持ち、常に自己研鑽できる、そういう人財しか生き残れない時代だ。

「人に仕事がつく」というメンバーシップ型労働だと、人が増えれば増えるほど、仕事も増えるということになる。

組織が膨張する元凶だ(組織が成長するのではなく)。

しかし在宅勤務する者が増えたら、ジョブ型でしか組織運営できない。日立や富士通の判断は正しいが、大量の「社内失業者」を出すという、別の問題を抱えることになるだろう。

だから、ますますリカレント教育キャリアの複線化といった施策が必要になるに違いない。しばらくは試行錯誤をつづけることになるだろうが、この流れが止まらないことは、間違いないと言える。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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