間違いだらけの「AI(人工知能)やロボットで消える職業、なくなる仕事」
コンピュータやAI、機械、ロボット……などで、今後多くの職業や仕事が消えてなくなるだろうと言われています。私もIBM「ワトソン」を活用するシステムベンダーと提携し、セミナーなどを開催し続けているので、強く問題意識は持っています。
「将来、数多くの職業や仕事が消える・なくなる」という説は、2013年に発表されたマイケル・オズボーン准教授の研究が発端。その後、AIやロボット技術が発展し、世界各国いろいろな特集が組まれ、その都度この説はアップグレードされてきました。
たとえばよく言われるのが「小売店の販売員」「税理士、会計士」「セールスマン」「スポーツの審判」「データ入力作業員」「一般秘書」「商店レジ打ち係」「コールセンター案内係」「タクシー運転手」……など。
そもそも「消える」「なくなる」とは、「減る」「少なくなる」という意味ではありません。正しい言葉の使い分けが必要です。
たとえばスマートフォンでも高画質な写真を撮影できるようになり、カメラを買う人は減りましたが、カメラが「消える」「なくなる」ことは現時点でなさそうです。今後も「減る」ことはあっても、高性能なカメラは残っていきそうだからです。いっぽうで、デジタルカメラが普及したことで、銀塩フィルムカメラを買う人は愛好家に限られるようになりました。ここまで市場からなくなれば「消える」「なくなる」とも言えるでしょう。
「あなたの仕事は将来なくなる」と言われると、不安度はかなり高くなります。その仕事が好きで、これまで人生を賭けてきた人にとっては絶望的な気持ちになるはずです。しかし「減る」というだけなら希望は持てます。付加価値の高い仕事ができるよう努力しようと考えられるからです。(もし「減る」と言われて絶望的になる人がいるとしたら、仕事のレベルを上げようという気がない人です)
ところで、どんな仕事が「消える」とか「なくなる」と言えるのでしょうか。毎度「AIやロボットで消える職業、なくなる仕事」で候補にあがる仕事をひとつひとつ検証していても意味がありません。なくなってしまうだろう仕事の共通項を明らかにすることが先決です。
今後なくなってしまう仕事、作業に共通していることは、誰がやっても同じようになる「単純作業」です。ただ、この「単純作業」というのがクセモノで、昔から言われている「単純作業」よりも昨今はレベルが高い。
「機械学習」によって可能な作業であれば、もう「単純作業」と言っていいでしょう。あらかじめシナリオ化されているものはもちろん、過去の膨大なデータ、パターンによって将来を予測する処理装置があれば、できてしまう仕事も「単純作業」。
法律事務所において、判例のピックアップ作業は経験の浅い弁護士がします。税理士業界でも、経費計上可否、税務リスクの可能性などのアドバイスは若手の税理士たちの仕事。しかしこれらは「機械学習」するコンピュータがあれば「単純作業」と化します。
「スポーツの審判」も、相手によって臨機応変に態度を変えてはいけない仕事でしょうから、高度なパターン認識技術を搭載したロボットのほうが向いているのかもしれません。
このように作業の相手が「モノ」であったり「情報」であったり「数字」であったり、また、自分自身を感情にとらわれない「モノ化」すべき仕事であれば、AIやロボット技術の進展とともに「消える」「なくなる」はあり得るでしょう。
しかし、相手が「人間」であったらどうか。人間はモノと異なり、その行動や思考のパターンを予測することは極めて困難な存在です。こちらが人間なら「なんとなく」予測できるかもしれませんが、こちらがコンピューターであれば非常に難しい。
「機械学習」レベルではなく、いわゆる「ディープラーニング(深層学習)」でも、現時点の技術レベルであれば、その環境における、その人間の思考パターンを予測することは難しいでしょうし、さらに、こちらが受動的な仕事ならともかく、人間に対して能動的に何かをするというのであれば、さらに困難です。
人間のスキルを「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」が3つあると提唱したのはロバート・カッツで、これを「カッツモデル」と呼びます。
「テクニカルスキル」と「ヒューマンスキル」は、説明不要でしょう。それぞれ、業務を執り行うための知識や技術、そして人間関係を構築する能力のことです。「コンセプチュアルスキル」とは、本質を見極め、現状を分析し問題を解決するためのスキルを言います。
AIやロボットで、そう簡単に補えないのは「カッツモデル」の中の「ヒューマンスキル」です。杓子定規な対応で可能な仕事ならともかく、相手が持っている先入観を取り除いたり、潜在的なニーズを聞き出したり、心を開くよう働きかけるようにする技術は、「人間」しか持ちえません。(当面は)
次の「コンセプチュアルスキル」も同様です。どこかの教科書に載っているような知識を使い、過去データを繋ぎ合わせれば、コンピュータでも概念的に問題の箇所を特定し、解決するための仮説を導き出すことはできるでしょう。しかし、だいたいが「机上の空論」となるのがオチです。
ビジネスの問題は必ず現場で起きています。五感をフル活用し、研ぎ澄まされた感覚で現場を歩いたり、それこそ先述した「ヒューマンスキル」を使って関係者にインタビューなどを重ねることで、物事を俯瞰し、解決の糸口をたぐり寄せることができるのです。
したがって、「テクニカルスキル」に頼った作業はドンドンAIやロボットなどの技術にとって代わる可能性があります。いっぽうで「ヒューマンスキル」や「コンセプチュアルスキル」が必要な仕事、もしくは今のテクニカルな仕事に「ヒューマンスキル」や「コンセプチュアルスキル」という付加価値をつけることで残っていくかもしれません。このことを頭に入れ、気になる職業や仕事はどうなのか、再検証してみる必要があるでしょう。