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サウジにインドに韓国、相次ぐアニメ国際共同制/製作とその背景

小新井涼アニメウォッチャー
アニメ「アサティール2 未来の昔ばなし」プレミア試写会会場(筆者撮影)

日本と海外のスタジオによるアニメの国際共同制/製作に関するニュースが、先週だけで3件と短期間に相次ぎ、注目を集めました。

今、こうしてアニメの国際共同制/製作が頻繁に行われる背景には、一体何があるのでしょうか。

先週発表された3件のニュース―インド・韓国・サウジアラビアとの共同制/製作―それぞれの概要をまとめると共に、考察してみます。

1.「おぼっちゃまくん」新作アニメをインドと国際共同制作

ひとつめのニュースは、懐かしのタイトル「おぼっちゃまくん」の新作アニメが、インドと国際共同制作されるというもの。

「クレヨンしんちゃん」や「ドラえもん」等でお馴染みの日本のアニメスタジオ・シンエイ動画と、インドのグリーン・ゴールド・アニメーションが共同で制作し、来年2025年からインド全土での放送が予定されているそうです。

令和に「おぼっちゃまくん」のアニメが新たに製作されることに加え、新作が熱望されるほど本作がインドで大人気なことへの驚きからも、日本国内で話題となりました。

近年は、夏クールに放送された「グレンダイザーU」や、昨年製作が発表された「花の子ルンルン」の新作など、海外での人気や知名度を基に、懐かしいタイトルの新作アニメが作られる機会も増えてきています。

加えて今回の「おぼっちゃまくん」では、シナリオ等を日本のスタジオが、アニメ制作をインドのスタジオが担う形での日印共同制作でもあるということで、そこで蓄積されるノウハウが今後の国際共同制作の可能性をどう広げていくのかにも注目です。

2.日本のアニメスタジオが韓国のスタジオと業務提携契約を締結

ふたつめのニュースは、「BLEACH」や「NARUTO -ナルト-」「BORUTO-ボルト-」シリーズでもお馴染みのアニメスタジオ・ぴえろが、韓国のアニメーション制作会社Red Dog Culture Houseと業務提携契約を締結したというもの。

今後は両スタジオによる日本の漫画や韓国のウェブトゥーンのアニメ化も検討しており、最初のプロジェクトとして、Red Dog Culture Houseが展開するウェブトゥーン「異世界剣王生存記(邦題)」のアニメ化も既に決定してるそうです。

日本のスタジオによって制作された「神之塔 -Tower of God-」や「喧嘩独学」、韓国のスタジオでアニメ化され日本でも配信された「外見至上主義」等、近年ウェブトゥーン原作のアニメは、日本国内でも存在感を増してきています。

そんなウェブトゥーンや日本の漫画が、今後日韓の両スタジオによりどう手掛けられ展開していくのか、その制作体制や各国でのローカライズ、作品のリリース方法なども含め、注目が集まります。

3.サウジアラビアと日本の共同制作アニメが日本で放送開始

最後のニュースは、サウジアラビアのIPマネジメント兼、制作配給会社であるマンガプロダクションズと日本の東映アニメーションが共同制作したアニメ「アサティール2 未来の昔ばなし」のプレミア試写会が東京で開催されたというもの。

本作は日本でも、11月3日からテレ東系列にて既に放送が開始されています。

東京・六本木で行われたプレミア試写会会場(筆者撮影)
東京・六本木で行われたプレミア試写会会場(筆者撮影)

本作はシーズン1に引き続き、マンガプロダクションズと東映アニメーションによる共同制作が行われており、シーズン2では話数によってサウジアラビアのスタッフがディレクターを務める話もあるとのこと。

マンガプロダクションズCEOのコメントにもある通り、日本との共同制作を続ける中でサウジアラビアのクリエイター達が力をつけ、制作への参加の割合が増えてきていることも窺えます。

また本作は、そうして共同制作された作品を、世界はもちろん、いかに日本のアニメファンにも届けるか、そのリリース方法にも注力されている点が特徴です。

今回プレミア試写が東京で開催されたことに加え、子供やファミリー層までが楽しめる本作の作風に合わせ、深夜アニメや配信メインではなく、テレビ東京系列で日曜朝の時間帯に放送が行われていることからも、そのこだわりが感じられます。

■国際共同制/製作盛り上がりの背景

実は、こうした日本と海外のスタジオによるアニメの共同制/製作自体はこれまでにも幾度となく行われてきており、アニメ・特撮研究家の氷川竜介氏が著作で指摘している通り、過去1980年代には海外合作が多く行われた時期などもありました。

  • 事例:フランス・韓国・日本が共同制作した「ミラキュラス レディバグ&シャノワール」

そんな中、今になって改めて国際共同制/製作が増加してきている背景としては、たとえば以下の2点などが考えられます。

ひとつは、通信インフラの発達等によって制/製作時における共同作業のハードルが従来よりも下がってきていること。もうひとつは、製作した作品を各国でドメスティックに展開するのではなく、今やネットを通してボーダレスに作品を楽しむ世界中のアニメファンに向けて、グローバルに展開していくことが可能になったことです。

世界でのアニメ人気はもはや日本国内でも広く知れ渡っていますが、〈日本で制/製作された作品が海外で流通し人気を得る〉のともまた違う、今回のような〈作品制/製作から日本と海外で行われる〉国際共同制/製作が今後どのように行われ、どんな作品が生まれるのか。

今回紹介した作品達への反響含め、これからも益々注目が集まっていきそうです。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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