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モンキー・パンチ氏の故郷・北海道浜中町:聖地巡礼ブームとは違った「ルパン三世」との歩みとは

小新井涼アニメウォッチャー
「ルパン三世フェスティバルin浜中町」にて(筆者撮影)

「ルパン三世」の聖地と聞くと、直近のテレビシリーズ「Part.5」の舞台となったフランスや「Part.4」のイタリア、または「カリオストロの城」で描かれる風景などから”ヨーロッパのどこかの国”といったイメージが思い浮かぶかもしれません。

ところがここ日本にも、この10年ほどの間に作品ファンの間に浸透していった「ルパン三世」の聖地があります。

「ルパン三世」の原作者モンキー・パンチ氏の故郷、北海道・浜中町です。

◆浜中町はどんな町?

霧多布の湿原地帯(筆者撮影)
霧多布の湿原地帯(筆者撮影)

馴染みのない人にとっては、浜中町と聞いてすぐに場所を思い浮かべるのは難しいと思います。

北海道の道東・厚岸郡、北海道を菱形で考えると右半分の真ん中下にある釧路と、菱形の右端にあたる根室との丁度中間あたりに位置する町です。(外部リンク:Googlemap

霧多布湿原や漁業が盛んな沿岸地帯、酪農が盛んな牧場地帯といった豊かな自然が特徴で、ハーゲンダッツの原料として使われてる牛乳や、地元の昆布だけ食べて育ったウニ等の名産品も多数あります。

◆聖地としての浜中町とルパン三世との関係

「霧のエリューシヴ」で登場する岬の灯台のモデル地(筆者撮影)
「霧のエリューシヴ」で登場する岬の灯台のモデル地(筆者撮影)

そんな浜中町が「ルパン三世」の聖地としてファンの間に浸透してきた経緯は、一体どのようなものだったのでしょうか。

アニメの聖地と聞くと、「らき☆すた」の埼玉県幸手市・旧鷲宮町や、「君の名は。」の新宿や飛騨高山といった”アニメの舞台になった場所”という印象が強いと思います。

確かに浜中町も、2007年放送のテレビスペシャル「ルパン三世 霧のエリューシヴ」でアニメの舞台になりましたが、聖地としてルパンファンに認識される一番のきっかけは、”原作者モンキー・パンチ氏の故郷”というイメージでした。

「ルパン三世」の聖地としての浜中町は、「ゲゲゲの鬼太郎」の作者・水木しげる氏の鳥取県境港市や、「サイボーグ009」の作者・石ノ森章太郎氏の宮城県石巻市に近い、”作者とゆかりのある場所”として知られてきたと言えます。

◆聖地巡礼ブームとは別の歩み

”作者とゆかりのある場所”として知られるようになった浜中町が「ルパン三世」の聖地としてファンの間で浸透していくまでには、2000年代後半以降の聖地巡礼ブームを代表する、上記の「らき☆すた」や「君の名は。」とは違った過程を歩んできました。

”アニメの舞台になった場所”は、その多くが、アニメを見たファンが自発的にその場所を探し出して訪れることで聖地になるため、地域側が伝えずとも、ファンは最初からその場所が作品の聖地であることを認識できています。

しかし”作者とゆかりのある場所”にはそういった過程がないため、作品のファンが聖地として認識するには、地域側からの継続的な周知が必要になってくるのです。

また、”アニメの舞台になった場所”は、たとえそこに作品にまつわるグッズや施設がなくても、その場所を訪れて、アニメに出てきた景色をみるだけで作品の世界観を味わうことができます。

しかし”作者とゆかりのある場所”では、記念館や看板、グッズといった作品関連のアプローチがない限り、略歴しか知りえない作者の出身地で、作品の世界観を味わうことはなかなか難しいのです。

◆浜中町の取り組み

ラッピングトレイン(筆者撮影)
ラッピングトレイン(筆者撮影)
仮装店舗(筆者撮影)
仮装店舗(筆者撮影)

こうした理由もあって、浜中町ではこれまでに地域による継続的な取り組みが長期に渡って行われてきました。

その一例として、浜中町は「ルパン三世はまなか宝島プラン」という事業を2011年から続けています。

(外部サイト:北海道浜中町・ルパン三世-宝島プラン

主な内容は地域限定のグッズの発売、ラッピングトレイン・バス・ハイヤーの運行、看板や仮装店舗の設置、モンキー・パンチミュージアムの開設などです。

その他にも、ルパン三世役の栗田貫一氏をはじめとする声優陣や、中谷敏夫プロデューサーなどの「ルパン三世」製作スタッフが毎年参加する「ルパン三世フェスティバル」も開催されてきました。

”アニメの舞台になった場所”のような、分かりやすいランドマークが無い中で行われてきたこれらの取り組みは、事業開始から8年が経った今も、モンキー・パンチ氏や「ルパン三世」をリスペクトする地域の人々と、取り組みに関わる中で浜中町に愛着を抱いてくれた「ルパン三世」製作関係者によって継続されています。

◆8年の変遷

それでも、浜中町が作品ファンの間で「ルパン三世」の聖地として浸透するまでには長い月日を必要としてきました。

それには前述した通り、”アニメの舞台になった場所”ではないことや、首都圏だけでなく、同じ道内からでも日帰りが難しいといったアクセス面の問題で、ファンが頻繁には通えないといった事情なども関係していると思われます。

しかしこの8年間、継続的に「ルパン三世」の聖地としての取り組みを続けてきた結果、町にはモンキー・パンチ氏や「ルパン三世」の世界観を感じられるスポットが多数生まれ、年に1度の「ルパン三世フェスティバル」も、町の人口の2倍にもなる大勢の人々が集まるほどに成長しました。

このように長期的な取り組みが続けられるのは、原作誕生から50年が過ぎた今も愛され続け、現役で最新シリーズが生まれ続けている「ルパン三世」というコンテンツの特殊性も関係しているのでしょう。

モンキー・パンチコレクション(筆者撮影)
モンキー・パンチコレクション(筆者撮影)

◆憩いの場としての作品ファンの聖地

こうした浜中町の取り組みには、「アニメの聖地は作品やファンが自然と作り上げていくものであって、地域側が意図的に作るものではない」という批判的な見方も出てくるかと思います。

確かに、それまで作品と縁の薄かった地域から突然”「ルパン三世」の聖地です”と言われても、すぐには受け入れられない人も多いことでしょう。

しかし、当初はそうした見方もあったものの、こうした取り組みを長年続けてきた結果、全国各地から毎年のように浜中町を訪れてくれる「ルパン三世」ファンの数は、確実に増えてきています。

昨年の「ルパン三世フェスティバル」では、北海道胆振東部地震に伴いスペシャルトークショーが中止になったにもかかわらず、町が展示やグッズ販売といった「ルパンフェス」そのものは実施してくれるとのことで、復旧したばかりの公共交通機関を使って町を訪れるファンの姿が多数見受けられました。

訪れたファンはそこで、イベントだけでなく、町で出会った他の作品ファンや町の人たちとの「ルパン三世」を通じた交流を各々楽しんでいたのです。

「ルパン三世フェスティバルin浜中町~モンキー・パンチ・スペシャル」にて(筆者撮影)
「ルパン三世フェスティバルin浜中町~モンキー・パンチ・スペシャル」にて(筆者撮影)

今年4月のモンキー・パンチ氏ご逝去を経て、先日開催された「ルパン三世フェスティバルin浜中町~モンキー・パンチ・スペシャル」のスペシャルトークショーでは、浜中町でルパンをきっかけに集まることが「まるで年に一度の同窓会のよう」と例えられていました。

そうした言葉や、作品ファンや地域の人達が「ルパン三世」をきっかけに集まり、作品を通して一緒に過ごす時間を楽しんでいる姿からは、”アニメの舞台になった場所”と少し毛色は違うかもしれませんが、浜中町が”作品ファンの憩いの場としての聖地”となっているのを感じることができます。

そもそもこうした取り組みは、まだ全国的には知名度が低かった浜中町を”「ルパン三世」をきっかけに知ってもらえたら”というモンキー・パンチ氏の想いもあって始まったことだそうです。

こうして8年の年月をかけて、聖地巡礼ブームとは違う形でファンの間に「ルパン三世」の聖地として浜中町の存在が浸透してきたのは、そうしたモンキー・パンチ氏の願いが、ひとつの形として実を結んだ結果でもあるのだと思います。

◆「ルパン三世フェスティバルin浜中町~モンキー・パンチ・スペシャル」

2019年8月31日(土)~9月29日(日)まで開催中。

詳細情報→浜中町商工会Twitter(外部リンク)

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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