早実敗れる! 清宮 涙の敗退
休養日をはさんで熱戦が再開された甲子園は、準決勝が行われ、いずれも意外な大差がついた。1年生で優勝の期待がかかった清宮幸太郎擁する早稲田実(西東京)は、仙台育英(宮城)の佐藤世那(3年)に7-0で完封負け。優勝候補筆頭の東海大相模(神奈川)は、吉田凌(3年)-小笠原慎之介(3年)のリレーで10-3と関東一(東東京)を圧倒した。
清宮抑え、仙台育英が序盤戦制す
早実打線を勢いづけているのは紛れもなく清宮だ。最初の対決は1回、1死から玉川遼(3年)が四球で出塁。佐藤世は「厳しいところを攻めていこうと思っていました」と言うが、打ち気にはやったかフォークボールを空振りしたあと、清宮は外角高めの速球を強引に打って二ゴロ併殺に倒れた。これで早実の勢いは止まる。序盤は早実が積極的にバットを出したが、佐藤世は、「早打ちしてくれて助かりました」。仙台育英打線は、上位下位ムラなく打てる。9番・佐藤世が二塁打で突破口を開いた3回は、敢えて小技を使わず、上位が安打を連ねた。選手の能力や性格を知り尽くした佐々木順一朗監督(55)の采配が光った。そして練習の成果が出たのは3回裏だ。
絶妙牽制球で早実に流れ渡さず
3点を追う早実は、安打、四球に清宮の内野安打も出て、1死満塁と詰め寄る。
打者は4番の加藤雅樹(主将=3年)。ここで遊撃の平沢大河(3年)が絶妙のタイミングで二塁牽制に入ると、呼応した佐藤世から完璧な送球。二塁走者は戻れず、早実逸機となった。「ランナーが油断していたので(牽制球の)サインを出しました」と平沢。「あまり試合では使わないですが、しっかり練習してきました」と佐藤世も胸を張った。直後の4回に平沢の3ランが飛び出して一方的な展開になったため、早実の好機はこの1回きりだった。大量援護を受けた佐藤世は「左打者に上ずった球がありましたが、大事なところではいい球がいっていました」と楽々完封。121球投げたが、球数ほどは消耗していないだろう。
清宮は上級生に感謝し涙
予想外の完敗を喫した早実ナインは、スタンドからの拍手に涙が止まらなかった。
清宮は、飛んだコースが良かった内野安打1本に抑えられ、「佐藤さんは全国でもトップクラスのピッチャーで、球も速くキレも違った。思ったようなスイングができませんでした。こんなもんじゃ終われない。どんなピッチャーでも打ち崩せるように練習して、絶対に(甲子園に)戻ってきます。」とキッパリ。そして、上級生の話になると、みるみる涙が溢れた。「もう上級生の皆さんと一緒にできないと思うと悔しいです。(今大会)2ホームラン8打点は自分の力ではなく、上級生に力を貸してもらいました」と感謝の言葉を並べた。その思いは和泉実監督(53)も同じだ。特に主将の加藤を褒めると、指揮官も声が震えた。「包容力があって、自分に厳しいが周囲にやさしい。野球部員だけじゃないんです。誰に対してでもです。ボクには真似できない」と清宮を支え続けた主将を称えた。
東海大相模は横綱相撲
第2試合は、東海大相模が非情なまでに関東一を圧倒した。関東一の先発の出来がカギを握っていたが、1番・千野啓二郎(3年)から3連打で2点を奪うと、やや不振だった4番の豊田寛(3年)に一発が出て、わずか10球で4点。阿部武士(3年)は1死もとれず降板に追い込まれた。
この先制パンチに気圧された関東一は守備陣も崩壊し、6回で10-0と意外な展開になった。関東一はオコエ瑠偉(3年)が安打を放った7回に、ようやく東海大相模先発の吉田から1点を返す。さらに8回、小笠原の代わり端を攻めて、3安打などで2点を返し、なおも好機でオコエが登場。この試合、最もスタンドが沸いた瞬間だったが、オコエは小笠原の速球に力負けして二ゴロに倒れた。終盤によく粘った関東一だったが、序盤の失点と中盤の守乱が響いていいところなく完敗した。
東海大相模は、前回KOの吉田が奮闘
東海大相模は、準々決勝で4回途中KOされた吉田が、7回1失点と好投、勝利に貢献した。門馬敬治監督(45)は、「点を取られたことだけを鵜呑みにしていたら今日の先発はなかった。球が悪かったわけではないですから」と吉田の奮起を期待しての起用だったことを明かした。吉田本人も、「チームに迷惑をかけたので、取り返せてよかった」と笑顔を見せた。一方で8回から登板し2失点だった小笠原は、「調子はまあまあだったけど、うまく当てられました。実力不足です」と冴えない表情。それでも最後のテレビインタビューで吉田とツーショットになると、「日本一になるために相模に来ました。吉田と力を合わせて絶対、勝ちたい」と力を込めた。
決勝は東海大相模の先発が勝敗左右か
決勝は仙台育英と東海大相模。今チームの実力では全国でも最上位の2校だ。仙台育英は秋の神宮大会を制した段階から、甲子園での優勝を期待されていた。
昨夏、豪華投手陣を擁しながら初戦敗退した東海大相模は、その敗戦を経験した左右のエースが順調に成長して、大会前から優勝候補一番手だった。波乱が多かった大会で、実力を遺憾なく発揮しての決勝だけに、熱戦は必至だ。ポイントはズバリ、東海大相模の先発の出来、だろう。仙台育英は佐藤世の力が飛びぬけているため、起用を迷うことがない。対して、東海大相模は、またも吉田でいくか、準決勝2回36球だった小笠原になるのか。調子は小笠原の方が上だろうが、門馬監督は吉田の奮起に期待している印象だ。準々決勝では、吉田が早い回に失点してようやく8回に追いついたが、こういう展開だけは避けたい。また、小笠原が先発して打たれると、本来よりもやや球威が落ちている吉田が、相手打線の勢いに飲み込まれる可能性が出てくる。仙台育英は爆発力があり、特に下位で好機を迎えたときはしばしばビッグイニングを完成させてきた。ただ、2回戦から登場の東海大相模には、ひと試合少ないアドバンテージがある。佐藤世を序盤から攻略できれば、東海大相模のペースになる。高校野球100年の節目に、センバツでは敦賀気比(福井)が北陸初の甲子園優勝を果たした。秋田中(秋田高)が延長で優勝を逃した第1回大会から100年。東北勢が悲願の甲子園優勝という新たな歴史の扉が開かれるか。