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食欲がなくなる夏でも訪れたくなる魅力的なフェアとは?

東龍グルメジャーナリスト

真夏のフェア

<フレンチ復権のヒントか? 夏に注目したいホテルのフランス料理>でも紹介しましたが、食欲が落ちる夏はフランス料理のようなファインダイニングは集客が難しい一面があります。

夏休みに家族向けのフェアを行って集客できているところも、確かにあるでしょう。しかし、暑い日には、しっかりとした料理で構成されたコースよりも、冷やし中華やかき氷などの涼しくて軽いものを食べたくなることには変わりありません。

そういった状況の中で、真夏の時期にもホテルへ赴いてもらえるような魅力的なイベントを開催しているホテルがあります。

それは、高級ホテルの代名詞ともなっている、ザ・リッツ・カールトン東京です。

ザ・リッツ・カールトン東京が夏に行っているフェアを、以下のキーワードをもとにして紹介していきましょう。

  • 週替りの知的イベント
  • 屈指のブランド牛
  • 限定の高級食材

週替りの知的イベント

モダンビストロ「タワーズ」では、2017年6月17日から9月18日の14週間に渡って、土日祝日に「サマー フレンチ ブランチ」と題したウィークエンドブランチを行っています。

ホテルでブランチが行われることは全く珍しいことではありませんが、「サマー フレンチ ブランチ」は他のブランチとは違います。週替わりで異なるテーマを掲げている上、日曜日には、フランス食文化に精通したゲストスピーカーを迎えて、デギュスタシオン カウンターでフランスの料理やワインを紹介しているのです。

開催されるテーマ

テーマは以下の通りになります。2回開催されているテーマもあるので、都合を付け易くなっています。

  • シャンパーニュ ペリエ ジュエの世界

6月18日/8月13日

  • フレンチ スタイル シャルキュトリーの世界

6月25日/9月10日

  • フレンチカクテルの世界

7月2日/8月27日

  • 南フランスワインの世界

7月9日/9月17日

  • ヴァローナ ペストリーデザートの世界

7月16日/ 9月 3日

  • 世界一のチーズ職人 ファビアン・デグレ氏によるチーズブッフェ&メゾンカイザーの世界

7月23日/8月20日

  • ザ・リッツ・カールトン東京のペストリーシェフ ジミー・ブーレイによるフレンチデザートブッフェの世界

7月30日

  • ピエール・エルメ・パリによるペストリー デザートの世界

8月6日

人気のシャンパーニュや南フランスのワイン、話題のキーワードとなっているシャルキュトリーから、日本でもよく知られているヴァローナやピエール・エルメ・パリのデザートなどがテーマとして掲げられているので、何かしら興味をそそられるものがあるのではないでしょうか。

知的好奇心を刺激

これらは全て副総料理長 フランケリー・ラルーム氏が監修し、「タワーズ」料理長の早坂心吾氏が日本の旬の食材を用いて創造的なメニューに仕上げています。早坂氏のおいしい料理を食べられるだけではなく、フランスの料理やワインに精通したスピーカーの話を聞ける日曜日は特に貴重でしょう。

おいしい料理やスイーツ、お酒に加えて、週替りで知的好奇心を刺激するイベントを行うことによって、暑くて外に出るのも億劫になる夏でも、足を運んでもらえるように工夫しています。

屈指のブランド牛

神戸牛肩ロースの和風ローストビーフ(試食、著者撮影)
神戸牛肩ロースの和風ローストビーフ(試食、著者撮影)

「ひのきざか」では会席料理に加えて、寿司、天麩羅、鉄板焼を提供していますが、2017年3月に鉄板焼の料理長に就任した谷口祐卓氏が腕を奮う「鉄板焼新料理長による特別ディナー」を2017年6月15日から7月31日にかけて行っています。

このフェアは「神戸・但馬牛づくし」と題されている通り、谷口氏の出身地であり、黒毛和種の名産地である但馬の但馬牛やそれを素牛とした神戸牛だけを用いています。しかも、肉の部位に合わせて調理方法を変えたりと、谷口氏のこだわりが凝縮されているのです。

抜群の知名度を誇るブランド牛を、鉄板焼の醍醐味は失わずにさっぱりと仕上げることによって、アツアツの鉄板が敬遠されがちな暑い夏でも、鉄板焼を食す動機を喚起しています。

コース内容

コース内容は以下の通りとなっています。

  • 但馬牛タンのこぶしめ、新生姜と神戸牛フィレサイド ゼリーよせ
  • 神戸牛肩ロースの和風ローストビーフ
  • 但馬牛イチボとトリュフ すき焼き風
  • コースサラダ 梅肉ドレッシング
  • 神戸牛 フィレステーキ50g 又は ロインステーキ60g
  • 白御飯 又は 神戸牛ガーリックフライドライス

鉄板焼は、料理長の好みやこだわりによって、洋風にしたり和風にしたりできますが、谷口氏の場合には、但馬牛タンを昆布締めにしたり、神戸牛フィレサイドをゼリーよせにしたり、神戸牛肩ロースに和風出汁を合わせたり、但馬牛イチボをすきやき風にしたりと、和風の色合いが強いです。

しかし、和風であると決めつけていると見誤ります。神戸牛肩ロースをローストビーフにして粒マスタードを載せたり、但馬牛イチボはすきやき風にしながらもトリュフを削ったりと、他の鉄板焼では体験できない新しい組み合わせを実践しているのです。

こういったところは、1978年生まれの若い谷口氏ならではの創造力の賜物ではないのでしょうか。

但馬牛や神戸牛を知り尽くす

但馬牛イチボとトリュフ すき焼き風(試食、著者撮影)
但馬牛イチボとトリュフ すき焼き風(試食、著者撮影)

谷口氏は2017年3月に「ひのきざか」料理長に就任し、新しい環境に慣れながら、4月から「神戸・但馬牛づくし」を練り始め、6月からの開催に至りました。

但馬牛や神戸牛を知り尽くした谷口氏ならではの内容となっているため、舌の肥えたザ・リッツ・カールトン東京のゲストも満足していますが、よい神戸牛を安定して仕入れることは簡単なことではありません。これも、関西で活躍し、生産者と信頼関係を築いてきた谷口氏だからこそできたことです。

では、関西に根を張る谷口氏はどうしてザ・リッツ・カールトン東京の「ひのきざか」へ移ることにしたのでしょうか。

「40歳までには東京か海外へ出たいと考えていた。ザ・リッツ・カールトン大阪で働いていたこともあり、親しみのあるホテルだった」と答えます。

メニューには多くの工夫が見られますが、他にも工夫は何かあるかと尋ねると「メニューの作り方をスマホで撮影して、動画をチームで共有している。いつでもどこでも見られるので、効率よく技術力を向上させられる」と若い料理長らしい柔軟な考えを披露します。

日本の料理や食材を大切に

神戸牛のフィレステーキとロインステーキ(試食、著者撮影)
神戸牛のフィレステーキとロインステーキ(試食、著者撮影)

谷口氏は「鉄板焼は重たいというイメージを持たれているのが残念。油やバター使わず、出汁を使って素材のポテンシャルを引き出すようにしている。日本の料理や食材を大切に使っていきたい」と真摯な眼差しで述べます。

今回のフェアで提供されている神戸牛はもちろん、松坂牛、近江牛といった三大和牛の素牛となっているのは但馬牛であり、飛騨牛、仙台牛、前沢牛の祖先も但馬牛です。日本の牛肉のルーツであるとも言える但馬牛と、最高ブランドの一つである神戸牛を使い、軽い和風テイストに仕上げ、他にはない組み合わせで興味をそそることによって、暑い夏でも鉄板焼を食べてみたいと思わせています。

限定の高級食材

フランス料理において高級食材の代名詞となっている食材のひとつにトリュフがあります。トリュフの旬が冬であることはよく知られていますが、それはヨーロッパでの話です。

北半球のヨーロッパとは季節が反対となる南半球のオーストラリアでは、トリュフの旬は夏となっています。従って、夏におけるフランス料理の高級食材はオーストラリアのトリュフであるとも言えるでしょう。

そして、モダンビストロ「タワーズ」では2017年6月27から8月30日にかけて、夏の高級食材であるオーストラリアの黒トリュフを使った「オーストラリア産 黒トリュフ プロモーション」が行われており、料理長の早坂心吾氏による先進的な料理を楽しめます。

ガラディナー

カナダ産オマール海老(試食、ホテル撮影)
カナダ産オマール海老(試食、ホテル撮影)

2017年7月6日には特別のガラディナーも開催されました。通常コースでは4皿が提供されるところを、ガラディナーでは以下の通り5皿が提供されました。

  • スイートコーンのブルーテ

鴨のフォアグラ、ホワイトコーン、黒トリュフ

  • グリーンアスパラガス

アスパラガスのピューレ、黒トリュフのサバイヨン

  • カナダ産オマール海老

アーティチョーク、ロブスターソース、黒トリュフ

  • 北海道・芽室町オークリーフ牧場 ホワイトヴィールのロースト

ジロール茸、ペコロス、コンテチーズ、”ヴァンジョーヌ”、黒トリュフ

  • プロフィットロール

ヴァローナ社、グアナラチョコレート、黒トリュフ

冷前菜から温前菜、オマール海老からホワイトヴィール、さらにはデザートまでトリュフが合わされており、まさにオーストラリアトリュフ尽くしです。

特に注目するべきメニューは「ホワイトヴィール」=「乳飲み仔牛」を使ったメインディッシュ。北海道出身である早坂氏が、日本で唯一乳飲み仔牛を育てている北海道芽室町オークリーフ牧場と10年以上も前から縁があったため、今回のフェアに乳飲み仔牛を特別に用意できたのです。乳飲み仔牛の肉は、脂が少なくて雑味が全くないだけに、トリュフの香りを素直に受け入れます。

コースの特徴

北海道・芽室町オークリーフ牧場のホワイトヴィール(試食、ホテル撮影)
北海道・芽室町オークリーフ牧場のホワイトヴィール(試食、ホテル撮影)

早坂氏はオーストラリアの黒トリュフについて「香りが鮮烈で非常に質が高い。そのため、一皿の食材の数を減らし、トリュフがより主役になるようにバランスを整えた」と話します。

また「トリュフは酸味と合わないと考えているので、このコースでは酸味を排した」と大きな特徴を挙げ、「酸味がないので味わいが平坦になりがちだが、素材の味わいを引き出すようにして、強弱を生み出している。ワインペアリングを合わせれば酸味も加わるので、こちらもお勧めしたい」と論理的に説明します。

トリュフクイーン

オーストラリアの黒トリュフ(著者撮影)
オーストラリアの黒トリュフ(著者撮影)

このフェアの注目点として、オーストラリアトリュフの著名なエキスパートであり、「トリュフクイーン」と呼ばれているレイチェル トレスコット氏が全面協力していることも挙げられます。レイチェル氏はガラディナーにもゲストスピーカーとして参加し、自らがゲストにトリュフを削るなどしていました。

レイチェル氏が尽力しているだけあって、使われているオーストラリアトリュフの質は高いです。ガラディナーの時には、土から掘り出してすぐに空輸していたので、24時間も経過しておらず、実にフレッシュで香りが豊かでした。

オーストラリアはトリュフの産地

オーストラリアはトリュフの生産に適した環境であり、世界で4番目の規模を誇るトリュフの生産地です。しかし、トリュフはフランス料理やイタリア料理の食材という連想があるだけに、ヨーロッパから程遠いオーストラリアで質の高いトリュフが産出されることを知っている日本人は少ないのではないでしょうか。

それだけに、夏でもトリュフをふんだんに使ったおいしいフランス料理を食べられる「オーストラリア産 黒トリュフ プロモーション」はとても訴求力があります。

夏でも訪れてみたくなるフェア

暑い夏にはあまり外に出掛ける気分になれず、ましてや、しっかりとした料理も食べる気にならないものです。しかし、今回紹介したザ・リッツ・カールトン東京のように、14週にも渡って週替りで知的イベントを行っていれば、どれかは興味が持てるものがありますし、日本人が大好きな黒毛和種ブランドの但馬牛と神戸牛をさっぱりと仕上げていれば、スタミナを付けるためにも食べたくなります。オーストラリアの黒トリュフは夏が旬で、この時期にしか食べられないとあれば体験してみたくなるものです。

他のホテルでも、週替りの知的イベント、屈指のブランド牛、限定の高級食材旬を意識すれば、夏にも訪れてみたくなる食フェアとして、多くの人々を引きつけることができるのではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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