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ウーバー車の死亡事故はなぜ起きた? 米運輸安全委員会の調査結果で明らかに

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
写真出典:米運輸安全委員会(NTSB)

 米ウーバーテクノロジーズの自動運転車が2018年に起こした歩行者死亡事故についての調査結果を米運輸安全委員会(NTSB)が2019年11月19日に公表した。この中でNTSBは、事故はウーバーの「不十分な安全文化」に起因すると結論付けている。

5.6秒前に検知も歩行者と認識せず

 事故は2018年3月18日夜にアリゾナ州テンピで起きた。試験走行をしていたウーバーの車両が、自転車を押して道路を横断していた女性をはねて死亡させた。運転席にはオペレーターがいたが、車両は自動運転システムで走行中。時速63キロメートルで女性にぶつかった。

 システムは衝突の5.6秒前に女性を障害物として検知し、その動きを追っていた。しかし、それが歩行者だと正確に認識することはできず、進路の予測もできなかった。

 ウーバーは、スウェーデンのボルボ・カーズが製造したSUV「XC90」に自社システムを組み込んだ車両で試験走行していたが、このボルボ車に搭載の衝突警告システムや自動非常ブレーキシステムは解除されていたという。

直接的な原因はオペレーターの怠慢だった

 NTSBは、この事故の直接的な原因は、運転席にいたオペレーターの職務怠慢だと報告している。オペレーターは、道路状況や自動運転システムを注意深く監視していなければならなかったが、走行中は終始、自分の携帯電話に視覚的に気を取られていたという。

 オペレーターが注意を払っていれば、歩行者をいち早く発見し衝突を回避できた、あるいは衝突の影響を軽減できたと指摘している。

すべてはウーバーの「不十分な安全文化」に起因

 一方で、NTSBは、ウーバーによるオペレーターの監視体制やオペレーターの自動運転システムに対する過信に対処できなかった管理体制、不十分な安全リスク評価が事故の一因になったとも指摘している。

 例えば、ウーバーはオペレーターの業務状況を記録動画で監視できるシステムを持っている。しかし、それを確認することはあまりなかったという。オペレーターを2人体制にしなかったことも事態を悪化させた要因だとしている。そして、この事故は、すべてがウーバーの「不十分な安全文化」によって生じたと結論付けている。

 NTSBのサムウォルト委員長は、「安全を最優先しない組織の、意思決定と行動の積み重なりの末に事故は起きた」と批判している。

 ウーバーの自動運転技術開発部門「アドバンスト・テクノロジーズ・グループ(ATG)」は事故の後、しばらく公道走行試験を中止していたが、ソフトウエアを改修するなどして安全性を高め、2018年12月にペンシルベニア州ピッツバーグで再開した。

 NTSBによると、同ATG部門は、これまでに見つかった不備の解消に取り組み、安全管理システムなどを導入したという。

 NTSBは、同ATG部門や米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)、アリゾナ州政府、米自動車管理者協会(AAMVA)に対し、今回の調査結果を踏まえた是正を求める勧告を出している。

  • (このコラムは「JBpress」2019年11月21日号に掲載された記事をもとに、その後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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