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楽天イーグルスの「春のホーム」として定着した静岡。「真のフランチャイズ」となる日はやって来るのか

阿佐智ベースボールライター
楽天イーグルスのオープン戦が行われた静岡草薙球場

 今やすっかり楽天の「春のホーム」となった静岡。今年は全ホームゲーム7試合が草薙球場で行われ、6勝1分けで「地元ファン」を喜ばせた。近年、多くの球団がオープン戦のホームゲームのほとんどを本拠地球場で開催し、いわゆる地方巡業が少なくなる中、楽天は、寒冷地の仙台を本拠としていることもあり、温暖な静岡をキャンプ後の主催オープン戦の開催地とし、腰を据えている。この静岡はこれまで度々プロ野球の本拠地の候補としてその名が挙がっている。

実は野球との縁が深い静岡

 静岡といえば、「サッカー処」だ。野球のイメージは薄いが、県内第一の球場である草薙球場は日本野球史のエポックとなる舞台に度々なってきた。

 日本プロ野球草創期の1934年の日米野球では、ベーブ・ルース擁する大リーグ選抜チーム相手に後の読売巨人軍の前身となる全日本軍のエース・沢村栄治が1失点の好投。当時のスタンドは現存していないが、現在のメインスタンド前にはその対決を記念した像が建てられている。

 戦後の1950年に日本のプロ野球は現在まで続く2リーグ制に移行するが、セ・リーグ球団のファームによって結成された新日本リーグに加盟した中日のファーム、「中日ダイヤモンズ」は草薙球場を本拠とした。しかし、これは名目上のものにとどまり、実際には、日々の練習も試合開催も名古屋で主に行われた。

 1960年代から80年代にかけては、現在のDeNAの前身である大洋ホエールズが春のキャンプを草薙球場で行っていた。

 現在のメインスタンドは1973年に竣工するのだが、その翌年にニューヨーク・メッツを迎えて行われた日米野球では、すでに引退を表明していたミスタープロ野球こと長嶋茂雄もこれに参加。ここでその最終戦が行われ、長嶋が最後にプレーした球場としてその名を刻むことにになった。

 その1974年には、本拠地を失ったロッテ・オリオンズが、ここで主催ゲームを14試合実施している。その後も川崎球場を本拠とするまでの4年間、ロッテは草薙球場で度々主催ゲームを行ったが、この時代のロッテが仮の本拠としていたのは、奇しくも現在の楽天と同じ仙台だった。

 1988年からは、シーズンオフに行われていたパ・リーグ東西対抗戦の開催球場となり、以後、最後の開催となる2006年まで17回開催している。恒例行事が行われる場所として「草薙」は野球ファンの間に定着していた。

静岡にプロ野球チームを

 そんな草薙球場擁する静岡にプロ野球(NPB)球団を誘致しようという機運が高まったのは、2004年に巻き起こった「球界再編騒動」の後のことだ。一部球団経営者による球団数削減と1リーグへの統合という目論見は、現場の選手、ファン一丸となった反対運動により撤回され、むしろその後、球界発展のための様々な方策が立ち上げられるのだが、その中で、球団数拡大案ももちあがってきた。その度、新潟、沖縄などとともに静岡もその候補地としてその名が挙がった。

 また、球団の移転が取りざたされた際にも、静岡の名が挙がった。2010年、当時メディア企業TBS傘下にあった横浜ベイスターズの住生活グループへの身売り話が持ち上がった際、球団売却後の移転も議論されたのだが、その移転先の候補として、かつてのキャンプ地でもあった静岡が検討された。

 結局、この身売り話は、球団移転を求める買い手側とそれを拒む売り手側の溝が埋まらず立ち消えになったが、その後、地元静岡で球団誘致の具体的な動きが起こった。

 2012年、静岡市は「プロ野球地元球団創設構想に関する基礎調査」を実施し、その翌13年には、プロ球団誘致成功の暁には、おそらく本拠地球場となるであろう草薙球場のスタンドの全面的改修工事が完了する。これにより、それまで両翼91メートル、中堅115メートルの「昭和規格」だったフィールドは両翼100メートル、中堅122メートルの「国際規格」に拡張された。また、芝生席だった外野スタンドも、ベンチが並ぶものに変えられた。そしてこの年のオフには、12球団合同トライアウトを新装なったこの球場で行い1万人の観衆を集めている。

NPBの本拠地球場と比べても遜色のない草薙球場の外野席
NPBの本拠地球場と比べても遜色のない草薙球場の外野席

 合同トライアウトは2015年まで毎年ここで行われたのだが、この年にはまたもや球団本拠地の移転先として静岡が取りざたされた。

 2020年開催(実際はコロナ禍のため2021年開催)の東京オリンピックに伴う神宮球場の建て替えが表面化すると、新球場に老朽化した東京ドームを本拠とする巨人が進出し、「旧主」であるヤクルトが地方に移転するという話が一部メディアに挙がった。この際も、新たなマーケットを模索していたヤクルトの移転先として静岡の名が挙がった。

 2017年には、若手選手によるオールスター戦、フレッシュスターゲームが草薙球場で行われ1万人の観衆を集めたが、結局、草薙球場はプロ野球チームの本拠となることなく現在に至っている。

楽天の「春のホーム」化

 周知のとおり楽天は、2005年からパ・リーグのペナントレースに参加した新設球団である。寒冷地の仙台を本拠としているため、開幕前のオープン戦をホーム球場の楽天生命パーク宮城で組むのは難しい。球団創設以来今年で18年目となるが、仙台でのオープン戦が組まれたのは2009年の2試合のみである。球団創設当初は、西日本を中心に各地を転戦しオープン戦をこなしていたが、2011年から故・星野仙一氏がチームの指揮を執るようになると、秋季キャンプ地ともなった彼の故郷、岡山県の倉敷マスカットスタジアムでのオープン戦が毎年組まれるようになり、その数は2017年には6試合まで増えていく。この頃、2010年代中盤から楽天は主催オープン戦を特定の場所に腰を据えて行うようになっていった。

 草薙球場に楽天が登場したのは、球団創設の2005年のことである。ただし、この年の楽天の主催オープン戦はゼロ。ビジターチームとして対横浜戦をここで戦っている。

 主催ゲームとしては、翌2006年に2試合が組まれたが、草薙球場は開催地のひとつというに過ぎず、その後10年ほどは毎年のように試合を組むものの、2016年の3試合が最大で、通常1、2試合のみの開催。開催されない年もあった。先述のように2017年は倉敷で6試合が組まれたのに対して草薙では1試合のみ。「春のホーム」の地位は倉敷のものだった。

 しかし、翌2018年には倉敷の3試合に対し、草薙では5試合が組まれ、その地位は逆転する。そして2020年には楽天の主催オープン戦は草薙球場に集約され、この年8試合、昨年は9試合、そして今年も7試合すべてがここで行われるようになった。

 球団創設以来、保護地域である宮城県だけでなく、東北全域をフランチャイズと位置づけ地域密着を図ってきた楽天だが、オープン戦期間は草薙球場に腰を据えることによってプロ野球空白地帯の静岡を「もうひとつの本拠」にしようとしている。今年の静岡でのオープン戦7試合は6勝1分け。試合後の選手のコメントからも「春のホーム」、静岡のファンへの感謝がうかがえた。

球場横の駐車場スペースには楽天名物のフードコーナーも設けられていた。
球場横の駐車場スペースには楽天名物のフードコーナーも設けられていた。

「おらが町のチーム」へのハードルの先にあるもの

 とは言え、楽天はあくまで春限定の「主」。本当の意味での「おらが町のチーム」ではない。そもそもプロ野球の球団数拡大そのものが噂段階からそれ以上の発展を見せていない。また、既存球団の移転も、コロナ禍まで観客動員が右肩上がりだった状況を考えると、考えにくい状況である。

 様々なところから上がってくる球団数拡大の声に対し、球界の少なからぬ者は、プロ野球をビジネスとして成り立たせることができる都市は現状以上には考えられないと口にする。

 100万人というのは、プロ野球球団のフランチャイズ都市としての人口規模の目安としてよく挙げられる数字だ。確かに、半年にわたるシーズン中は毎日のように試合が行われるプロ野球の興行形態を考えると、妥当なところだろう。

静岡市の人口は70万人弱。70キロ離れた県内もうひとつの政令指定都市、浜松までを含めた「大都市圏」では約280万人となるが、これを単一のプロスポーツのマーケットと考えるのには無理がある。サッカー人気が高く、県内にプロサッカーJリーグのチームが4球団もある静岡でプロ野球球団を維持できるかと問われれば、イエスとはなかなか言えないだろう。

 実際、独立リーグの世界では、ルートインBCリーグが、2018年に静岡県への進出を発表したが、その後、浜松を本拠とすると発表した新球団は「準備室」を設置したものの、その後、具体的な球団設立の動きは止まったままになっている。

 また、球場などのインフラの点においてもプロ野球のフランチャイズとしては不安要素が多い。仮にプロ野球を誘致するとなると、その本拠は県都・静岡の草薙球場となるだろうが、その収容人数は現状では約2万人。プロ野球の本拠地球場の目安と言われる、3万人には程遠い。大規模改修を終えたことを考えると、新球場建設は現実的でなく、球場を保有している県もこれ以上の負担はしない旨を宣言している。

改装後は「フィールド席」も設けられたが、NPB球団の招致には内野上層スタンドの設置など、キャパシティを増やす必要がある。
改装後は「フィールド席」も設けられたが、NPB球団の招致には内野上層スタンドの設置など、キャパシティを増やす必要がある。

 また、球場へのアクセスも課題になる。草薙球場へ鉄道で向かうとなると、地方私鉄である静岡鉄道の県総合運動場駅が最寄り駅となるが、通常2両編成で運行されているこの路線では万単位の乗客をさばくのは難しい。球場近くには、大動脈であるJR東海道本線も走っているが、輸送力のあるこの路線の最寄り駅、東静岡駅から球場まではかなり遠い。徒歩20分と広報されているが、実際に歩くと30分ほどかかる。アクセスの悪さと、球場改修の負担を考えると、静岡はプロ野球のフランチャイズとして決して魅力のあるマーケットではない。

 現状においては、楽天の「春のホーム」として野球人気を高め、独立リーグ球団の発足により種を蒔き、時が熟すのを待つというのが、プロ野球フランチャイズシティとしての静岡の青写真ではないだろうか。

 日本のプロ野球の球団数が現在の12になったのは1958年のことである。つまり60年以上球団数は変わっていない。世界的に見れば、プロ野球の行われている国で、球団数の拡大がこれだけ長期間見られないのは日本だけである。メジャーリーグは1960年代以降、1990年代の終わりまでに球団数を倍近くまでに拡大。韓国は6球団でスタートした1982年以降、拡大路線を歩み、現在では10球団までチーム数を増やしている。一時は縮小傾向にあった台湾もここ近年、球団数増加に転じている。メキシコでは、コロナ禍にありながら昨年球団数を2つ増やした。各国のウィンターリーグも近年、球団数拡大傾向にある。他のプロスポーツ、エンタテインメント産業との競争の中、世界各国のプロ野球リーグはチーム数拡大という攻めの運営を選択しているようだ。

 「春のホーム」から「おらが町の球団」へ。静岡の野球シーンが変わるとき、それはプロ野球界にさらなる発展が訪れるときではないだろうか。

7月にはBIG BOSS率いる日本ハムが楽天を迎えて公式戦を行う。
7月にはBIG BOSS率いる日本ハムが楽天を迎えて公式戦を行う。

(写真は筆者撮影)

ベースボールライター

これまで、190か国を訪ね歩き、22か国でプロ、あるいはプロに準ずるリーグの野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当、WBC2017年大会ぴあのガイドの各国紹介を担当した。国内野球についても、プロから独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。

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