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大相撲5月場所で活躍の平戸海「朝青龍関の気合と千代の富士関のスピード」を手本にさらなる高みへ

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
初めて筆者のインタビューに応えてくれた境川部屋の平戸海(写真:すべて筆者撮影)

大相撲5月場所では、自身最高位の前頭2枚目で9勝を挙げた平戸海。来月の名古屋場所では、ついに新三役の可能性も見えてきた。これで4場所連続の勝ち越しをマーク。着実に番付を上げてきた24歳が、さらなる進化を遂げる理由はどこにあるのか。本人にインタビューを行った。

「気持ちが強くない」謙遜するも好調の5月場所

――5月場所前の様子はいかがでしたか。

「稽古はしっかりできていましたし、調子もよかったと思います。プレッシャーはないんですけど、気持ちがあまり強くないので、勝ち越せるかなって、不安はありました」

――しかし、初日から貴景勝関に勝利。会心の相撲でした。

「自分でもびっくりしました。体格も違うので、まずしっかり当たることだけ考えていきました。よかったと思います」

――9日目の大の里関戦もとてもいい相撲でしたね。

「貴景勝関のときと一緒で集中できたのか、自分の体が勝手に動いた感じで、びっくりしました。うわ、勝った!って。今場所は最初から、体が動かないことがなくて、勝ち越せるなと思っていました」

――終盤戦は5連勝で場所を終え、9勝6敗としました。最後に追い上げられた要因はなんでしたか。

「序盤戦は、負けられない、負けちゃダメだと思いながら相撲を取っていたんですが、途中からは何も考えずに、動きに任せていったのがよかったかなと思います。気持ちが安定しないというか、マイナスに考えてしまうことが多いので、そこを直したいです」

――見ていて、気持ちが強くないとは思わないんですが、自分のなかで途中で気持ちが吹っ切れた理由は。

「わからないですけど、動けているなと思えたことと、大の里関に勝ったことで立て直せた可能性はありますね。でも、一番うれしかったのは貴景勝関戦でした。大関に勝てたのはうれしいです」

――これで自身初の4場所連勝で勝ち越しです。好調の要因は。

「やっぱり稽古ですかね。先場所は師匠に春日野部屋に連れて行っていただきました。あとは巡業に行っていろんな人と稽古して、大関にも胸を出してもらって、そういうところで経験を積んで、少しずつ成長してきたのかなと思います」

――最近の稽古のテーマはなんですか。

「前に出る力をつけることです。上に上がるためには、もっとつけないといけません。稽古場から、一番一番意識すること。この体で強くなっていくためには、課題もまだまだたくさんあります。師匠にも、体が小さいので頭をつけろと言われていて、そうやって師匠に教えていただくことを稽古場から実践しながら力をつけていきたいです。理想は、立ち合いで先に当たって、中に入って押していく、貴景勝関に勝ったときのような相撲です」

「前に出る力をもっとつけたい」と話す平戸海。師匠の境川親方からのアドバイスを聞きながら稽古に励む
「前に出る力をもっとつけたい」と話す平戸海。師匠の境川親方からのアドバイスを聞きながら稽古に励む

――真似したい人、あこがれのお相撲さんはいますか。

「気合の面で言うと、小学生の頃から朝青龍関が好きで、カッコいいなと思いながら見ていましたね。あと、真似したいのは、千代の富士関のスピード。自分も体が小さいので、スピードは大事です。時折、こうして研究のために昔の相撲の動画を見ています」

陰の努力は「周りに差をつけられたくないから」

――空手や野球、バレーボールなど、いろんなスポーツ経験のある関取。なかでも相撲を選んだ理由は。

「ほかの人より体が大きく、結果が一番出ていたのが相撲だったからです。ひとつ上の先輩のお父さんが、体が大きいから相撲をやらないかと誘ってくれました。バレーボールは遊び感覚でやっていたので楽しかったけど、相撲を選んでよかったです。当時から、勝ったときのうれしさはありました」

――ようやくコロナ禍が明け、地元・平戸には帰られましたか。

「2年前に久しぶりに帰ったのと、去年の九州場所の後にも帰りました。行く先々で知ってくれている人がいて、地元の皆さんにすごく応援していただいているんだなと思ってうれしかったです。あまり休みはなかったですけど(笑)、ありがたいことですね。家族とも一緒にゆっくりごはんを食べました。4人きょうだいの一番上なんですが、一番下の弟は15歳差なので、いま9歳。かわいいです(照)。帰ったら一緒にゲームをします」

――以前、お母さまに取材したとき、関取は昔から陰で努力できる子だったという話が印象的でした。自分に厳しく努力できる、その秘訣はなんですか。

「無意識でやっています。じっとしていたらみんなに先を越されてしまうと思うと、動かずにはいられないんです。中学生のときは、いい体になりたくて頑張っていましたが、努力しないと差をつけられてしまうと思うと、自然に頑張れます」

取材日もしっかりと稽古に励んだ平戸海。関取になっても、泥だらけになるまで転がされて汗を流す姿が印象的だった
取材日もしっかりと稽古に励んだ平戸海。関取になっても、泥だらけになるまで転がされて汗を流す姿が印象的だった

――ご自身で課題だとおっしゃった、気持ちの面で工夫していることは。

「場所が始まったら、一日中気が張っています。たまに眠れないときは、焼酎を飲んで切り替える日もあります。錦木関のようには飲めませんけどね(笑)」

――意外な切り替え方法です!最後に、次の名古屋場所では新三役も見えてきました。今後の目標をお聞かせください。

「まだ番付発表にならないとわかりませんが、(新三役が)決まったらうれしいです。どの地位であっても、まずは勝ち越すこと。それだけです。これからは、下の子たちに憧れてもらえるような力士になっていきたいと思っています」

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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