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右ひざの大ケガを乗り越え関取復帰の若隆景「自分一人じゃ相撲は取れない」大相撲3月場所での活躍も期待

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
大相撲3月場所で再十両が決まった荒汐部屋の若隆景(写真:筆者撮影)

大相撲初場所で見事幕下優勝を果たし、3月の大阪場所から関取復帰が決まった、元関脇の若隆景。昨年3月に右ひざの大ケガを負って長期離脱。ケガからの復帰の一途と当時の心境を伺った。人気力士の復活。1年ぶりに関取として上がる土俵へ向けた意気込みも語っていただく。

ひざから「バキバキと音が」復帰の一途を振り返る

――昨年3月、大阪場所13日目の琴ノ若戦で、右ひざ靱帯損傷などの大ケガを負いました。あの一番での膝の状況はどうだったのでしょうか。

「一番目の相撲で、完璧にやったなという感じでした。バキバキ、みたいな音が聞こえたし、立ったときに膝がグラグラしていましたから。物言いがついて、取り直しはないかなと思っていたんですが、説明を聞いたら取り直しだったので、もう一番やるしかないなと」

――そんな状態で再度土俵に上がる精神力。普通では考えられないです。

「土俵に上がったからには、お客さんに変な姿を見せられない、しっかりいい相撲を取ろうという気持ちでした。アドレナリンも出ていましたので。取組が終わって花道を下がってから、徐々に痛みが出てきた感じですね」

――その後、復帰まではどんな過程でしたか。

「まずは前十字靭帯の再建手術を受けて、しっかり治していきました。術後、病院でリハビリをしますが、最初は座ったまま脚を上げる練習から始まりました。足をつけるようになってからは、松葉杖を使った歩行練習。松葉杖なしで歩けるようになるまで1ヵ月くらいかかったかな。その頃はまだ四股も踏んではいけない時期だったので、下半身が動かせない間は上半身のトレーニングをするなど、ほとんど毎日リハビリやトレーニングに通っていました。まわしをつけて四股を踏めるようになったのは、術後2~3ヵ月。最初は体重をかけないように、徐々に慣らしながらの四股でした。ちょうど名古屋場所の頃には、稽古場でまわしを締め始めて。6月の合宿には行けなかったけど、8月の福島合宿はリハビリがてら参加できました」

――復帰の見通しが立ったのはその頃でしたか。

「もちろん、師匠やお医者さんとの相談もあり、自分一人では決められないことだったんですが、なんとか九州場所くらいには出たいという気持ちはありました」

ケガの経験は「よくなかったけど、糧になる」

――休場している間、焦りなどはありましたか。

「もちろん、なくはなかったんですが、それでも一つ一つ積み重ねて、ある程度相撲を取れるようになった。またここでケガしたら、いままでやってきたことがチャラになってしまうので、少しずつ目の前のことをやっていこうと思っていました」

――この1年間、相撲に対する姿勢や考え方など、変わったことはありましたか。

「やっぱりいろいろと考える時間はたくさんあったので、自分一人じゃ相撲を取れないってことを強く思いましたね。周りの人たちがいるから相撲を取れる。そういうことを感じました。あとは、本場所の相撲を、自分だったらどう取ろうかと思いながら見ていました」

――本場所も見ていたんですね。

「全部見たわけじゃないんですが、たまに見て、イメージトレーニングをするのは大事だと思っていますね。精神的成長は、自分でははっきりとはわかりませんし、ケガをしたこと自体はよくないことだったけど、自分の相撲人生において、こういう経験ができたことは糧になるんじゃないかなと感じています」

――復帰となった昨年の九州場所。久しぶりに立った土俵はいかがでしたか。

「多少は緊張もありました。でも、大きな声援が聞こえたので、そういうものを糧にして、期待に応えたいと思いました。序盤は特に内容があまりよくなかったかなと思いますが、ケガなく終えることができた上で5番勝てた。いまとなってはよかったと思います。そこから先場所にかけて、調子は徐々に上がってきたかなと」

――復帰2場所目となった先の初場所では、見事全勝で幕下優勝となりました。見ていて余裕だなと感じましたが、ご自身で印象的な取組はありましたか。

「千代栄戦です。久々に大銀杏を結って土俵に上がって、気が引き締まるというか、そういう気持ちになりました。最後も(全勝で終えられて)結果としてはよかったんじゃないかなと思います。自分でどの程度力が戻ってきているかは、番付もまだ幕下なのでわからないですけど、これから来場所以降15日間相撲を取るので、また稽古して体を作って、万全の状態で臨みたいです」

ケガによって「前に出る意識がより強くなった」

――来場所からは、もう一度大銀杏を結って15日間土俵に上がります。

「久々に15日間取るので、自分の相撲を一番一番出していけたらなと思います。やっぱり7日間と15日間では違うと思いますね。明日(取組が)あったりなかったりで、7日間だと違和感があるというか。やはり15日間相撲を取れることはうれしいですね」

――対戦してみたい人はいますか。

「特に考えていません。自分がいた頃の十両とはまた違う人たちだと思いますし、相手がどうこうというより、自分の相撲に集中しようと思っています」

――若隆景関のファンを公言している一山本関とも、今後対戦する可能性があります。

「いや、そこも特に…自分の相撲を取るだけですね(苦笑)」

――一山本関は、若隆景関といつか対戦するのが目標だとおっしゃっていました。

「いや、俺のほうが番付下がっているんだから、“目標”ではないでしょ!(笑)」

――(笑)。ファンの皆さんはもちろん、ご家族も関取の復帰を喜んでいると思います。お子さんたちは、もうお父さんが力士として頑張っていることを理解していますか。

「はい、わかっていますね。関取に復帰したということはいまいちわからないと思うけど、この間幕下優勝したことはわかっているので、それは喜んでいるんじゃないかなと思います」

――来場所に向けて、現在の稽古はいかがですか。

「番数はそこまでこなしていませんが、若元春との稽古も再開して、いい稽古ができていると思います」

――大阪場所の目標は。

「一番一番、自分の相撲を取り切ること。いま自分ができることを精一杯ぶつけていきたいです。ケガしたことで相撲のスタイルが変わることはないですが、押し込まれて後ろに下がったり、変に残そうと踏ん張ったりしたら膝に負担がかかると思うので、前に出る意識はより強くなったと思います。下がって何かをしようというよりも、前に出ようという意識で、稽古場から取っています」

――では、より磨きのかかったいい相撲が見られそうですね。

「そうできたらいいですね。頑張ります」

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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